復讐②(郷田智)
上級生は一通り訓練が終わってそれぞれ自主練を始めた。
それからしばらくして、遠くの方でひとり球拾いに夢中になっていた大城が戻ってきて部室近くのベンチにすとんと座った。
汗だらだらでベンチの背にもたれかかって上をぼーっと見上げてもうヘトヘトって感じだ。
きっと喉も乾いているだろう。
ドッキリを仕掛けるなら今がチャンス!
俺は薄桃色した水が入った1.5リットルのペットボトルを握りしめ大城のもとへ近づいた。
「よう、おおしろ……」
話しかけようとして言葉に詰まってしまった。
なぜなら大股開きでベンチに腰掛けた大城の股間にある2つの大きな丸いふくらみが目に入ったからだ!
(で、でかい!!!)
一瞬ひるんだが、俺はそれがすぐにフェイクだと見抜いた。
「大城おおおおおおおっ!!!」
怒鳴りながら近づくと大城はびくっとして目を丸くしてこっちを見てきた。
「テメェ、バカヤロウ!! どこに球いれて持ち歩いてんだあああ!!!」
俺はペットボトルを地面に落とし、座っている大城のベルトを左手でぐっと掴んで持ち上げた。そしてもう片方の手をぐいっとパンツの中に突っ込んで2つのボールを取り出すと、左手を離して大城をベンチに座らせた。
「なっ、なにするんだっ―――」
「クソがああああああ!! これは部活のみんなで使う大切な道具だろうがあああああ!! 何を考えてるんだお前はああああ!!」
「ボ、ボールの数が多すぎて、両手だけじゃ持てなかったんだおおお!!!」
「うそつけええ!!!」
「うそついてないいいい!!」
「だったらなんで2つしか入れてねんだよ? ぁあ!? 入れようと思えばもっと入れられるだろうがあああ!!」
片手に握った2つの球を大城に見せつけるようにして詰め寄ってやると、大城は立ち上がって反論した。
「あまり詰めこみすぎると歩きにくくなるんだあああ!!」
「うそつけええ!!! タマがでっかくなっちゃったとか思って楽しんでいたんだろおお!!?」
顔を近づけてにらみを利かせてやった、すると大城は悔しそうな顔をして「くっ……、何も知らないくせに……」と吐き捨てスタスタと歩いて行ってしまった。
「おい、待て!! どこに行く!? 話はまだ終わってねえぞ!!」
俺の言葉を無視してどこかへ歩いて行こうとする大城。
彼の後ろ姿を見ていたらあることに気が付いた。
ケツのところがぷっくりと丸く膨らんでいたのだ。
(うんこか!?)
(まさかもらしたのか!?)
目を凝らしてよく見た。
(いや、あれはうんこじゃない。あの形は野救のボールだ!!)
(あの状態でベンチに座っていたというのか!?)
(パンツの中に3つ入れていた!?)
(ということは大城の言っていたことは本当だったって事か!?)
(あいつ……)
「おい! 大城!」
大声で呼んでも彼は無視して歩き続けた。
しかたがないからペットボトルを持って追いかけていって肩をつかんだ。
「おい、待てって言ってんだろ!」
すると大城は立ち止まったが不服そうな顔で俺を見てきた。
「俺も言い過ぎた。悪かったな」
まだ大城はムスッとしている。
「これやるよ」
ペットボトルを差し出すと大城は少し戸惑ったような顔をしたが素直に受け取ってくれた。
「なんすかこれ?」
「水だ」
「水?」
「ああ。いっぱい球拾いして喉乾いただろ?」
「はい、喉乾いてました。ありがとうございます。やった」
すぐに表情が柔らかくなった。(わかりやすいやつだ)
「キャプテンがものをくれるって珍しいすね。こんなにいっぱいの水。全部俺が飲んでいいんすか?」
「いいってことよ」
「いぇ~い!」
ペットボトルの中に入った薄桃色の水をみて「きれいっすね」と嬉しそうに目を輝かせる大城。
(こいつのこんな嬉しそうな顔はじめて見たぜ。ちょろすぎ。こんなんだったら最初から食べ物で釣れたじゃねえか)
大城は嬉しそうにペットボトルのキャップを回してあけた。
「いただきます!」
(へっへっへっ、バカめ。塩水とも知らずに)
大城は両手でペットボトルを構えるとゴクゴクゴクと豪快に飲みだした。
(ぎゃははは、きっとおえええええって言って吐き出すぞ、ぐへへへへ)
まだゴクゴクゴクと飲んでいる。
(あれ、まだか?)
まだゴクゴクゴクと飲んでいる。
(え……?)
ゴクゴクゴク。
(……)
ゴクゴクゴクゴクブバアアッッ! シャアアアアアアアーッ!!!!
とつぜん大城が吹き出した!
(お! 気づいたか!?)
ゴホッ!! ガハッ!! グヘッ!! グフッ!! ビシャアアアアアアアアーッ!! ゴホッ!! ゴホッ!! ゴホッ!! ブシャアアアアアアーッ!!! グフッ!! ガハッ!! ゴホッ!! ゴホッ!! ゴホンッ!!
大城はむせて地面に水を噴射した。
(……)
しょっぱい事に気付いて驚いて吐き出したのかと思ったが、どうやらただ一気飲みしたせいで変なところに入れて咳き込んだだけらしい。
大城は口元についた水を手の甲で拭い取るとペットボトルを両手でつかんでまた飲みはじめた。
ゴクゴクゴクゴクゴク。
大城の動くのどぼとけに汗がきらりと光った。すごく爽やかでまるで飲料水のテレビコマーシャルでも観ているようだ。
「プハーーーーッ!! あーっ、おいしかった!!」
結局ぜんぶ飲み干してしまった。
「よかったな……」
(どういうことだ? 塩を入れる量が少なすぎたか?)
「その空のペットボトルよこせ。俺が捨てといてやる」
「あざっす」
大城から受け取ったペットボトルの底にほんの少しだけ水滴が残っていたのでボトルを振って飲んでみた。
「うわ、まずっ」
(ほんのり塩味のついた生ぬるい水だ。くそっ、塩の量が少なすぎたな)
「キャプテンも喉乾いていたんすか?」
「いや、どんな味だったのかちょっと気になって確かめただけだ。それより、お前が今ケツに挟んでいるそれ……」
「ケツ? ……あっ!? これはっ――!」
「カゴに戻すときはちゃんときれいに洗ってから戻せよ。みんなが使うものだからな。じゃあな」
ベンチに戻ろうと歩いていると「キャプテン!」と大城に呼び止められ振り向いた。
「ん、なんだ?」
「いや……なんでもないっす……」
「ハハッ、何でもないなら呼ぶなよ」
「なんとなく……。呼んでみたくなって……」
「ハハッ、何言ってんだバカ。 じゃあな!」
「はい……」
こうして俺の渾身のドッキリは失敗に終わってしまった。




