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復讐(郷田智)

 幼馴染の九条紬(ムギちゃん)に部活の生意気な後輩の話をしたら後日、廊下に呼び出されて小瓶に入った白色のあやしい粉を手渡された。


 これは何なんだときくと、犬塩(ドッグソルト)だとムギちゃんは言った。


 犬塩(ドッグソルト)とは何だときいたら、その塩を体内に取り入れたら誰でも犬になってしまうと言う。


 昔から変わったやつだとは思っていたけど、さすがに中二病がすぎる。高校3年にもなってそんなことを言って恥ずかしくないのか。彼女の将来が心配になってくる。


 ムギちゃんが真剣な顔をして塩の説明をしているあいだ俺は笑いをこらえるのに必死だった。そのおかげで何を言っていたかもよく覚えていない。どうせ中二病全開のわけのわからないくだらない話だろう。とりあえず「ありがとう助かる」と言ってその場から走って逃げた。

 

 一応彼女は彼女なりに俺の悩みを聞いて真剣に考えてくれたんだ。もしその場で吹き出していたら彼女のプライドをズタズタに傷つけて怒らせてしまっていただろう。

 

 草林高(くさはやしこう)野救部の鬼畜ゴリラと呼ばれている俺でもさすがにそんな無礼な事はしない。


 それにムギちゃんは怒らせると怖いしめんどくさい。


 塩なんてもらっても使い道もないし、家に持って帰って母さんにあげて料理にでも使ってもらおうと部室のロッカーの奥に置いて、部活をして、すっかり忘れてそのまま帰ってしまった。それが昨日の話。

 

 そして今日。


 ロッカーを開けてポロリと落ちた塩の小瓶を見て俺はあることをひらめいた。

 

 (これはドッキリに使える!)


 さっそく1.5リットルの空のペットボトルに水道水をたっぷり入れて、そこにムギちゃんからもらった塩を振り入れた。


 ひとふり、ふたふり、三ふり。


 すると不思議なことに水がうっすらと桃色に染まった。


「なんだこれ。きれいだな……」


 で、俺が考えていることはもうわかるだろ?


 部活でのどが渇いたと言う大城に水をあげると言ってこのペットボトルを渡し、飲んだらしょっぱくてオエーッというドッキリだ。


 もうちょっと入れるか。


 ひとふり、ふたふり、三ふり。


 桃色が少し濃くなった。


 もうちょっとか?


 でも、あまり塩を入れすぎると急激な塩分の過剰摂取になって大城が病院送りになるかもしれない。そんなことになったら大変だからこれくらいにしておこう。


 ドッキリを仕掛けるならちゃんと安全面まで考慮しないとな。


 ドッキリは面白そうだからとただの思い付きで実行したらダメなんだよ。


 そんなことをするのはただのバカだ。


 俺はちゃんと先の事まで考えている。


 ま、塩はこのくらいでいいだろう。


 ボトルのキャップをしっかり閉めた。


 ラベルは(はが)がされているし、液体の色も桃色だからめちゃくちゃあやしいけど大城ならバカだから気が付かないで飲んでくれるだろう。



 そして部活の時間が始まった。


 俺は2年生の藤井のキャッチボールの相手をしながら周りを見渡した。


 他のやつらがバッティングや素振りの練習をしている後ろの奥の方で大城がひとりで球拾いをしているのが見えた。


「藤井、今日は平岡は来ていないのか?」


「はい」


「あいつはよく休むな」


「平岡のやつ、さっき逮捕されたらしいですよ」


「なんだって!?」


 バシンッ!


「うああっ!!」


 驚いてつい強く投げつけてしまったボールが藤井の股間に直撃した。


「あ、すまん」


「だ、だいじょうぶです……」


 藤井は何とか立ち上がりボールを拾って再びキャッチボールが再開した。


「平岡がつかまったって本当か?」


「はい。監督が言っていました。警察の人と話をしないといけないから今日は部活にくるのが遅れるって」


「そうか。だからさっきパトカーが何台も止まっていたのか。で、何で平岡は捕まったんだ?」


「同級生の女子を襲ったとか」


「学校でか?」


「はい、強制わいせつ罪とかなんとかって言っていました」


「なんて野郎だ!」


「はい!」


 今年の1年はマジでろくでもねえ奴しかいねえな。


 まあいい。今は大城に仕掛けるドッキリを成功させることだけを考えよう。


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