数日前の話
数日前……。
昼食を食べ終えた九条紬は図書室へ向かった。
図書室に入ると一直線にお目当ての棚へ向かう。
そこには怪ケツぺろりシリーズの本がたくさん並んでいた。
今日はどれにしようかなと背表紙に人差し指を色っぽくすべらせ、"怪ケツぺろり!恐怖のびっくりおばけ大集合!"を手に取った。
お昼休みというのに図書室には人はぽつぽつとしかいないくて、大きな長テーブルの席はがら空きだった。
九条は端っこの席に腰を下ろした。
色っぽく髪をかき上げ、背筋をピンと伸ばしたきれいな姿勢で本を読み始めた九条。するとどこからか「あ゛ぁ~……」と男の唸るような声が聞こえてきた。
九条は全く気にする様子もなく真剣なまなざしで読書に集中する。
するとまた「う゛ぅぅ~……」と男の声が聞こえてきた。
それでも気にせず読書を続ける九条。
「はぁ……」また男の声がした。
それでも気にせず読書を続ける九条。
「ん゛ん~……」
それでも気にせず読書を続ける九条。
「あ゛う゛っ、あ゛う゛っ……!」
九条はゆっくりと本を置くと、テーブルを両手でバンッとたたき、シュッと立ち上がって少し離れたところの席で頭を抱えてうつむいている角刈りの図体のでかい男に向かって叫んだ。
「なんなのいったい!? さっきから! 気になって全く集中できないんだけど!」
男は顔をあげて振り向くと九条を見て顔を輝かせた。
「あ、ムギちゃん!」
「その呼び方はやめてって言ってるでしょ!」
「あ、すまん。つい長年の癖で」
「なんで智がこんな所にいるの? 部活は?」
「ん? 部活……? 今日は……。休んだ……」
なんだか歯にものが詰まったような言い方をする智。
「智が部活を休むなんて珍しい。体調でも悪いの?」
「いや」
「何? サボり!?」
「まあ……。そんなとこ……」
「え、あんたキャプテンでしょ? もうすぐ大会もあるっていうのに、そんなんでいいの?」
「いや、そうじゃない!」
「だったら何よ」
「まあ、いろいろわけがあって……」
「いろいろって何よ!」
「そこー!! 図書室では静かにしろバカー!!」
図書室の先生が遠くから二本指をさして睨んでいる。
九条と郷田智はすいませんと軽く頭を下げた。
九条は読みかけの本を持って郷田のところへ移動すると向かいの席に座り音量控えめに話しかけた。
「何かあったわけ? 悩みがあるなら私が相談に乗ってあげてもいいわよ」
「まじか」
「ええ、何でも言いなさいよ。この私に解決できない問題なんてない――」
「やめとくわ」
「何でよ!」
「やっぱいいわ、うん。ありがとう」
「何よ、言いなさいよ。別に気を使わなくてもいいでしょ!」
「そうか?」
「うん」




