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はじめてのおにぎり

 その日の朝。


 鈴木家のダイニングでは父がお茶碗にこれでもかと盛られた山のようなを白米を箸で口いっぱいにかきこんでいた。


 口の中をガリガリガリガリ鳴らして咀嚼して、すごくマズそうな顔をしながらごくりと飲み込んだ。


「お父さん。どう? おいしい?」

 キッチンで慣れない手つきでおにぎりを握っていた鈴木が()いた。


「いや、まずい。芯が残っていてガリガリする。外側はびっちょびちょのぐっちょぐちょだし。最低な気分だ。どういう炊き方をしたらこんなにマズく出来るんだ」

 そう言って再びごはんをかきこむ父。


「炊く時間がちょっと短かったのかな……」

 べちょべちょのごはん粒がいっぱいついた自身の手のひらをみながら鈴木がぬかした。


「そもそもなんで急にごはんなんか炊こうと思ったんだ? 京子も料理なんてほとんどやらないのに」


 そこへちょうど鈴木の母、京子が耳にピアスを通しながらせかしくやってきた。


「私は別にできないわけじゃないのよ。今は仕事が忙しいから手を出していないだけで、やろうと思えばちゃんとできるんだから」

 そう言って冷蔵庫から牛乳を出してコップに注いで飲んだ。


「お母さん、朝食は?」


「急いでいるからいいわ」


「じゃあこれ持って行って」


 鈴木はラップで包んであったグレープフルーツほどの大きさのおにぎりを母に渡した。

 周りには刻み昆布の佃煮ととろろ昆布と黒ゴマがもじゃもじゃといっぱいくっついている。


「何これ気持ち悪っ」


「おにぎり」


「これが?」


「うん」


「それにしても大きすぎじゃない。私こんなに食べきれないわよ」


「え、お母さん用に小さめに作ったつもりだったんだけど」


「それでも大きい。で、中身は?」


「マヨネーズ」


「私あまりマヨネーズは好きじゃないのよね」


「梅干しのやつもあるよ? サイズはそれよりもっと大きいけど」


「いや、これでいいわ。ありがとう。じゃ行ってくるわね」


「いってらっしゃい!」

「いってらっしゃい」


「はーい」


 母の背中を見送った後、再び父に目を向けた鈴木。

 茶碗の中の白米がもうなくなりそうになっていることに気づいた。


「お父さん、ごはんのおかわりしない? まだまだいっぱいあるよ」


「いらん」


 父はお箸を揃えて茶碗の上に置くと両手を合わせて「ごちそうさま」とあいさつをして立ち上がった。

 そして「私ももうそろそろ出ないと」と椅子に掛けてあったスーツの上着をとって着だした。


「だったらこれを持って行って」


 キッチンから出てきた鈴木が手に持っていたのは海苔で巻かれたハンドボールほどの大きさの丸いおにぎりだった。


 それを見た父は「うおっ!」っと驚いて引いていた。


 鈴木は「お昼に食べてね」と椅子においてあった父のカバンを開けて中に入れようとしたがおにぎりが大きすぎて半分はみ出したまま閉められなくなってしまった。


「何だこれは、爆弾か?」とすごくイヤそうな顔をする父。


「違うよ。おにぎりだよ。はいっ。頑張ってきてね」


 鈴木からカバンを受け取った父は「じゃあ行ってくる」と部屋を出て行った。


「行ってらっしゃい!」

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