はじめてのごはん炊き
次の日の朝。
タワーマンションの9階。
チンチンチロリン♪ チンチロリン♪ ピッ! チンチンチロリン♪ チンチロリン♪ ピッ!
いつもより2時間も早めに設定しておいたスマホのアラームで鈴木は目を覚ました。
時刻は朝の5時。部屋の中はまだ暗い。
ベットから出て電気をつけトイレへ。
(キャアアアアアー! 何コレえええー!?)
洗面所の鏡を見てビックリ!
ちょうど鼻の先にニキビが出来ていて鼻全体が赤くはれていたのだ。
(何でこんな日に限って、変な所にニキビが……。もう~、サイアク……)
落ち込んでいてもしょうがない、今日は平岡に恋塩を食べさせるためのおにぎりを作ろうと思って早起きしたのだ。
寝ぐせの付いた髪の毛を頭の上にひとつに束ねて、顔を水洗いし、タオルで拭き取った。
そして鏡に向かって笑顔をきめる。
(よしっ! 今日も私かわいい)
☆ ☆ ☆
リビングへ行き明かりを付けた。
モデルルームの様に広くてきれいなキッチンがある。
床には大きなお米の袋が置いてある。
昨日、鈴木が学校帰りにスーパーで買ってきた米だ。
鈴木はお米の袋を持ち上げてカウンターの上にドスンと置いた。
(重い……。さすがに10キロは買い過ぎたかな)
ハサミで袋の上の方を切って開封した。
「え~っと。お鍋……、お鍋……。どこだっけ」
引き出しや戸棚を開けお鍋を探す鈴木。
キッチンの下の棚にちょうどいい感じの底深の鍋を見つけてシンクに置いた。
お米の袋を重たそうに両腕で抱えて慎重に少しづつ鍋に注いでいく。
ジャラジャラジャラジャラズザザザザーッ‼
「ああああああああー!!」
勢いよくお米が出てきてしまい、鍋には山盛りになってシンクも床もお米まみれになってしまった。
「あちゃ~……」
鈴木はやってしまったというような表情だ。
中身が半分ほどになってしまったお米の袋をそっとカウンターに置いて、ボウルを探して持ってきた。
鍋から山のように盛り上がっている米を手の側面ですりきるようにしてボウルに移していく。
シンクに飛び散ったお米も両手ですくってボウルに移した。
床に散らばったお米も一粒残らずかき集めてボウルに移した。
(よしっ。もう落ちてないよね)
お米が山盛りになったボウルが3つも出来上がってしまった。
気を取り直して料理の続きを開始した。
米がいっぱいに入った深鍋に水道水をギリギリまで入れて、それをこぼれないようにゆっくりと慎重に持ち上げる。
(う、重っ……)
IHコンロにの上にそっと置いてふたを閉めてピッと電源を入れた。
(これでよしと。意外と簡単ね。後は炊き上がるまでに髪をセットして学校に行く準備しておこうっと)
「フンフフ~ン♪」
鈴木はご機嫌に鼻歌を歌いながらリビングから出て行ってしまった。
☆ ☆ ☆
ジュワジュワシュワシュワジュワシュワワワー!!(沸騰して鍋から泡がもれている音)
☆ ☆ ☆
30分後。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーー!!!」
「何だっ!?」
「何!?」
まだ夜も明けぬころ。突然マンションに響き渡った甲高い悲鳴にびっくりして鈴木の父さんと母さんがベッドの上で飛び起きた。
目を合わせた二人は何事だとあわててリビングへ向かった。
「何なんだいったい」
最初にやってきたのはお父さん。キッチンのほうを見て「おお、これまたなんともごりっぱな」と目を丸くした。
「どうしたの? 何かあったの? 大丈――」
続いてやってきたのは心配そうにしたお母さん。キッチンを見て「あらまあ、おおきい」と手で口元を隠した。
少し遅れてだるそうに頭を掻きながらやってきたのはお姉ちゃんだ。
「ねぇ……。こんな朝早くからみんな揃って何やって……やだなにふっとい」
3人はIHコンロの上に佇むそれを見て固まってしまった。
深鍋からあふれ出たごはんは偶然にも2つの玉のような山をつくりだし鍋を覆い隠し、その真ん中には鍋の蓋を持ち上げるようにして天井近くまで反り立った立派なごはんの柱が出来ていた。
その後ろに隠れるようにして立っていた鈴木が気まずそうに顔をのぞかせた。
「おはようございます……」




