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謎の黒髪美女ふたたびあらわる!

「それで(ズズゥゥゥゥ)、もえかちゃんは(ズズゥゥゥ)、何で(ズゥゥゥ)、落ち込んでゴホッ! ゴホッゴホッ! ゴホッ!」


 耳川は喋ってる途中で何度もバニラシェイクのストローを口に運んだせいで(むせ)た。


「大丈夫? (モグモグ)」 

 イチゴバーガーを頬張りながら耳川を心配する鈴木。


「ゴホッ! ゴホッゴホッ!」


「しゃべりなから飲むから……」


「だって(ゴホッ!) おいし(ゴホッゴホッ) ……おいしすぎる、んだもん(ゴホッ! ゴホゴホッゴホッ!)オッ、ウッ、オエエエエエエー……。ふぅ……。もうだいじょうぶ……。落ち着いた。で、もえかちゃんは、何で落ち込んでるの?」


「私べつに落ち込んでないよ?」


「もえかちゃん。私の目はごまかせないよ? 何か悩んでいる事でもあるでしょ?」


「悩んでいる事?」


「うん」


「悩んでいる事か~。ん~、しいて言えば……。最近授業に全く集中できない事かな」


「へー」


「家で勉強している時も何だかぽーっとして身が入らないし」


「ぽー??」


「うん、頭がぽーってふわふわする感じ。あと何か心臓がキュって締め付けられるというか、くすぐったいような感じもするし」


「へぇ、いつから?(ズズズゥゥゥゥ)」

 耳川はまたバニラシェイクのストローを吸った。


「ん~、このまえヒツジに襲われた後くらいからかな」


「へ~」


「何をやってても上の空(うわのそら)になっちゃうと言うか……。気づいたらなぜか平岡大志の事ばかり考えちゃってるんだよね」


「えぇ~(ズズズゥゥゥゥ)」


「学校でもなぜかあいつを目で追っちゃうし」


「ええ~」


「つい見ちゃうんだよぉ。何か気になるって言うか。自然と引き付けられるって言うか……」


「なにそれ~。こわ~い」


「ね~。怖いよね」


「もえかちゃん、もしかしたら何かの(のろ)いにでもかけられてるんじゃない?」


「呪い?」


「大志君の生霊にとりつかれているとか」


「えっ、そうかな?」


「そうかもしれないよ。だって変だもん」


「だよね」


「うん。いちど神社とかお寺とかに行ってお祓いしてもらったほうがいいよ(ズズゥゥゥ)」


「そっか。そうしてみる。ありがとう耳川さん」


「ちがうでしょ!!」

 突然大きな声がして、耳川の後ろの席に座っていた黒髪の少女が立ち上がった。


 少女は顔だけ振り返って二人の方をギロリと見た。


 驚いて固まってしまった耳川と鈴木。


「さっきから黙って聞いていたら。まったく……」黒髪の少女はあきれるように言いながら自分のトレーを持って耳川たちの席の所へやってきた。

 そして耳川に席をつめるように言うと隣にちょこんと座った。


 同じ高校の制服を着た少女。

 鈴木にはその少女に見覚えがあった。


(あっ、昼休みにグラウンドで平岡と楽しそうに話をしていた子だ)


 耳川はなぜか嬉しそうに目を輝かせて隣に座る黒髪美女に「あなたは誰?」ときいた。


「私は九条紬(くじょうつむぎ)。あなたたちと同じ草林(くさばやし)高の3年生よ」


「先輩なんだ! わたしは1年1組の耳川み――」

耳川実鈴(みみかわみりん)さん。そしてあなたは鈴木萌果(すずきもえか)さん。でしょ?」 


「そうだよっ! 何で~っ! なんでわたし達の名前を知ってるのぉ!?」

 まるで初めてマジック見た子供のように驚いて喜ぶ耳川。


「草林高の生徒ならみんな知ってるわよ。あなた達ちょっとした有名人だもの。羊にボコボコにされた生徒達ってね」


「そうなんだぁ!」 


「それに、私は見てたのよ」


「何をですか?」


「あなたたちが羊に無様にやられているところよ。3階の廊下の窓から見てたの」


「え~、それなら助けを呼んでくれればよかったのに」


「なにを言ってるの? 猟師を呼んだのはこの私よ?」


「そうなの!」

「そうだったんですか!?」


「獣医師の免許を持った猟師を探すの大変だったんだから。感謝しなさいよね」


「ありがとう!」

「ありがとうございます……」


「ふんっ」


「九条先輩もバニラシェイク飲みますか? おいしいですよ?」


「そう? じゃあひとくちだけ頂こうかしら」


 耳川の差し出したカップのストローに九条は口を付けた。


 スースー。スースーとストローの乾いた音がする。


「空っぽじゃない!!」 


「あ、ごめんなさいっ」


「ふざけんなっ!!」


「まだ残ってると思ったのに……」


 そんな二人のやり取りを黙って見ていた鈴木が口を開いた。


「九条さんってもしかして……、あの世界的に有名な――」

「そうよ。あの世界的に有名な製薬会社の社長の娘よ。そんな事よりあなたたちが会話してるのが後ろの席で全部聞こえてたんだけど」


「「ほう……」」


「ほうって何よ。二人そろって間抜けな顔して……。まあいいわ。鈴木さん!」 


「はい!」


「あなたのその症状は呪いなんかじゃないわ」


「「え……」」


「生霊なんかでもない」


「「えぇ……」」


「それはね――」


 鈴木と耳川はゴクリと唾を飲んだ。


「恋よ!」


「ええーっ!!」

 とびっくりする耳川。


「ないないないない、それはさすがにないですぅ~。あはは、あはははは」

 と笑う鈴木。


 九条は真剣な表情で鈴木の目をまっすぐに見つめて言った。

「まちがいないわ。それは恋よ」


「いや~ないないないない~。あはは~それは絶対にないです~。先輩、面白いこと言いますね~」


「認めなさいよ」


「あはははは~、なんで私があんなやつなんか。そもそも私ああいうの全然タイプでもないし~、絶対にあり得ないです~あはははは~おもしろ~い、あはははは~」


 ヘラヘラと笑いながら手と首を横に振って頑なに認めようとしない鈴木に九条はちょっぴりムッとした。

 

「それじゃあ自分の心にきいてみるといいわ」


「え?」


「両手を自分の胸に当てて()いてみなさいよ」


「何てですか?」


「私は彼の事が好きですか? ってよ」


「あっはははは~」


「やって!」


「だってそんなの――」

「早くっ!!!」

「はいっ!!」


 鈴木は頭をかるく振ってニヤついた顔を整えて深呼吸をした。そして目をつぶって両手を胸に当ててもう一度深呼吸をしてからゆっくりと言った。


「私は平岡大志の事が好きですか?」(好きっ!!)


 即答だった。


 鈴木には確かに聞こえた、心の中の小さな自分が好きと言ったのだ。


 鈴木の顔はみるみる青ざめていった。


「そ、そんな……。ウソ……。わたし……。そんなばかな……」


 何が起こっているのかわからない耳川は動揺する鈴木を見て「どうしたの?」と不思議そうにしていて、九条は「でしょ」と得意顔だ。


「そんなの絶対にありえないっ!」


「だったらもう一度きいてみなさいよ」


 再び胸に両手を当てて深呼吸をする鈴木。


「私は平岡大志の事が好きですか?」(すきすき、だーいすきっ!)

「きゃあああああああああああああああああああああああああーーーーーー!!!!!!」


「うるせえぞおおおクソあまあああああ!!!!」

「またお前かああああああああー!!!」

「他の客の事も考えろ!」

「バーーローー!!!」

「てめえはイルカかあああああ!!!」


 超音波のような甲高い叫び声を発した鈴木にほかのお客さんたちがブちギレてヤジを飛ばした。


「わ、わたし……あ、あいつの事が……す、好き、なの……? わたしのは、はつ……初恋の相手が……ひ、ひ、ひら、ひら、ひ、ひら、ひ、ひら、ひ、ひひ、平岡なのっ!?」


 鈴木はテーブルに両肘をつき頭を抱え込み髪の毛をボサボサにして目を大きく見開いていた。


「残念だけど、認めるしかないわね」と鈴木のトレーにのっているポテトをつまむ九条。

 

「もえかちゃん……」と耳川が心配そうに見守る。


「素直になりなさい? 心に嘘をついて生きるのはもっと地獄よ(モグモグモグ)」

 と九条はまた鈴木のトレーにのっていたポテトをつまんだ。


「わたし……。平岡の事が……好きなんだ……」


「そうよ。あなたは平岡に恋をしているの(モグモグモグ)」


 放心状態の鈴木を見て九条は小さくため息をついた。


「そんなに落ち込まなくてもいいじゃない。恋をするって素敵な事よ(モグモグ)」


「でも、私があいつを好きだって認めたところで……」


「何よ」


「あいつは私の事なんか……」


「告白してみないと分からないじゃない(モグモグ)」


「そうだよもえかちゃん!(モグモグモグ)」


 鈴木はゆっくりと首を横に振った。


「あいつが言ったんです……。同じクラスのただの知り合いとしか思っていないって……」


 どんよりと下を向いたままの鈴木に二人はかける言葉が見つからずただ鈴木のポテトを頬張る事しかできなかった。


「もうフラれたも同然ですよ……」


 鈴木の頬に一粒の真っ黒な涙が流れ落ちた。


「……。(モグモグ)」

「……。(モグモグモグ)」


 少しの沈黙のあと、見かねた九条が口を開いた。


「いいわ、私に任せて」


 九条は立ち上がり「鈴木さん。明日の放課後、体育館の裏に来なさい」と言うと、元居た席に戻って置いてあった荷物を取り肩にかけた。


 そして「必ずよ。じゃあね」そう言って店を出て行ってしまった。


「九条せんぱいまたね~……(モグモグ)」


 耳川は九条の背中に手を振って見送った後、席を移動して鈴木の隣に座り直した。


「わたし……平岡の事が……すき……だった……あの……バカみたいな……下品で……スケベ……平岡……」

 下を向いたままぶつぶつと小声でひとりごとを言う鈴木。


 耳川は片手はフライドポテトをつまみながらもう片方の手で彼女の頭をよしよしとやさしく撫でてあげた。

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