放課後 帰り道
鈴木萌果と耳川実鈴は酔っぱらった明美先生にお礼を言って保健室を後にした。
空はすっかり薄暗くなっていて、二人は途中まで一緒に歩いて帰ることにした。
「もえかちゃんのブーツかっこいいな~」
「うん。かっこいいね。こんなの初めて履いたよ。ヒールが凄く高くて足首がグキッてなりそう」
「でももえかちゃんにすごく似合ってる。海外のセクシーな女優さんみたい。わたし踏みつけられてみたい」
「ほんとに?」
「うん。警察官の服もかっこいいね~」
「でもこの服ピタッとしすぎじゃない? パンツも短いし」
「きゃはは、そうだね。短いねぇ。もうこれおしりでてるもんねぇ。したじりが。きゃはははは~」
「え? したじり?」
「うん。そのサングラスもかっこいい~。鏡の代わりにもなりそうだね」
「そ、そうだね……」
「もえかちゃん! わたしのこの衣装はどう? 似合ってる?」
「かわいい。耳川さんナース服すごく似合う」
「ほんと~!」
耳川は首にかかっていた聴診器を耳に装着すると、内股にして腰を突き出し、二の腕で胸を寄せてセクシーなポーズをとって鈴木に見せた。
「君の心臓の音、きいちゃおうっかなっ☆」
謎のセリフ付きだ。
「なにそれかわいい~」
「でしょ~。ありがとう~」
「そのナース帽も小さくて可愛いね」
「かわいいよねこれ~きゃはは~」
褒められると耳川は調子に乗る。
「ねぇ、もえかちゃん見て! こういうのはどう?」
耳川はスカートのポケットに隠し持っていた注射器を取り出し、それを右手で顔の横で構えて、左手で肘を支え胸を強調するようなポーズをとった。
そして首を傾げて決め顔をつくると「あなた、注入されたいわけ?」とカッコイイ女風にセリフをキメて見せた。
「あははは……。おもしろーい……」
「いいでしょ~?」
「うん。カッコイイ……」
「きゃはは~。悪い子はちゅ~ちゅ~しちゃうぞっ☆ 血ぃ~すぅたろかぁ~。痛くないように吸うからねぇ~。ちゅ~ちゅ~」
「その注射器なんかリアルだね」
「保健室からこっそり取ってきちゃった」
「え? それ本物の注射器なの?」
「そうだよ?」
「何してるのっ!!?」
「やっぱこの格好には注射器があったほうが映えるじゃん?」
「そういう事じゃないでしょっ!? あなた自分が何をしたのか分かってるの!? 勝手に学校のもの持ってくるなんて。もしこの事が先生にばれたりでもしたら―――」
驚いて捲し立てる鈴木。
そんな彼女を耳川は突然にぎゅっと抱きしめた。
「え……。な、なに……?」
意味がわからず困惑する鈴木。
耳川は鈴木の胸に顔をうずめて黙っていた。
「あの……耳川さん…‥? なんなの……? これは……。ちょっと、耳川さん? ど、どういう事―――」
「シーーー……」
耳川の人差し指が鈴木の口をふさいだ。
鈴木はサングラスをかけているので表情は分からないがきっと目を丸くしているだろう。
鈴木が黙ると耳川はふたたび鈴木をぎゅと抱きしめた。
少しの間沈黙が続いたが、鈴木が耐え切れなくなって口を開いた。
「耳川さん……。これはいったい何をしているの?」
「もえかちゃんが辛そうだったから……」
顔を胸に埋めたまま耳川が喋った。
「え?」
「もえかちゃんが何か元気ないから……」
「そんなことないよ」
「何だか悲しそう」
「えぇ……?」
「悩み事とかあるんだったら私に話してもいいよ?」
「なやみごと……?」
鈴木は困ったような顔をしていた。
そんな時だ。
ギュルルゴルゴルギュルゴルゴルルルヴヴヴゥ~と鈴木の腹が鳴った。
あまりの低音と振動に耳川はビックリしてすぐに鈴木の腹のあたりを目視で確認したが特に何の変化もなかったので鈴木の顔を見た。
鈴木はまるで空から聞こえたとでもいうように薄暗い空の彼方を見上げて何かを探すようなそぶりをしていた。
でも恥ずかしさでしっかり顔は赤くなっていた。
「そうだ!」
耳川は何か良い事でも思いついたというように顔を輝かせ、鈴木の両肩に手を置いた。
「もえかちゃん、ハンバーガー食べに行こう!」




