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大親友?

 スキップしながらやってきた耳川実鈴は鈴木たちを見て驚いた。


「何があったの!!? ふたりともすごい血まみれじゃん!!?」


「耳川さん……」とぐったりする鈴木。


「なんでもねーよ!」と鈴木を背中にぶら下げた平岡がぶっきらぼうに答えた。


「大志くんも鼻血が出てる!」


「何しに来たんだよ!」


萌果(もえか)ちゃんが心配だからきたんだよ!」


「オレたちはいまから保健室にいくところだ。邪魔するな。鈴木、脚を持つぞ?」

 そう言って平岡は後ろに腕をまわしたがおんぶの仕方をど忘れしていた。


「えっと。おんぶをするときってどうやって脚を持つんだっけ……。こうか?」

 平岡は鈴木の太腿を掴もうとしたつもりがおしりを掴んでしまった。


「きゃあ!! どこさわってんのよっ!」


「あ、ごめん!」


「バカ!」


「あれ? おんぶってどうやるんだっけ?」


「待って! わたしが萌果(もえか)ちゃんの脚を持つよ!」


「え?」

 鈴木はこの子何を言ってんのという表情で耳川を見た。


「別にオレひとりで大丈夫だ。邪魔をするな」


「大志くんだってまだ退院して数日しか経ってないんだよ? 二人で持ったほうが負担も軽いじゃん。体をいたわってあげたほうが良いよ」


「オレはもう完全に治ったし。元気だし。ひとりでも余裕で運べるし」


「手伝いたいんだよぅ! この前みんなが必死で羊と戦ってた時、わたしだけすぐに気を失って何にもできなかったんだもん。だから今度はわたしも萌果ちゃんのためにがんばる!」


「耳川さん……」


「わかった。じゃあはやく脚もてよ」

「やった~!」


 耳川はしゃがんで鈴木の足首を掴んだ。


「ちょ!まって、耳川さん! 脚を持つってどうやって!?」


お神輿(おみこし)みたいにだよ?」


「それじゃパンツがみえちゃうでしょ!?」


 耳川はニヤリとした。


「萌果ちゃんがそう言うんじゃないかと思ってちゃんと対策を用意してきたんだよ~」


「え?」


 耳川は鈴木の脚首から手を離すと、自身の背中に手をまわし、スカートのゴムに挟んで持ってきていた物を「ジャジャーン♪」と取り出して二人にみせた。


「体操着の短パン~♪」


「誰の?」


「わたしの。これをはけば大丈夫~♪」

 そう言って耳川は鈴木の脚に短パンを通そうとした。


「まって耳川さん! 血がついちゃう」


「大丈夫~♪」


「大丈夫じゃないよ! 血って洗っても落ちにくいんだよ!?」


「そんなこと気にしないよ~。わたしたち大親友じゃん~」


「だ、大親友……?」


「そうだよ。だから気にしな~い」

 耳川は鈴木のスカートの下に短パンをはかせた。


「よし、はけた」


「ありがとう……」


「じゃあ脚持つね?」そう言って耳川は鈴木の両脚を持ち上げ自分の肩にのせた。


 平岡は身体をぐんとかるく跳ねさせて、鈴木が肩の上にしっかりのるように調整し、首元に抱きついている鈴木が離してしまわないように彼女の腕を両手でしっかりとつかんだ。


「準備はいいか?」


「ちょっと待って、大志くん背が高いから少ししゃがんで」


「こうか?」

「もっと」

「こう?」

「もうちょっと」

「どうだ?」

「いいよ! ちょうど真っすぐになった!」


「よし、じゃあ行くぞ!」


「おう~! しゅっぱ~つ!」

 


  〇   〇   〇



「フンフフンフフン~♪」

 

 授業中の静かな廊下に耳川の陽気な鼻歌が響く。


 鈴木は二人にお神輿のように運ばれて最初は恥ずかしいと思っていたが、今はそれよりもなんだか嬉しいという気持ちの方が勝っていた。


(平岡ってぽかぽかあたたかくてカイロみたい……)


(思っていたより抱き心地もいい)


(平岡の首すじ……)


 短くさっぱりと刈り上げられた平岡のうなじをじっと眺める鈴木。


(匂い嗅いじゃおう)


(クサっ!?)


(もういっかい嗅いでみよう)


(クサっ!?)


(何だろうこの感じ、嫌いじゃないかも)


(もういっかい嗅いでみよう)


(うん、むしろ好きかも)


(なんだかなつかしく感じる……)


(そうだ、小学生の時に飼っていたパグの小太郎の匂いに似ているんだ)


(とても甘えん坊なこで、わたしが寝ているといつも小太郎がやってきて顔にまたがって覆い被さっていたな……)


(その時の匂いだ……)



「二人とも……。わたしの鼻血まみれにしちゃってゴメン……」鈴木が申し訳なさそうに言った。


 平岡は前を向いたまま「気にするな。半分はオレの鼻血だし」と言った。


 それを後ろで聞いていた耳川。

「萌果ちゃんの血だったら喜んであびるよ。ね~大志くん」


「……」

 平岡は何も答えなかった。


「わたしたち大親友だもんね。鼻血くらいいくらでもあびちゃうよ~。ね~大志くん」


 またも平岡は何も答えなかった。


「ね~大志くん」


 また何も言わない平岡。


「あれれ? 大志くん?」



「大親友じゃねえし……」大志はぼそっとしゃべった。


「大志くん!?」


「オレはお前たちの事、同じクラスのただの知り合いとしか思ってないし……」


「また~。照れちゃって~」


「照れていないし……」


「またまた~」


「照れてないって言っているし。大親友いぜんに友達もいねえし。そもそも友達とかいらないし。まあひとりだけ? いるにはいるけどあいつはゴミ以下だし。あいつもオレの事をゴミ以下のクズだと思っているらしいから本当の大親友と呼んでいいかわからないし。それに友達とかいても面倒なだけだし。親友っていってもどうせ裏切るときは簡単に裏切るし、そんなくだらないもの―――」

「わかったわかった、もういいよ。もうわかったから! そうだ!! みんなで歌をうたいながら行こう!?」


「いいぜ!!」


「わ~い! なに歌う?」


 ムッとしてだんだんと早口ぎみになる平岡を耳川がなんとかおさめた。

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