明るくて親切なおじさん(平岡大志)
「って君、血だらけやないかい! にいちゃん何があったん?」
「なにもありません」
「何もないことあるかい! 尋常やない量の血液やで!?」
「なにもありません」
「まあええわ。ほな包帯変えよか?」
「ほっといてください」
「ほっといてって。変えなあかんやろ」
「……」
「ええか? はじめるで~」
「……」
オレは完全にやる気をなくしていた。
ふと横のベッドを見たら、ヨシオは上半身を起こしたまま、ただ真っすぐに前を向いて固まっていた。
包帯の隙間からわずかに見えた口元は緩んでいてよだれを垂らしている。
さっきの篠崎さんとの触れ合いを思い出してニヤニヤしているのだろう。
「何や? にいちゃん、泣いてんのか?」
「ないていません」
「泣いてるやろ? 目がウルウルしとるで」
「ないていません」
オレの感情のないロボットのような態度に、おじさんは少し気まずそうにしながらも手際よく作業をつづけた。
「まあ長く生きているとな、ごっつうへこむような事もあるけどな。生きていて良かったな~って思えるような事も必ずたくさんある。それが人生ってもんや」
「……」
「何があったかしらんけどな。いつまでもクヨクヨしてたらあかんで~! ……ん? なんや!? にいちゃんのチクビちっさいなあ~」
「……」
「どないなっとんねんこれー!? 赤ん坊のチクビやないかい!」
「……」
「赤ん坊は言い過ぎやな。ハムスターのチクビくらいか。 ……って余計に小さくなっとるやないかいー!」
「……」
おじさんは濡れタオルを絞ると、オレの右チクビを赤子をあやすかのように優しくそっと拭いてくれた。
「ね~んね~んころ~り~よ~おこ~ろ~りよ~♪ ヨシヨシ、ツンツンっと」
「……」
次は左チクビの番だ。
「坊やは~良い子だ~ねんね~し~な~♪ ヨシヨシ、ツンツン」
「……」
「ツン、ツン、ツン。あソ~レ。ツン、ツン、ツン。あヨイショ。ツン、ツン、ツンタカラッタ、ツンタカラッの~ツン、ツン♪ っと」
「……」
「にいちゃん! チクビ立っとるで!」
「……」
「こっちのほうはいい反応するんやな。がはははははっ!」
「……」
「ふぅ……。よし、あとは新しい包帯を巻いて終わりや」
そうして交換の作業は終わった。
おじさんは病室から出ていくときに「元気出しや」とオレたち二人にパイナップル味の飴玉をくれた。
ありがとうおじさん。
――その後、オレとヨシオと鈴木と耳川はお医者さんもびっくりするほどの驚異的な回復力をみせ次の日には全員無事に退院することが出来た。




