どれもおいしくて素晴らしい食べ物
オレと耳川と鈴木はグラウンドのそばにある手洗い場へ向かっていた。
「お前のせいだからな」
オレは耳川に言ってやったが耳川は悪びれる様子もなく「ごめーん」と笑った。
鈴木は、オレのよだれでべとべとになった長い焦げ茶色の髪を揺らしながら無言でカツカツと前を歩いていた。
「授業中に抜け出すのってなんかワクワクするね」と空気を読まずにのんきな耳川が言った。
鈴木はピタリと足を止めると「はあ?」と振り返り「まったくワクワクしないんだけど、バカなの!?」と目を大きく見開いて耳川をにらんだ。
「まじサイアクなんだけど。勉強は遅れるし、制服も髪も平岡のよだれだらけだし」そう言ってベトベトの長い髪を掴んで鼻で嗅ぐ鈴木。
「クサ!」と驚いた。
「いったいお昼に何を食べたの!? 何をたべたらこんな匂いになるわけ!? 生ゴミ!?」
「はんぺんとぉ――」
「あんたにはきいてないっ!」
「えっと……餃子と、納豆と、キムチとブルーチーズと、あとは……ドリアン!」
「キモぉ」
「は!? 何が『キモぉ』だっ!?」
「キモい」
「ふざけんなっ! どれもおいしいくて素晴らしい食べ物だろ!」
「組み合わせがキモい」
「はあ!? そんなの個人の好み―――」
「平岡が食べてるのを想像するのがキモイ」
「調子に乗ってんじゃねえぞこのアマ―――」
「すとーーーーーーーーーーーーっっぷ!!!」
耳川の叫び声と同時にどぶみたいな匂いの茶色い液体が飛んできた。