ミイラ
オレが意識をとり戻したのはどこだか知らない病院の一室だった。
「目があいたっ! 大志くんが帰ってきたぁー!」
いきなりお腹に顔面タックルを受け、全身に鋭い痛みが走り「あふぅん!!」と変な声を出してしまった。
「わぁーい! 無事だったー!」
「うるさいだまれ耳川! オマエのキンキン声は頭にズキズキと響くんだよっ!」
「よかったぁー。心配したんだよ~! 大志く~ん」
耳川の顔面がお腹にメキメキとめり込んだ。
「ぐはっ……。離れろっ……。あっ……」
「大志くんのおへそってあったか~い。くんくん、くんくん~」
包帯越しのおへそに耳川の鼻息がスハスハとあたってなんだかこそばゆい。
「ぎゃはははははくすぐったい! あっ痛いぃ!! ぎゃはははは! やめろ耳川ぎゃははあ痛っ!!」
笑うと全身の傷が痛んだ。
「だって嬉しいんだもん~。くんくん、くんくん、クサー。なんか好きなにおいがする~くんくん、くんくんくん」
「ぎゃははははは! やめろっって息がっ、ぎゃははは! 息が出来なっあ痛ああっつ! ああっ! しぬっ、ぎゃはははは! ぎゃはははしっつ、あっ、ああああああああああああああああーー!!!」
「きゃあああああー!!」
つい暴れすぎてしまってオレたちはベッドの下に落っこちてしまった。
それでも耳川は離れようとしない。
「ん~たまらん~。クンクン、クンクン」
「ぎゃはははは! まだやるのかぎゃははははっ!! ぎゃはは! ぎゃははは! かぐなああああああああああっ!! さわるなああああああああああああああっ!! 傷口が開くだろうがああああああああああああ!!!」
オレがブチギレて叫ぶと耳川はびっくりして顔を上げた。
「今すぐこの場から消えされええええええ!!!」と怒鳴ってやった。
「うぅぅぅ……」
なんなんだその不満そうな顔は!
そのときだ。
「ったく。なんなんだよ。うるせえなあ……。人が気持ちよぉ~く寝てたってのによおおおおおおおおおおおお!!!」
変なスイッチの入り方の怒鳴り声がして隣のベッドを見上げたら、目と口以外を包帯でグルグル巻きにされたミイラが横たわっていた。
「はっ! ヨシオくんももどって来たの!? きゃあー!!」
「ぎゃあああああ!!」
ヨシオも耳川に腹部タックルとグリグリの刑をされて変な声をもらした。
「よかった~。ヨシオくん~。おかえりなさい~! うれしい~」
「ああああっつ! ああんっ!!」
「ヨシオくんミイラみたいでかっこいい~!」
「がああ!! やめっ、あんっ! ああっ、やめて」
かわいそうなヨシオ。
そんなときだ。
すました顔をして「騒がしいわね」と病室に入ってくる女がいた。
「鈴木! おまえも無事だったのか!」
「まっ、まあね……」
鈴木は松葉杖をついていて片手には白いビニール袋をぶらさげていた。
「骨折れたのか?」
「違う。ただの捻挫……」
鈴木に視線をそらされたような気がした。
学校では化粧をしていて髪型も綺麗にセットしていつもばっちりキマッている鈴木だが、今はパジャマみたいな服ですっぴんのせいか少し自信がなさそうというか何だか恥ずかしがっているようだ。
「体調悪いのか?」
「べつに……」
さっきから目も合わそうとしないでぶっきらぼうに答える鈴木。
耳川とは正反対だ。
「顔真っ赤だぞ。熱があるんじゃないのか?」
「うるさいっ。私は大丈夫っ……。あんたは自分の心配をしたら? あんたの方が何倍も酷いでしょ? ていうか何で床で寝そべっているわけ??」
「これは……色々あって」
オレがベットのパイプを掴んで立ち上がろうとすると鈴木が「……立てるの?」と手を貸そうと松葉杖をついて近づいてこようとしたので「うん! 立てるぜ!」と言ってすぐに立ち上がってベットに腰かけてみせた。
キコキコキコキコ。(耳川がヨシオのベットの足側についているハンドルを回している音)
「ぎゃあああああ! もっとゆっくりやってぇええ!!」
「あっゴメンね!」
キコキコ、キコキコ。
「あ゛っああああ! 脚は起こさなくていいからあああ!!」
「あ、ゴメンッ!」
キコキコキコキコ。
「ぎゃあああああ! 起こしすぎぃぃぃ~!!!」
「えっ!?」
キコキコキコキコキコ!
「あ゛あ゛ああああ!! はやいっ! がはあ!! だから脚は起こすなって言ってあ゛ああああああ!!」
「ゴメンなさいッ!」
キコキコキコキコキコ!
「ぎゃっ!! ちがう! そのハンドルじゃないっ! あ゛っ! もどせっ! はやくっ、ああっもどせっ!! ああっ! 身体が折りたたまれるぅぅ」
「はいいー!!」
キコキコキコキコキコ。
「あ゛っ、あ゛あああぁあああああ!!」
「きゃあああああー! どうしようううう!!」
「あんたたちもさっきからうるさいっ! いったいここをどこだと思ってるの? 病院よ! 他にも患者さんたちがいるんだから。静かにして!」
鈴木がキレた。
「ほら、私がやるから、手をどけて」
キコキコ、キコキコ、キコキコ。
耳川の代わりに鈴木がハンドルを回してヨシオの体勢はいい感じになった。
「はぁ、はぁ……。たすかった……。ありがとう。鈴木……。はぁ……」
ヨシオはまた口から変な汁を出していた。
「うぅぅぅ……」
だから耳川、何だその不満そうな顔は。




