限界はとっくに超えていた
今回はヨシオは握りしめたネットを離さないでいてくれて、ヒツジの勢いを押さえてくれていた。
だが、それでもヒツジのちからは強かった。
オレは、何度も何度も飛びかかったが、何度も何度も振り払われて、何度も何度も地面にたたきつけられた。
その度に身体中に傷が増えていく。
制服もボロボロに破けて原形をとどめていない。
ふと視線を感じ、校舎の3階の窓に目をやると一瞬人影が見えたような気がした。黒い髪の毛の女だったような。すぐに消えたけど。
もし誰かが見ているなら助けを呼んで欲しいが今はそんな事考えている場合じゃない。
ヨシオは、半開きの虚ろな目をして鼻と口から汁を垂れながしてもうほとんど意識がないような状態だ。
絶対にネットを離してなるものかという執念だけでなんとか握りしめてくれている。
それでももう限界が近づいているのがわかった。
オレも限界はとっくに超えていた。
全身がガタガタ震えていた。
最後のチャレンジだ。
これでダメだったら諦めよう。
重い体を起こして再びたち向かっていく。
中3までは両親にレスリングに似たスポーツを習わされていたので、その時のように重心は低めにして、ヒツジの首を抱きこむようにしてかかえ、滑らないようにしっかりと足を踏ん張った。
「落ちつけ! ひつじ! 俺たちはおまえに何も危害を加えたりしないからっ! 落ちついてくれ!」
羊に声かけして少しでも友好を深めようと思った。
「メエ、エ、エ、エ、エ、エ、エ!」
羊は鳴いて返した。
「怖がらなくていい! オレたちはオマエの仲間だ! もう大丈夫だ! だから……」
「メ、エ、エ、エ、エ、エ、エ、エ!」
「落ち着けって言ってるだろうがっ!!」
「メ、エ、エ、エ、エ、エ、エ、エ、エ!!」
「たのむ……。たのむからもうやめてくれ……」
ふと視線を感じ、校庭の隅に生えている木のほうに目をやると、木陰にさっき見たのとは違う人影が見えた。
帽子をかぶった作業服の男だ。
何かをかまえているように見えて目を凝らした。
ライフルだ!!
おじさんがライフルを構えている!
それに気づいた瞬間、シュパッ! という音が聞こえて、太ももにプスッと何かがささった感覚がした。
「あっ!」と、おじさんの声。
少し間をおいてまたシュパッ! っと音がして今度はおしりにプスッと何かがささった感覚がした。
また「ああっ!!」と、おじさんの声。
すると、からだじゅうの力がみるみるとぬけてきて、オレはヒツジに押されて仰向けに倒れそのまま踏みつぶされてしまった。
そして、ヒツジにひっばられたヨシオの頭部がオレの股間をバコンと強打し、そのままズリズリとオレのからだの上に這い上がってきて鼻と口から垂れている汁をオレの顔にべったりと塗りたくって、さらに上昇し、股間のところがオレの顔面に覆いかぶさったところでピタリと動かなくなった。
ヨシオも力尽きてネットから手を放したのだろう。
少し離れたところから「やっべ。間違っちゃった~」とおじさんの声と近づいてくるような足音がしたが、顔面はヨシオの股間が覆いかぶさっているせいで、真っ暗なズボンの生地しか見えず、オレそのままは気を失ってしまった。




