みんなありがとう!(平岡大志)
「よ、オウシロウ! 何をかじっているんだ?」
オレはオウシロウの元へ駆け寄ろうとした。
そうしたら何もない所でつまづいてしまって壮大に地面に倒れてしまった。
オレに気が付いたオウシロウが「あ! 平岡! 大丈夫か!」とすぐに走って駆けつけてきてくれたがこいつもつまづいて壮大に地面を転がって倒れてしまった。
なにやってんだよバカだなと思った。
オウシロウは顔や腕にすり傷を作って血が垂れて、制服は土と草と砂で汚れていた。
オレも自分の制服を見たらすごく汚れていて、腕から血が出てるし、顎が濡れていたので汗かと思ってシャツの胸元を掴んで拭いたら血がついていた。
右手に握っていた焼きそばパンは少し握りつぶしちゃったけど無事だ。よかった。とりあえず立ち上がって制服についた汚れを払った。
オウシロウも起き上がって「なにしてんだ平岡?」と聞いてきた。
「お前が一人で居るのが見えたから、一緒に昼飯を食べようかと思ったんだよクソが!」
払っても払っても制服の汚れが全然落ちないのと最近ストレスが溜まっているのもあってついつい口調が荒くなってしまった。
「なんだ、そんな事か。じゃあ向こうで食べようぜ!」とオウシロウは元居たところへ走って戻り、オレも「おうっ!」と走ってついて行った。
芝生の上にリュックサックが置いてあり、オウシロウはその隣に体育座りをして座ったのでオレもオウシロウの隣に体育座りで座った。
美味そうな焼きそばパンのラップを剥がそうとしたら突然目の前に食べかけの青々としたブロコッリーがあらわれた。
なんだ? と思ってオウシロウの顔を見たら「やる。出所祝いだ」と言うので「ありがとう」と受け取った。
「いいのか? これお前の昼飯だろ?」
「まだある」
そう言うとオウシロウはリュックサックからブロッコリーがまるまる1本入ったビニール袋を取り出した。
よかった。
「この世の――
「「全てに感謝を込めて、いただきます!」」
トリフがいつも言っている食事の前の挨拶をしたらオウシロウも一緒に言いやがった。こいつもトリフのアニメを観ているんだと思って少しうれしかった。
トリフは最高のアニメだからみんな観た方が良いと思う。
そしてブロッコリーをかじった。
「おいしい! あまい!」
ハフハフッハフッ!
「茹でたブロッコリーっうめえ!!」とオレが叫ぶとオウシロウも「おいしーーーー!」とブロッコリーをたべながら叫んだ。
あっという間に平らげてしまった。
モグモグモグモグうめえー!
「もう食べたのかよ」
「おお」(モグモグ)
「はい、これもやる」
「え……」
オウシロウはまた食べかけのブロッコリーを差し出してきた。
「いいよ。おまえ自分が食べるぶんもうないだろ?」と聞いたらオウシロウはリュックサックからニンジンを取り出して見せてきたので「サンキュ」とありがたく受け取った。
うめえーーーーーーーーーーーっ!
茹でたブロッコリーうめえーーーーーーーーっ!
ハフハフッ! と鼻息を荒くして夢中でかぶりついていたらオウシロウに「なんだその食べ方。犬みてえだな」と変な目で見られてしまった。
オウシロウの言うとおりだ。オレは最近犬みたいなんだ。自分でも気が付いていて、そのことで悩んでいたのでオウシロウに相談してみる事にした。
「オウシロウ……。オレ、最近変なんだよ……」
「どこが?」
「自分が自分じゃないみたいなんだよ」
オウシロウはポキッとニンジンをかじってムシャムシャと食べながら黙って話を聞いてくれた。
「オレのクラスに鈴木っていう女がいるんだけど、そいつを見たらなぜかわからないけどご主人様だって思って嬉しくて飛びつきたくなるんだ」
ポリッ、ムシャムシャムシャムシャ。
「それだけだったらまだいいんだけどさ……。嬉しすぎてさ、しょんべん漏らしちまったんだよ……。2回も」
ポリッポリッ、ムシャムシャムシャ。
「漏らした時は気持ちが高ぶっているせいかそんなに気にならないんだけどさ。あとでひとりになって思い返したときに、オレはなんてことをしてしまったんだって落ち込むんだよ」
「それがどうした?(ムシャムシャムシャ)」
「女の前でしょんべんを漏らすとか、最低だろ? オレもう恥ずかしくてアイツの目みれねえかも……」
その時だ、残りのニンジンを口に放り込んだオウシロウが突然立ちあがり叫んだ!
「くだらねえ! クソみたいな悩みだな! 反吐が出るぜ!!」
びっくりした!
「なんだよ突然! なんでキレてるんだよ!」
「知るかっ!! しょんべんもらしたくらいでガタガタぬかしてんじゃねえよ!」
「そんなにおこらなくてもいいだろ!」
「うあああああああああああああああああああああ!!」
オウシロウは叫びながらシャツの第一ボタンを外し首の後ろの方からシャツとTシャツを同時に掴んで引っぱって、するりと脱ぎ捨て上半身裸になった。
「何で脱ぐ!」
「相撲しようぜ!! 勝負しろ!」
意味がわからなくてムカついたから受けて立つことにした。
「いいぜ! やってやろうじゃねえか!」
オレは食べかけのブロッコリーを口に放り込むと、焼きそばパンを芝生の上に置いて立ち上がりシャツの第一ボタンを外してオウシロウがやったように首の後ろからシャツとTシャツを同時に引っ張って脱ぎ捨てた。
それから両手を構えて向かい合い。
「いくぞ!!」
「おう!!」
「はっけよい、のこった!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
オレとオウシロウは両手を組んで押し合い睨み合った、それからタックルして抱き合い、ベルトを掴んで持ち上げようとしたり、まわったりして戦った。
「うあああああああああああああ!!!」
「あああああああああああああああああああ!!!」
地面に倒れても抱き合ったまま転がったり上になったり下になったりまた転がったり激しい戦いが続いた。
「なんなんだよ! 親友なら少しくらい悩み相談にのってくれてもいいだろ!」
「勘違いするなよゴミクズ以下が。俺は何の権限もないゴミクズ以下のお前を強制的に親友にしてやっているだけだ。ゴミクズ以下のゴミみたいな悩み相談にのるかは俺が決めることだ」
「なんだとおおお! うああああああああああああああああーー!!」
「があああああああああああああああああああああああああああーーー!!」
忘れていた。オウシロウ、こいつはもともとゴミクズ以下だった。
初めて会った時からそうだ。いきなり『おい、ゴミ以下。俺の親友になれ』なんて話しかけてくるような奴だ。
オレはこいつに何を期待していたんだ。バカだな。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああーー!!!」
「しゃあああああああああああああああああああああああーーー!!!」
オレたちの声がうるさかったのか、周りにいた生徒たちが集まってきて人だかりになってしまった。
「なんだなんだ? 相撲か?」
「レスリングか?」
「いいぞ、もっとやれー!!」
「いけー!!」
「のこったのこったー!」
「ぎゃはははははは!」
「きゃああーー!」
「きゃあああああああー!!!」
「きゃああああああああああーーー!!」
男たちは煽って、女たちは黄色い声で叫んだ、「なにあれ~」「やだ……」「野蛮ね~」なんて軽蔑する女子の声も聞こえたが今はそんなことはどうでもよかった。
オレたちは真剣で、二人とも汗びっちょりで、さっきコケて転んだ時に出来た傷口からはもっと血が流れて、草や泥にまみれてボロボロになっても戦った。
「ぬああああああああああああああああああああああああー!!!」
「うああああああああああああああああああああああああー!!!」
「コラー! お前たちこんなところで何を騒いで……オウシロウっ!? 平岡っ!? またおまえたちかあああああああああああああーーー!!!!」
偶然通りかかった監督の熱田にブチギレられて、周りで見ていたやじ馬たちは解散させられ、オレとゴミクズ以下は正座をさせられこっぴどく叱られてしまった。
「まったくお前らは……、これで何度目だ。よし、罰を与えよう。グラウンド5周か、腕立て伏せ50回か、スクワット60回か、ふたりでフォークダンスをして仲直りか、先生の愛のこもったキスか、この中からどれか一つを選べ」
どうしよう、どれにしようかな……。
全部楽しそうだな……。
「さあ、どれがいいか。早く選べ」
俺がどれにしようか迷っているとオウシロウが「先生の愛のこもったキス」とムスッとした顔で答えた。
「だったらオレも。愛のこもったキスで」
オレも同じのを選んだ。
そうしたら熱田は「は?」と少し驚いた様子で「何だお前たち。キスは冗談にきまっているだろ。はははは、何を言っているんだ真剣な顔で。はははは、もういいよ。怒る気も失せた。あまり騒ぎを起こすんじゃないぞ? もう行っていいぞ。ほら」と顔を赤く染めていた。
* * *
「なんだよオウシロウのやつ。意味わかんねえ……」
ぶつぶつ呟きながらボロボロの身なりのまま1年1組の教室に戻って扉を開けた。すると――。
パンッ!
パンパンッ!!
プップーーーーッ!!
ピューイ! ピューイ!
突然クラッカーがはじけ飛んで、ラッパや指笛がなってびっくりした!
なんなんだいったい!?
「「「平岡大志くん! 出所おめでとうーーーーーーーーーっ!!!!!」」」
ピィーーーーー!!
ドンドンドンドンー!!
ピューイ!
「「「おかえりなさーーい!!!」」」
新聞紙の紙吹雪が舞い、新聞紙で作った花の首飾りを首から掛けられ、鈴木が「おめでとう」とニコッと笑って頭に新聞紙で作った兜を被せてくれた。
サングラスの奥でにやりとする担任。
5時限目はロングホームルームでクラスのみんながサプライズでオレの出所を祝ってくれたのだ。
「アオーーーーーーーーーーーンッ!!!! アウアウアウッアアンッ! アオーーーーーーーーーーーン!!!!」
(みんなあああああー!!!! ありがとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!!!)
オレは思い切り全身全霊、力の限り叫んだ!
「ちゃんと日本語しゃべれよゴミ!!」 教室の後ろの方から古川ヨシオが叫んだ。
最高のクラスだぜ。




