第九話 『接命反立』モノグラム
…あっなんで書きかけが投稿されてるの!?ってなってました。
それは『モノ』が目覚め、咆哮で足元の人間を跡形もなく消しとばしたとき。
『モノ』に縫い付けられた蝙蝠の耳が、高純度の魔力の爆発を捉えた。
『…¡¿』
魔力を感知する器官を持つ生物にとって、それは騒音に等しい。
故にその器官を複数持つ『モノ』は魔力の残滓を辿り、爆発を起こした主を追いかける。
『…!¡』
巨岩を砕き、木々を跳ね上げ、大地を踏み均す。
そうして辿りついた土煙の先に、ソレは立っていた。
『………¡!¡!?¿¿』
「…っ!?」
それは、見目麗しき少女。
「なんでよりによってこっちに来るんだよ…!」
燦然たる強大な力と惨憺たる忌まわしき何かを宿す、見目麗しき少女だった。
…理解不能。
それは『モノ』が、この人間を見て初めて抱いた感情だった。
『…?¿』
「…止まった?」
どうして。
『モノ』は困惑する。
それほど強大で性質の全く異なる二つのモノを内に抱えているはずなのに。
どうして平然と可憐な姿で立っていられるのか。
『…』
『モノ』は自らの肉体に視線を落とす。
不特定多数のモンスターのパーツを無理やりに縫い合わせた身体。
無論素直に適応するはずもなく、異なる性質の魔力が身体中で絶えず衝突を起こしている。
「まさかバグったとか……もしかしてハメ殺せる?」
繋ぎとめる糸が無ければ、その反発によって身が直ぐにでもバラバラに吹き飛ぶ程に。
「え、行くぞ?沈黙は肯定とみなしていいよな?」
理解不能。目の前の少女と自分には、何か致命的な差異が存在している。
「…よし!これは流石に肯定だろ!」
そして『モノ』が顔を上げ、再び視線を目の前の少女へと向けたその時。
「おりゃあ!」
『…!?!?』
顔面で二枚の魔法陣が接触し、巻き起こった爆発が数十の目と耳を揺らした。
しかし、その爆発は感じ取れる力からは想像もつかない程に貧弱な魔力だった。
『…¡』
思わず顔を背ける。が、今の爆発によって、『モノ』は自らの問いに対する仮説を得た。
彼女は二つの力で互いを制御しあうことで、力の調和を取っているのではないか。と。
そして、こうも考える。
調和の取れた存在はその本質がどうであれ、皆等しく美しくなるのではないか。と。
〈対象個体が各種基準値を満たしていることを確認〉
無論、その説は的外れも良いところだ。
モノにはプレイヤーのレベルという概念は理解できず、ソラは仕様の穴を悪用しているに過ぎない。別にソラは力の相殺とかそんな高尚な事が出来る存在では無い。
しかし、その仮説を信じた『モノ』は早速それを証明する為に、意識を体の内側へと向ける。
様々な魔力が波濤のようにぶつかり、うねり、混ざり合い、打ち消しあう。
その流れを制御しようと、『モノ』は静かに目を閉じた。
〈対象個体の足跡を遡及…人造モンスターであることを確認。解錠条件レベルを二段階上昇〉
うねる水面が徐々に静まっていく。
〈…解錠条件の達成を確認。〉
頭の中に鍵が外れる音が響く。
〈対象をモンスターの理から除外〉
〈各種能力制限のリミッター解除〉
〈対象個体を命名…【『接命反立』モノグラム】と登録〉
『……』
その『モノ』…いや、『モノグラム』は静かに目を開く。
〈討伐報酬及び部位破壊報酬を強化。対象個体の新たなる生に幸あらんことを〉
「え、動いた…?」
鍵が外れたことで、荒れ狂っていた体内の魔力が完全に調和した『モノグラム』は、全ての部位の能力ーー正しく生まれてきたならば、いずれ使えたであろう能力ーーを手に取るように掌握した。
『……』
『モノグラム』は彼の翼を広げ、我が身と成った脚を踏み出す。
自らの美しさを証明する為に。
ツギハギの麗姿に、その身をもって確証を得た仮説を刻む為に。
姿形が変わらないのはプレイヤーだからじゃね?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、AAOでは強大な呪いで身体が異形に成り果てたり、力の代償としてそれに溺れることもあります。そうなっちゃったプレイヤーが既に十数名ほど…
あと、極稀に種族まで変わっちゃうやつもあります。
まぁソラには全く関係ないので、『モノ』くんの考えていることは雑で愚かで独りよがりな完全なる思い込みなんですけどね。
故に『証明』を名乗れない。当然の事です。
『自動鑑定』さんの不定期トリビア
〈【『接命反立』モノグラム】〉
それは、生まれ落ちるはずのなかったモノ。
それは、確かに産まれ落ちてしまったモノ。
『生命のもつ美しさ』を否定するために造られた彼を構成する身体は、多数の生命の欠片を細い糸で繋ぎ止めているだけに過ぎない。
しかし彼は自ら立てた仮説に則り、他人に定められた存在意義を打ち破ってツギハギの身体を高みまで押し上げた。
もし彼がその仮説を、調和の持つ美しさを証明し、真の一個体へと成った時。
その時は彼が最も求めた『真に美しき存在』が産声を上げる事になるだろう。