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第七話 虚飾のシンピジウム

いつもご愛読いただきありがとうございます。


「悪質なPKを繰り返してると街に入れないんだなぁ…デメリットデカすぎない?」


何かがPKたちをそこまで突き動かすのか、それとも単に後戻りできなくなっているだけなのか…



俺は兄と別れた後、必死の形相で襲いかかってきた顔も装備も真っ赤なPK共に追い立てられるようにしてアークトリアに駆け込んだ。


初狩りとかいう害悪行為にムカついて盛大に煽り散らか(メスガキムーブ)したのが良くなかったか…危うく理解(わか)らされるところだった。


やはり安易な煽り行為(メスガキムーブ)は身を滅ぼす。肝に銘じておこう。


ちなみにPK共は正門に近づいた時点でプレイヤーと門番NPC達に袋叩きにされている。楽しいAAOライフを邪魔する奴らは散滅すべし!



「…さて、これからどうするか。」


俺は再び大通りを歩きながら考える。


ここで一旦ログアウトしてもいいが、初めてのAAOで未だにレベル1なのは流石に物足りない。


とは言っても、まだ真っ赤な奴らが蔓延ってるかも知れない草原に戻るつもりは無いし…


「えーっと…他の初心者向け狩り場は…」


俺はゲーム内から攻略サイトにアクセスする。


草原は論外として…洞窟はあんまり好みじゃないかな?


なら残るは…







と、いうことで。


俺は例の草原とは正反対の場所にある『アルテアの森』に足を運んでいた。


この木漏れ日と野生動物の営みが溢れる穏やかな森林では 大気中に蛍のように光る魔力がふわふわと漂っており、愛くるしい動物たちも併せて最高の癒しスポットなのである。


しかし、神秘的な光で『魔力視覚』が妨害されてとても見づらい。『魔力索敵』が大気中の魔力を拾わない仕様でほんと良かった。


うん?目の前で何やら動くものが……っあれは!もっふもふの兎!癒し確保ぉ!


「絶大なアニマルセラピーを感じる…」


俺は思わず抱きかかえてしまった兎を撫でながら呟く。


うむ…中々上質なモフリティーだ。家に持って帰りたい。




そんな感じでいたって真面目に、それはもう真剣に森を探索すること暫く。


「お、やっといたいた。」


比較的ほかのプレイヤー達から離れた場所で、十匹ぐらいで群れるスライムたちを発見した。


うーん…群れると絶妙にキモい。


「さっさと倒すか」


俺は身体の周囲に魔法陣を三枚展開する。


その魔力に反応したのか否か、スライム達は身体をぷるりと震わせると、此方に向けて飛びかかってきた。


「よし、行け!」


身体の周囲に浮かべた魔法陣が、スライムの突撃をしっかりと受け止める。


俺は魔法陣にベタリと張り付いたスライムを振るい落とすと、そのまま二枚の魔法陣をスライム達の頭上で衝突させた。


ドン、という一際大きな音と共に魔力が大爆発し、スライムの群れはたちまち地面のシミとなる。


「思ったより派手に行ったなぁ…」


予想以上に大きな音と魔力が広がってしまった。


あぁ『魔力索敵』に映る野生動物たちが離れて行く…そしてプレイヤー達は何事かと近づいてくる…


「…逃げるか。」


俺は徐々に迫り来る喧騒に背を向けると、魔法陣を足場にして樹上へと駆け上がった。





 * * * * * * * * * * * *








『』


それは元々、不完全に生まれ落ちた生命の断片だった。



『…』



テイマー系もしくは研究職系《第六職》の中でも、「ソッチ系」にのみ許される、『モンスターの創造』という行為。


その行為をとてもシビアなタイミングで故意に失敗させた場合に生まれ落ちるのが、“モンスターのなり損ない”と呼ばれる身体の一部であった。


その事象の発見は偶然。しかし、そのパーツを見た倫理のタガが外れた者が素晴らしい発想を思いつく。


曰く、『不完全に生まれ落ちたというのなら、足りない部分を繋ぎ合わせて補完すれば完全なモンスターになるのではないか。』と。


すぐさまその発想は実行に移された。


しかし不思議なことにその男は、『相性』或いは『バランス』と言った整合性を考慮しなかった。


見た目の美しさ、パーツの機能性、体幹等々。そういった様々なシナジーを全て度外視し、ただ足りない物を『埋め合わせる』ことだけを考えて造られた“モノ”。


出来上がったそれはどうしようもなく悍ましく、生命を冒涜するような姿をしていた。




『……』




そうして、本来なら生まれ落ちることのなかった“モノ”。


最初に認識したのは、自らを作り上げた創造主の満足げな微笑みと呟きだった。




『確かに君の見た目は、私をしても流石に美しいとは言えないかもしれない。だが、君を『生命の美しさを否定する』存在と捉えればどうだろうか?…もし君がその生き方を望むというのなら、君の醜悪さはこの世のどんな宝玉よりも価値のある、美しいものになると断言するよ。』




バラバラに付いている耳に届く、いびつに歪んだ声。


しかし、どうしようもなく醜く造り上げられた自分に、美しい生き様を指し示す声。


生まれたての“モノ”が自らの本能に『生命の否定』を刻み込むには、充分すぎる言葉だった。



───



──













それから幾許の時が過ぎた頃。


『………¿』


長い微睡みから唐突に意識を引っ張り上げられた『モノ』の目に映ったのは、美しい野生動物とモンスターが織りなす、どこまでも神秘的で、静謐で、それでいて活気のある森林だった。


『………‼︎‼︎』


『モノ』は、その生命の神秘が溢れる光景を、とても美しく、貴いものだと認識した。









故にそれを砕き、壊し、踏み躙らねばならぬと考えた。


『………¡¡¡』


『モノ』は彼の物ではないツバサを広げ、我が身ならざるアシを踏み出す。


生命の美しさを否定する為に。


ツギハギの醜姿に、美しい生き様を刻む為に。


全部乗せが一番バカでカッコイイとして、

それが果たして長所を打ち消しあって大味となるか。

それとも長所を引き立てあって絶品となるか。


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