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第六話 魔法陣は鈍器にジョブチェンジした!

いつもご愛読いただきありがとうございます。


Q.俺に向けて見るからに凶悪な大剣が振り下ろされようとしています。距離的にも回避が間に合わなさそうです。どうしたらいいですか?


A.死ぬ気で避けろ。無理そうなら諦めろ。




「諦めたら試合終了なんだよなぁ!」


俺は咄嗟に自分の姿勢を出来るだけ低くすると、相手の懐に向けて一歩踏み出した。


後ろに下がってもどうせ回避は間に合わないんだ。


なら、この状況で必要なのは勇気!信頼!スライディィィィンッッ!


「おりゃぁあ!」


頭上に迫る冷たい塊をビリビリと感じながら、俺は姿勢を変えて相手の脚の間に滑り込む。


「…っぶな!セーフ!」


髪の毛は汚れたが間一髪で股抜け成功。あたり判定の小さいアバターじゃなければ今頃真っ二つだっただろう。


「……」


赤い鎧の男はゆっくりとこちらを振り返ると、再び大剣を静かに構える。





直後。


「…『縮地』」


「…っ!?」


男はその巨体に似合わぬ俊敏な動きで距離を詰め、俺に肉薄する。


そして肉厚の凶刃が、今度こそ俺の首を落とさんと振るわれた。


いや、初心者狩りに本気出してんじゃねぇよ!?


無言の抗議と咄嗟の防御も虚しく、薙ぎ払われた大剣は俺の首を地面へと転がした。




…はずだった。




ガキィィィイン!


「「!?」」


鳴り得るはずのない硬質な音が辺りに響き渡る。


恐る恐る手元に視線を向けると、手の甲に展開していた『魔力固定』中の魔法陣が、大剣の刃をしっかりと受け止めていた。


「…え?」


「…は?」


あまりにありえない事象に思わず固まる二人。





そしてその隙を見逃さない者が一人。


「オラァ!」


「…っ!…陸兄!」


風切り音と共に投げられた剣が男の頭を貫き、男は一言も発する事なくポリゴンエフェクトの海へと還っていく。


「ソラ!大丈夫か!?」


兄は投げた剣を拾い上げると、慌ててこちらに駆け寄ってきた。


「うん…何か色々な事がいっぺんに起きて訳が分からなくなってるけど…」


俺は手元で光り輝く魔法陣を見つめる。


お前…まさか、やれるのか?





 * * * * * * * * * * * *





あの後検証を重ねた結果、幾つかの有用な事実が判明した。


まず判明したのは『魔力固定』された魔法陣は、その魔力回路…要するに魔法陣を描いている紋様が破壊されない限りあらゆる攻撃に耐性を持つという事だ。


そもそも『魔力固定』とは、魔法陣を発動待機状態で保存するスキルであり、いうなれば消費前のMPそのものが実体を伴っているという考え方も出来る。


故にどれだけ攻撃力の高い武器だろうと、魔力そのものに干渉出来なければこの魔法陣を打ち砕く事は出来ない。


一方で弱点もはっきりしている。対魔法用の武器やスキル、そして魔力そのものによる攻撃を受けると、魔力回路の破損によって爆発を起こしてしまうのだ。


因みに魔法陣同士をぶつけても互いの魔力回路が干渉し合って爆発が起こる。とぉっても悪用できそうな仕様だ。


そしてもう一つ…個人的にはこの仕様がめちゃくちゃ嬉しいのだが。


それは魔法陣が判定的に俺の魔法として扱われるので、魔法陣の殴打も爆発も魔法による攻撃と見做されて《賢者》のバカ高いINT補正が乗ってしまうという事だ!やったぜ!



「魔法陣を鈍器として使うか…この破壊しづらい仕様もこんな使い方を想定して付けられたものじゃ無いんだろうなぁ…」


魔法陣を展開した拳を繰り出す俺を見て兄が呟く。


多分運営は設置した魔法にある程度の除去耐性をつけたくてこう言う仕様にしたんだろう。ありがたく悪用させていただきます!(ニッコリ)



とは言え、魔法陣が硬くても本体が紙耐久である事には変わりない。


流石に片手盾より小さい魔法陣で全ての攻撃を防ぐのは無理があるし…



「…上手くやれない事もないけど、相変わらずキツいって感じ。」


「そりゃ魔法なしの魔法職とかいうキツすぎる縛りプレイだからな。むしろそれで“いけんく”程度で済んでるのがおかし…」


兄の言葉が途中で途切れる。


表情が兄に似合わぬ真剣な面持ちへと変わった。


「…どうしたのそんな旅行先で鍵の締め忘れに気づいた見たいな顔して。」


「いや…むしろそっちの方がマシだったかも知らん。ちょっと急用が出来た。」


そうして兄は何やらウィンドウを操作すると、手元から青い結晶を取り出す。



『転移結晶』

自分が行ったことがある場所に転移できる使い捨てアイテム。明確なオブジェクトを定めると、転移座標のズレが少なくなる。



へぇ…『自動鑑定』ってこんな感じで作用するんだ。中々便利だな。


「…何かヤバそう?」


「今回の急用はNPCにも被害が出るかも知れんからな…このゲームのNPCは一度死ぬとリポップしないんだよ。」


結晶を床に叩きつけると、青い光が辺りを照らす。


「いいか?絶対に知らない人に着いて行くんじゃ無いぞ!あとカレンというプレイヤーと関わると面倒だからやめとけ!絶対にだぞ!」


兄は光の中から言い放つと、返事も聞かずに青い光の粒子となって何処かへと飛んでいった。




プレイヤー:リクとのパーティーが解散しました。




ログが流れ、メニュー画面から兄の名前が消える。


「俺は子供か…てか、カレンって人は一体何をしたんだ?」


陸兄の性格的に、単純にカレンって人と仲が悪いだけに思えてしまうのは気のせいだろうか…




…あと、さっきから『魔力索敵』にチラチラ引っかかってる赤い装備のお兄さんたちー?


陸兄が居なくなった途端に殺意マシマシになるのやめていただけますかー!?



固定された魔法陣は、あらゆる物理攻撃や自然現象を無効化します。

これは想定された『魔力固定』の活用法が「罠のように遠隔で発動できる魔法」なので、それが剣や投石程度で剥がされてしまうのはあまりにも弱すぎると判断された為です。


逆に魔法による攻撃や、魔法を無効化したり掻き消したりするタイプの攻撃には非常に弱く設定されており、攻撃を受けた魔法陣は三秒後に起爆します。

これは折角設置された魔法を除去したのに、巻き起こった魔力爆発に巻き込まれるというクソ見たいな展開を未然に防ぐ為です。


因みに魔法による攻撃は威力次第で弾くことが出来ます。キッカリ三秒後に起爆はしますけども。

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