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第五話 戦力把握、つまり割と残酷な事実確認

いつもご愛読いただきありがとうございます。


「終わった…俺の楽しいAAOライフ…」


俺はその場に倒れこみ、無性に青が澄み渡っている青空を見上げる。


「《賢者》…聞いたことねぇしネームバリュー的にまさか《第六職》か?どんだけ低確率引いてんだコイツ…」


視界の端で未だかつてないほどに動揺している陸兄の様子を見るに、案の定《賢者》は大当たりだったようだ。


どうせならゲームの先行抽選で発揮してほしかった。ここで来られても幸運と不運がニコイチなのだから実質0、下手したらマイナスなんだよなぁ…


「《第六職》って?」


背中に石畳の冷たさを感じながら問いかける。あ…カラス鳴いてる…まだ空は朝なのに…


「おいおい掲示板ぶっ壊れるほど話題爆発したってのに何で知らねーんだよ。死ぬほど動画漁ってたんじゃねーのか?」


「あのね陸兄。持ってない、やりたいけど出来ないゲームの実況を見るのって、段々とやりたい欲が抑えきれずに苦しくなって来るの。で、終いには関連情報を積極的にシャットアウトする様になる。」


「…そこまでいくか?」


「あなたには分からんでしょうね!(半ギレ)」


性格はロクデモナイくせに身の丈に合わぬ豪運を抱え込んでいる陸兄曰く、《第六職》は最上位職の総称らしい。一から三までが下級職で、四から五までが上級職。そしてさらにその上が《第六職》。


「んで《第六職》は死ぬほどクセが強くてな…」


性能も何もかもクセが強い《第六職》の取得条件にパターンなど無く、多彩で複雑かつ軒並み高難度。


ある程度テンプレがある第一から第五までとは違い、思いがけず見つかったもの、いまだ発見されていないもの、NPCに存在自体は仄めかされてるけど条件が分からないものなどがザラにあるそうだ。


そして、いつしかそれら未知の開拓を積極的にに行うプレイヤーを『最前線攻略組』と呼ぶようになった。




「純粋な魔法使い系統の《第六職》は今まで4種見つかっているが、確か《賢者》なんてものは無かった。とっっっても面倒なことになったのが理解できるか?」


「わぁ…とんでもない厄ネタだぁ~」


未発見の最上位職が初心者限定のガチャから転がり出てきたとあれば、どうあがいても火種にしかならないなぁ?ほんとなんでこんなん引いたんだろう?


「でも、俺は肝心の魔法が使えないと…陸兄、《第六職》のポテンシャルでどうにかできそう?」


ファンタジーにお馴染みの『剣と魔法の○○』のキャッチコピ-を蹴り飛ばすような呪いも、規格外の《第六職》の持つ理外のパワーで何とかなるものなのだろうか?



「《賢者》の前例がないから何とも言えんが…同系統の《第六職》から見るに、恐らく長射程広範囲高火力を強みとする後衛アタッカーと見ていいだろう。なら当然機能不全だな。」


「殴り魔は?」


「ん~…前提としてあいつら、防御の乏しさを魔法による自己強化で補ってんだよなぁ…」


「じゃあダメじゃーん!」


俺は起こしかけた体を再び大の字に横たえる。



くっそ…めちゃくちゃアカウント作り直したい!現実世界の美少女ボディーがどうなるか分からない怖さを天秤にかけてもアカウント作り直したい!


「まぁ今言ったのはあくまで憶測だ。《第六職》、特に《ゼクススキル》は使ってみないと推測なんて無理に決まってる…と、言うわけで。」


そこで言葉を切った陸兄は剣を抜き放つと、近くの壁に向けて投擲した。


「試し切りだ。俺も気になるから外行くぞ。」


「それは良いけど…その剣は一体何するつもり?」


兄は頭上の剣がしっかり壁に突き刺さったのを確認すると、俺の小さな体を小脇に抱えた。


「馬鹿正直に正門から行くよりこっちのほうが早いんだ…よっ!」


「えっ…お…おわぁぁぁ!?」


陸兄が剣に向けて手を伸ばした瞬間、景色が一瞬で下へと引っ張られる。

どう見ても違和感のある挙動によって、兄と俺は聳え立つ壁を飛び越えていた。





 * * * * * * * * * * * *





見渡す限り続く草原と森林。


遠くに聳え立つ巨大な山脈。


馬車や人が活発に行き交う石レンガの道。


アークトリアの外には、世界の大きさを感じさせるような雄大で力強い自然が広がっていた。


「…あーもう先にこっち見ときゃよかった。」


開始早々に重荷を背負い込んだせいで素直に感動出来ないんだけど。なぁ陸兄?


もし初々しい反応をお望みなら海外ニキの反応集に行ってくれ。

相変わらずパッケージ版しかないから実況してる人は限られるけど、みんな喉が張り裂けるほど叫んでるよ。



「まずは把握!」


「あいあいさー」


俺は言われた通りにスキルを確認する。


賢者になった影響で、殺風景だったウィンドウの中にいくつかのスキルが生えてきていた。




PN:ソラ《RL》

LV:1

職業:《賢者》


HP/体力:30


MP/魔力:110




STR/筋力:3


VIT/守備:13


DEX/器用:34


AGI/敏捷:56


INT/知性:103


スキル:魔力索敵、魔力視覚、魔法創造、詠唱破棄、魔力耐性極大、魔力精密操作、魔力固定、MP自動回復極大、自動鑑定


ゼクススキル:魔導叡刻(マナソフィア)()星幽書庫(ビブリオチカ)





ステータスの基準は分からないが、レベル1の時点で魔法に関連するステータスが三桁もあるのは流石《第六職》といったところか。


「そう言えば…陸兄。ゼクススキルって何?」


「《第六職》を規格外たらしめる専用スキルだ。主に『一撃必殺系』『自己強化系』『固有領域系』に分類されるが…どれも初見殺し臭くて嫌な記憶しかねぇ…」


うわ。センブリ茶飲んだ時みたいに顔をしかめてる。よほど苦い思い出なのだろう。


「つまり、このスキルがあれば幾らでもやりようはあるってこと?」


「それぐらいの力が『ゼクススキル』にはある。検証といくぞ!」


じゃあ、まだ希望はあるって事だ。


「了解!『魔導叡刻(マナソフィア)()星幽書庫(ビブリオチカ)』!」


俺は新たに生み出された一条の期待を胸にゼクススキルを発動する。



その瞬間、巻き起こった突風と共に足元に極彩色の眩い光が収束すると、幾重にも重なり合った複雑精巧かつ美しい魔法陣が足元に展開された。


…が、引き起こされた現象はそれだけだった。


「何かすごーく嫌な予感がする。」


俺は震える手ですぐさまステータスを開き、詳しい解説を確認する。




魔導叡刻(マナソフィア)()星幽書庫(ビブリオチカ)

発動時、指定した相手と自身を《星幽書庫》へと転移させる魔法を発動する。

このスキルの持ち主が《星幽書庫》内にいる間、自身に『無限魔力』『魔力完全耐性』『無制限並列詠唱』『自動魔法行使』『広義的拡大解釈』『魔法範囲火力極大』『記録干渉権限』を付与する。



へぇ…


ほぉ…


ふぅん…



……“転移させる魔法”…ですか。



「つまり、呪いで転移の魔法が発動できないから不発ってワケだな。…ドンマイ!」


「…泣いていい?」


俺の抱いた一条の期待は残酷な現実に容易くすり潰された。






…こっから巻きで。




『魔力索敵』

魔力を持つ生物及び物体の場所を把握出来る。飛来する魔法なども探知可能。




このスキルは探知スキル。魔力さえあれば範囲も全方位に広く精度もかなり高いという優れモノだ。


試しに兄に隠れてもらったが、視界の端に常に表示されているミニマップにしっかりと青い点が表示されていた。


惜しむらくは、マップに表示するという都合上二次元的にしか捉えられないということか。




『魔力視覚』

魔法の魔力や行使した後の残滓、マジックアイテムなどのあらゆる魔力を視認出来る。また『自動鑑定』と併用すれば、魔法陣を見る事でその魔法の情報を解析する事も可能。




こちらは有効射程が短い代わりにより立体的に、より鮮明に魔力を捉えられるスキルだ。


魔力であれば残滓でもモンスターの姿でもポケットの中の宝石でもなんでも見通せる。


しかし、魔力が色覚的に見えるためこれはこれで視界が煩く、目も疲れそうなので多用はあんまりよろしくない。


え、魔法陣の解析?解析したところで魔法が発動しなければどうしようもないでしょ…





因みにその肝心の魔法はこんな感じ。


「はぁっ!」


突き出した手の先に魔法陣が描かれると、そこに魔力張り巡らされた魔力が光を放つ。


この状態は“発動待機状態”と言われ、基本的に呪文の詠唱中はこの状態となる。(因みに俺は省略できる。意味は無いけど……意味は無いけど!)


普通ならばそこから魔法を発動したり、キャンセルしたりできるのだが、俺の場合はそこからいつまでも進展しない。魔力が分化しないまま死んでいくのだ。


「あぁ…崩れていく…」


「未発動の魔法陣ってこうなるのか…」


そうして魔力は炎にも雷にも変換されずに、そのまま霧散して雪解けのように消えてしまう。


その儚さは風情があって大変結構。俺からすればやるせなさしか感じないけども。




…次!



『魔法創造』

魔法陣の魔力回路に干渉し、一から新たな魔法を作り出すことができる。新たに作られた魔法は《記録》される。既存の魔法の組み合わせや簡略化も可能。


はい作れても使えないから完全に意味がない!マジでどう足掻いても意味がない!ふざけてんのかコラァ!




『魔力固定』

魔力及びそれらで構成された物質を固定し、一定時間その状態を保持する。

発動待機状態の魔法陣に対して使用した場合は、その魔法を時間差かつ遠隔で発動できる。




「おぉー!消えない!」


このスキルを使うと、魔法陣が自然消滅しなくなるのだ。


本来ならこれで任意発動の地雷原とか出来るんだろうが、やはり俺には全く意味がない。


そしてこの状態の魔法陣に意識を集中させると、魔法陣を手の先から背後に移動させたり、頭上を旋回させたり、身体の周りを巡回させたり、その場で高速回転させたりと自由自在に動かせる。


恐らくこれは『魔力精密操作』の効果だろう。効果範囲は大体5メートル程度だった。


「…これって何か使い道あるのかな?」


俺は魔法陣をそっと掴む。


…感触としては硬いガラス板に近い。それなりの耐久性があるなら何かに活用出来るか…?



「機能不全だらけだ…」


「それでも、思ったより何とかなりそうだけどな。やっぱ《第六職》は違…っ!」




陸兄の声が途切れる。


風にそよぐ草木のざわめきがどんどんと遠のいていく。


「なっ…ソラっ!!」


「っ!な、何!?」


空気を揺らす様な覇気の籠った兄の声に、俺は慌てて意識を周囲に向ける。


「…っ!」


『魔力索敵』に反応。背後に赤い点が一つ。


咄嗟に後ろを振り返った俺の視界は、大剣を振り上げる全身を赤い鎧で固めた大柄の男で埋められた。




『やっぱ初狩りが一番つまんねぇよ。スリルも無いしうまみも少ないしその癖に安っぽいヘイトはクソみたいに溜まるからマジで面倒。やってる奴は雑魚か馬鹿か何か組織的なデカい目的があるかぐらいだろ。』


『と、初心者に返り討ちにされた雑魚が申しております。』


『イキリ小学生くんピキピキで草』


『そもそもPKしてるやつに貴賤なんかあるわけない定期』


『〇ねカス』


『お前が○ねやカス』


以下、罵詈雑言。


ーPK専門板の書き込みより引用ー

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