第四話 大吉には大大凶が付随する
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俺は陸兄に連れられて、人気のない路地裏をどんどん奥へと進む。
「普通はギルドで初期職に就いて、そっからコツコツがセオリーだが…これが発見されたのは発売から三ヶ月ぐらいだな。ギルドに向かおうとして迷った新規プレイヤーが見つけたのが多分最初だ。」
「あれ、ギルドって大通りに面してなかったっけ?」
「しかも初期リスから一本道なんだよなぁ…」
「あぁ…なるほど。」
きっとあの人混みを避けて変に近道しようとしたんだろう。わかる、わかるよ。それはもうかなり大変だったからね…
「んで、見つけたそれが職業ガチャ…通称『初心者救済(笑)ガチャ』だ。」
「その通称ツッコミどころ多くない?」
律儀に(笑)までしっかり発音する陸兄曰く、このガチャの出現条件は【初めてから三日以内】かつ【未だ職業に就いた事の無い】プレイヤーが【街中で極端に人気の少ない場所に行く】事でフラグが立つらしい。
噂では、これを検証する為に多くのプレイヤーが垢を作り直したんだとか。
「うーん。キツいけど割と起こり得るなぁ…」
「最悪見つけられない事も想定されてたんだろ。発見当初は色んな意味で盛り上がったが、もう長いことガチャを求めて路地裏に行く物好きは見かけてない。」
「それはまたどうして?」
その運試し…もとい『初心者救済(笑)ガチャ』は、多分初心者のスタートダッシュ要素なんだろう。
ならギルドに赴いて初期職を手に入れるよりも、多少は高性能な職業に就けそうなものだが…
「そのガチャは職業とセットでヤバい呪いが付いて来る。しかも、職業の等級が上がるにつれてヤバさも加速していく累進課呪制度込みだ。」
これは実例らしいが、そのガチャで戦士系第三職の一つ、『《疾風剣士》』と言う職業を手に入れたとする。
すると、それと共に【戦闘時、装備耐久の減少値が10倍になる】と言う呪いが付与されたそうだ。
とんでもない闇ガチャだな。
「…えぐ。」
「呪いの種類によっちゃ利用できない事もないが… どちらにせよ何かしらの縛りプレイを課されるのが救済(笑)たる所以だな。途中下車出来ない縛りプレイは本人に適性がないと辛いだけだし。」
既存プレイヤーとの格差の埋め方が雑だなぁ…
まぁ恐らくコレは運営からのメッセージでもある。『ガチャなんか引いてないでコツコツ強くなれ』とでも言いたいんだろう。
…って、ちょっと待て。
「それ、どう転んでも敗色濃厚じゃない?」
「…一応ギャンブルだぞ?内訳は総合的に見てハズレに偏ってるがれっきとした……っと、あれか。」
立ち止まった陸兄の視線の先には、薄暗い路地裏の真ん中にポツンと置かれているガチャの躯体があった。
「行ってこいソラ!お前なら何とかなる!」
「悪評を聞かされたせいで気が進まないんだけど!?」
あたりとハズレがくっついてくるガチャとかギャンブルもくそもあるかぁ!?
ぐぬぬ…かと言ってここまで来てしまった手前引き返すのも面白くない。
くっそ…陸兄の誘導にまんまと引っかかってる気する!
「…仕方ない。」
俺はガチャに近づくと、手を伸ばしてハンドルをしっかりと握った。
「無難!無難でいい!下手にレアだと縛りキツくなって怖い!」
回るハンドル。歯車が噛み合う感触。
一瞬の沈黙の後、俺の足元に静かにカプセルが転がって来た。
「ヒュッ…あぁもう絶っ対無難じゃない。」
透明なカプセルを隔てた中。
薄い謎材質を隔てた中には、黄金色に染め上げられた宇宙のようなな光と、どこまでも光を通さない底無し沼のような闇が混ざることなく押し込められている。
明らかに特級呪物。
もはやパンドラの箱とかコトリバコの類だ。
開けたら絶望が溢れ出て底に希望が残されるんじゃないか?
「本当にこれ開けるの?」
恐る恐る後ろを振り向くと、陸兄が背後でとっても面白そうな表情を浮かべていた。ほんとにこの兄は…
「はぁ…マジで人の人生をなんだと思ってやがる…」
俺は溜息を吐きつつカプセルに手を掛ける。
まぁいい。どうせダメだったら垢を作り直すだけだ。
現実がこの姿に変化した都合上、下手に垢変えするとどうなるか分かんないけど…うわ嫌なこと思い出しちまった散れ散れ!
「そいっ!」
邪念を払う一捻りでカプセルの蓋が開き、飛び出した清濁併せ持つナニカが俺の身体に吸い込まれる。
職業:《賢者》を入手しました。
「賢者?」
「…は?今なんて言った?」
陸兄が表情を変えた。…まさか大当たりか?
そうなるとデメリットが怖すぎるぞ!?
呪い:【確定で魔法が発動しない】が付与されました。
…
……
………パタッ。
「…」
今日は記念日。
初心者プレイヤーであるソラが、兄の甘言によって強制殴り魔ビルドが確定した記念日だ。
ネタ抜きの寿司!つまりただの酢飯!
チーズ抜きのドリア!つまりただのピラフ!
カレー抜きカレーライスは言わずもがな白米!
でも、最悪全部チャーハンにしてしまえば美味しく食えるんだよなぁ!香味ペースト最高ぉ!
…って感じの小説になりそうです。ナンダコレ。