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第十一話 見えた勝機、失せた正気

いつもご愛読いただきありがとうございます。


嫌がらせ(やりたい事)とは何か。


特にしっかりと考えてはいない。ただ、あの怪物(クソモンス)が苦しんでくれればそれで良い。


「やばい楽しい!何か今スッゲー楽しい!」


先刻まで色々とストレスで抑圧されていた分、今の俺は眼をギラつかせて生き生きしている気がする。

最高に『ハイ』ってやつだァァァ!


尾をかい潜り、鱗を弾き、振り下ろされる獅子の爪を躱して肉薄。


『…¡¿?』


「お背中失礼!」


そのまま魔法陣で空を駆け上がると、翼が弾け飛んで乗りやすくなった怪物の背中に飛び乗った。


「…さて、何をしてやろうか。」


俺は針の様な毛がびっしりと生える虎の胴体に腰を下ろすと、その毛並みを観察する。


…クッソ硬い。体毛というよりカーボンファイバーとかそっち側だろコレ。


「うーん…やっぱ外部からは無理か…」


「‼︎‼︎‼︎」


「うおぉ!!」


どうやらじっくり腰を据える時間を与えるつもりが無いらしい怪物が、背中に付いた()を振り落とさんと身体を大きく振り乱す。。


俺は咄嗟に生えていた毛を掴むが、身体が無茶苦茶に振り回されるせいで上手く力を込められない。


「あっ、待っうべしっ!」


身体が宙に持ち上がり、ゴワゴワした体表に身体が叩きつけられる。


「うぐぅ…貴重な体力が削れやがった…」


俺は2度目の叩きつけを回避すべく、もう片方の手で叩きつけられた箇所の毛にしがみつく。














…その時。


「…っ!」


低く垂れ込めていた雲の隙間から月が顔を覗かせ、無惨に踏み荒らされた森の跡を夜風と共に冷たく映し出す。


そして月の光は惨状だけでは飽き足らず、怪物の体表に残る攻略の鍵をも照らし出した。


「コレは、翼の…」


俺が伸ばした片手で掴んでいるかつて翼が付いていた箇所の断面。


そしてその断面から飛び出しているモノ、俺が今懸命に握りしめているモノは、明らかに体毛とは似て非なるものだった。


「毛…いや、これは…」



魂接綴寧(こんせつていねい)なサージカルシルク』

とある特殊な絹から丁寧に作られた縫合糸。

宿る魔力で強化された縫合力は魂すらも繋ぎ合わせる。



「…っ!『自動鑑定』!?」


描写が面倒でずっと影が薄かった『自動鑑定』がついに活躍する。


爆散した翼を繋ぎ止めていた縫い糸が、その役目を終えて傷跡から飛び出していたのだ。


「…」


再び襲いくる振動。しかしもうしがみつく必要はない。


俺は片手を振るい身体を宙に投げ出すと、落下する身体を魔法陣で受け止めた。


そしてその手の中に握られたものを見るやいなや、俺の顔に零れ落ちんばかりの笑顔が溢れる。


「これは…」


俺の傍目から見ても小さな掌の上。


「ひょっとしたらひょっとするかもしれないなぁ…!」


魔法陣によって断ち切られた白い糸が、月の光を受けて淡く輝いていた。





 * * * * * * * * * * * *








本体に攻撃は通らなくとも、パーツを繋ぎ止める糸なら魔法陣で断ち斬れる事が判明した。


本当ならば片っ端から糸を切り裂いて解体してやりたい所だが、毒のせいで残された寿命は4分を切っている。


「…時間的にっ!切り離せるのは一箇所ぐらいかなぁ!」


俺は次々に飛んでくる斬撃を迎え撃ちながら走る。


切り離すにしてもなるべく効果的な場所にしたい。足は多すぎて焼石に水だし、尻尾は正直無くてもそんなに変わらないだろう。


とすれば…


「…やっぱり首か。」


俺は倒れた巨木の影に伏せると、大地を踏み荒らしながら向かってくる怪物に目を向けた。


狼の頭と虎の胴体の境目。


そこを切り離す事が出来れば、死なないにしても戦力を大幅に削れる。


「でも…時間がないんだよなぁ…」


とは言え首元は特に毛が厚く、距離的にも頭を齧られ放題の場所だ。


苛烈な攻撃を掻い潜りながら、鋼鉄のワイヤーのごとき毛並みをかき分けて細い縫合糸を全て切れるのかと言われると…


…うーん、多分無理。



「!‼︎!」


「うぇえ!?」


その時、いつのまにか接近していた斬撃が巨木をバターの様に切り裂いた。


「…っ!」


俺は間一髪の所で魔法陣を当てると、巻き起こる爆発が斬撃を飲み込んで消滅する。


「…」


…これ、使えるかも。


木屑で曇る視界の中光った一瞬の閃きが、正気の沙汰とは思えない突破口を照らし出した。


「時間は…あと3分か。」


平常時ならば、自分が今からしようとしている作戦(奇行)が、普通に糸を切るよりも難易度が高い事に気づけただろう。


「ま、律儀に生き残らなくても良いし大丈夫だろ。」


しかし、初日だけでお箸が立つほどにドロドロで濃厚な体験をした人間の脳味噌に、マトモな判断力が残っているワケが無かった。


『!!!!!』


「よーし!どうせなら派手に死んでやるぞー!」


俺は再び飛来する斬撃の姿を確認すると、近くにあった手頃な倒木に魔法陣を何枚も突き刺す。


「…よし、飛べ!」


『魔力精密操作』によって浮かび上がった丸太は、殺意100%のストーカーを引き連れて夜空を駆け出した。



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