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第二話 煉二の日常(前編)

浅上煉二は、特殊警察に存在する特別派遣魔法部隊に所属する魔法使いだ。


特別派遣魔法部隊通称特派に所属する魔法使いの最低条件はレベル5以上で有ること。

これは、特派が魔法使い同士の戦闘を想定して創られた為、より高位な魔法使いで無ければならなたいと考えられた為だ。

そこに所属する煉二は十七歳にしてレベル6の魔法使いである。


そんな彼も、普段は一介の学生でしかない。

私立加賀美坂高校。

それが煉二が通う学校だ。


入学条件がレベル3の魔法使いである事とあるエリート校だ。そして政・財界の大物の子息が多く通う坊ちゃまお嬢さま校と言うやつだ。


その為、生徒は皆基本的に真面目だ。


その中で、浅上煉二は異質な存在だ。遅刻・早退・無断欠席は当たり前、授業態度もお世辞にも良いとは言えない。そんな彼が、このエリート校に通える由縁は、彼が加賀美坂高校で教師も含め唯一のレベル6の魔法使いである事と、テストの成績が常に上位五番以内に入る実力があるからだ。

それに、煉二は学生でありながら特殊警察に所属する程の天才だ。そんな逸材を多少の素行不良で辞めさせたりはしない。


その事を分かっている煉二も、それを最大限活かす。


そして今日も煉二は何食わぬ顔で朝とは言えない時間に登校する。



  



「ふぁ〜あ」

三現目と四現目の間の休み時間、浅上煉二は遅い登校を終え自身の教室に入る。

教室では、授業の合間の談笑や次の授業の準備に勤しむ者達が居た。

煉二が登校するまでは……


煉二が教室に入った瞬間、それまでの談笑や本のページをめくる音まで全ての音が消え、煉二が席に着くと再び動き出す。

クラス全員で、煉二が存在していないかのように……


彼等は、成績優秀な特待生と金持ちの御曹子かのどちらかだ。

授業に出ない、出てもまともに受けていない煉二が、自分達より成績が良い事、この年代で唯一のレベル6の魔法使いである事が、自分達をエリートと思って居る彼等の安いプライドを傷つけているのだ。

故に彼等は、煉二が居ない者とする不文律が出来たのである。


「レン!

また遅刻して、いい加減にしないと進級出来ないよ」

そんな中、一人の少女だけが当て嵌まらなかった。

「何だシズクか。昨日は遅くまで仕事だったからまだ眠いんだ」

彼女の名前は、朝霧雫と言う。

癖一つ無いストレートロングの黒髪に、深い黒色の瞳で、十人に聞けば十人が美少女だと答える美貌の持ち主で、加賀美坂高校に特待生で入学出来る知力も合わせ持つ存在だ。


そして、煉二とは彼の実家と雫の家が隣どうしの幼なじみで、物心付く前の付き合いだ。


「いい加減にしないと進級出来ないわよ」

「大丈夫だよ。出席日数は計算して休んでるし、いざって時は仕事の事を言い訳にすれば良いしな」

最後の方は、他人に聞こえないように小声で話す。

この学校で、煉二が特派に所属して居る事を知っているのは教師を除くと、雫だけだからだ。


「そんな事にならないようにしなさいよ」

「分かってるよ」

長くなりそうになった雫の小言だが、授業の開始を告げるチャイムの音で強制的に終了する。


四現目の授業は、魔法理論である。

周りの生徒が、真面目に教師の話しを聞いている中、煉二だけが船を漕ぎ始めていた。


煉二の両親は、魔法の研究者をしている。その為、自身達の跡継ぎとして、幼少の頃より魔法に関する事を英才教育を施した。その甲斐と煉二の元々才能と努力も合わさって十五歳の時、日本最年少レベル6の魔法使いとなったのだ。いくらエリート校と言っても高校で習う魔法理論など既に理解していて暇でしかないのだ。


何時しか完全に眠りこけていた煉二を起こしたのは授業の終を告げるチャイムの音だった。

「ふぁ〜」

大きな伸びと欠伸をしながら立ち上がる。


「レン。ちょっと待ちなさいよ」

「あぁ〜、はいはい。昼飯買って来たら聞いてやるよ」

雫の言葉にそれだけ言い残すと煉二は、購買に向かう。

(雫の小言に付き合っていたら昼飯を食べ損なうからな)



程なくすると購買に到着する。

(今日は混んでるな)


加賀美坂高校の学食と購買は、通常の高校の物に比べてやたらと高い。


その分、味も良いが一部の一般家庭から通っている者からすれば毎日食べるには少しばかり厳しい位に……


混んでいると言っても、流石はエリート校と言った物で皆列に並んで居る。

煉二も、その列の最後尾に並び自分の順番を待つ。


「千二百円になります」

自身の順番になり、焼きそばパンとコロッケパン、それにメロンパンにパックのアイスティーを二つ購入して雫の待つ屋上に向かう。


「おっそ〜い!」

「仕方が無いだろ。購買が混んで居たんだから」

「そんな事知らないわよ」

屋上に着くと、見るからに怒っていますと言う雫に理不尽に怒鳴られる。

「あっこら、話しが始まっても居ないのに食べ始めるな!」

「別に良いだろ。話しなら食べながら聞いてやるよ」

ベンチに座る雫の隣に腰を降ろし、何事も無いように煉二は食事を開始する。


「っもう。それよりさっきの授業どういうつもり?

途中から寝てたでしょ」

「んっあぁ、春眠暁を覚えずってのはこのことだわな」

「何が春眠よ!

今は七月よ。春じゃ無くて夏でしょ」

「細かい事を気にするな」


---ブチ---

「細かく無いわ〜。ほっとくとレン季節関係なく寝るでしょ」

キレた雫が怒鳴り上げる。

そんな彼女に煉二は、お構いなしに食事を続ける。

「まぁこれでも飲んで落ち着け」

そう言って、食後に渡そうと思って買っていたアイスティーを渡す。

「ふん、もう良い。いつも私の話しなんてまともに聞かないんだから」


煉二にとって朝霧雫とは自身の定めたラインの内側に居る存在だ。彼にとってラインの外側に居る人間が死のうが生きようが知った事では無いが、もし内側の人間が命の危険が訪れたのなら己が全てを賭けても守る。その分、内側に入る事は煉二にとって重要な意味をなす。

だから、雫は自分が思っている以上に煉二に必要とされている事を知らないだけなのだ。

「そんな事無いだろ」

「どこかよ!」


「それより、五現の模擬戦。また相手してやるよ」話しをそらすな!

それに何でそんなに上から目線なのよ」


昼食のパンを全て平らげた煉二は、雫を一人残し早々と屋上を後にする。


後ろから聞こえる彼女の叫び声を清々しい位に無視を決め込みながら……


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