第一話:事件発生中
「動くな!
大人しくしないとぶっ殺すぞ」
午後二時三十分。
受付の終了が迫る忙しい時間帯に事件は起こった。
犯人は、男の三人組で、三人ともが手に拳銃を持ち、何故かプロレスラーのマスクを被っていた。
「これにとっとと有り金詰めろ」
銃を窓口に居た女性に突き付けながら、空のバックを渡す。
その間、他の二人が客と従業員を見張ると言う中々組織だった行動を取る。
銀行内は、銃と言う凶器による恐怖に支配されていた。
「此処が現場ですか?」
防護スーツを着た、見た目十七・八歳位の少年は輸送車の後部席から、運転席に居るガタイ良い四十台の男に問い掛ける。
「そうだ。事件発生から一時間がたつ。授業中に悪いが、今回も頼む」
「はいはい。授業はどうせつまらなかったから良いですけど、どうして俺一人何です」
少年が言うように、輸送車の広い車内には、彼以外誰も居ない。
「それはアレだ。他にも事件が重なっててな、こっちには人を回せなかったんだ」
「最近多いですからね〜」
「まぁな。取り合えず、チャッチャと片付けて来い。煉二」
「了解。んじゃ、行ってくるわ。伸介さん」
そう言って少年浅上煉二は、ヘルメットを被り、運転席に居る職場の大先輩である上条伸介の見送る中、輸送車からおり現場に向かうのだった。
「くそっ、どうするんだよ」
銀行強盗の一人が、外の様子を盗み見ながら叫ぶ。
「仕方ないだろ。正かこんなに早く警察が来るなんて思わなかったんだからよ」
「仕方ないじゃないだろ」
銀行強盗は仲間割れを始めそうな勢いで怒鳴りあう。
「いい加減にしろ!
起きてしまった事は仕方ない。それよりどう逃げるかだろうが!」
リーダーの一喝で、強盗達は落ち着きを取り戻す。
時刻は、既に三時三十分を回っている。
下手をすると、何時警察が強行突破を仕掛けて来てもおかしく無いのだ。
故に、一刻も早く逃走手段を考えなくてはならない。
「取り合えず、人質を取って逃げるか。
おい、どいつか人質に取って逃げるぞ」
そう言って仲間に指示を出し近くに居た窓口の女性を人質にした。
「意気込んで出て来たは良いけど、シッター閉まってるし、どうするか」
「特派の人ですね。
犯人は三人組で、中には人質が二十名〜三十名居ると思われます」
近くに居た警察官が中の状況を教えて来る。
「あっそ、犯人は三人か。なら正面突破で大丈夫か」
「えっ」
煉二は、ポケットから鎖を付けた指輪型のマジックデバイスを取り出す。
「な、何をするつもりですか!
人質が居るんですよ」
「そんなの知らないよ。
シルフィード起動」
指輪に嵌め込まれた宝石が光り、マジックデバイスが起動した事を知らせる。
「エア・ニードル」
一言呟くだけで、環境データを解析し、術式を構成させる。
そして、風がドリルのよう渦を巻き、シャッターに大穴を開ける。
「犯人に告ぐ。
抵抗を辞めて投降しろ」
余り大きくな声を出していないのに、銀行内に響く。
これは、先程使ったエア・ニードルと同じ気流操作系の魔法で、空気の振動を操作した結果だ。
これらだけなら、並の魔法使いにも出来が、煉二のそれは発動速度が以上に早いのだ。
それは煉二の魔法使いとしての技量の高さを指していた。
「何じゃお前!」
銀行強盗の一人が、銃を向けて煉二に問うて来る。
「特別派遣魔法部隊。通称特派と言えば解るか?」
「特殊警察か!」
「正解。ご褒美に、一瞬で終わらせてあげるよ」
煉二は宣言通りに、一番近くに居た強盗がトラックに撥ねられたかのように壁に吹き飛ばされる。
「くそ、動くな。
人質がどうなっても良いのか!」
強盗は、従業員の女性に銃を突き付け、自身を守る盾のように立たせる。
「それが?」
煉二は、本当に人質なんてどうでも良いと言うように首を傾げる。
特別派遣魔法部隊の所属する特殊警察と呼ばれる物は、普通の警察とは違う。
普通の警察は人民を守る為に事件を解決するように動くが、特殊警察は事件を解決する事だけに存在意義があるのだ。
よって、人質が居ようが居まいが死のうが生きようが知った事では無いのだ。
故に、人質など気になどする訳も無く攻撃する。
「エア・カッター」
瞬間、空気が刃となって強盗が持っていた銃を切り裂く。
「ひっ」
「これで、二人っ」
強盗が悲鳴を上げた瞬間に、煉二は強盗に駆け寄り、首筋に手刀を落とし気を失わせた。
「さて残り一人だけど、まだやるか?」
「クソッタレが!
テレシス起動」
銀行強盗のリーダーは、持っていた銃を捨て、腕に付けていたブレスレット型のマジックデバイスを起動し、手に炎を生み出す。
「へぇ〜。特派の魔法使い相手に魔法で勝負する気なんだ」
煉二は口では軽口を叩きながら、決して相手を軽視せず観察する。
(見たところレベル4位は有るか)
レベル。
それは、魔法使いの技量を指すもので、レベル0〜レベル7までの八段階に分けられる。
レベル0は、魔法全く使えない者。
不適合者と呼ばれ、余り多く居る訳では無いが確かに存在する。
レベル1は、微かに使える程度で日常生活に役に立つたたない。
レベル2は、日常生活が少し楽になる程度。
大半の人がこの二つに属する。
レベル3は、日常生活に置いて大いに役に立つ。
レベル4は、拳銃等の小火気と同等以上の力を発揮する。
更にこの二つで、人口の三割程度居ると言われ居る。
これより上のレベルになると、極端に使い手減少する。
レベル5になるとエリートと呼ばれ中火気と同等以上に力を発揮する。
レベル6になれば、超エリートと呼ばれ、大火気と同等以上に力を発揮し、数人集まれば軍の一個中隊を壊滅出来る力を持つとされる。
レベル7、世界で二十一名しか存在せず一人で軍の一個大隊に匹敵すると言われる化け物とされる。
そんな中、レベル4と言えば十分優秀な分類だろう。
だが、煉二からすればたいした事ない。
「その程度か」
「ほざけぇぇぇ」
強盗は、炎の腕を振り回し煉二に走りよる。
「遅い!
エア・ハンマー」
走り寄る三人目の強盗は、一人目の強盗と同じく途中で、トラックに撥ねられたかのように手の炎を掻き消され壁に激突して意識を失った。
「任務完了っと」
煉二は、その圧倒的な力の差で事件を僅か数分の内に解決してしまった。
「お疲れっ」
「えぇ、まぁ」
輸送車に戻った煉二は、運転席で煙草を吸って居た伸介に迎えられる。
「それより、恐らくまた例のヤツですよ」
「またか」
「はい。間違いないと思います」
軽く報告を済ませると、輸送車の後部席に座り、ヘルメットを外し一息つく。
輸送車はゆっくりと走り出し現場を後にする。
「取り合えず、事務所に戻るぞ」
「りょーかい」