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溜息の理由

 

 部屋に入ってきた養父様は、私を見つけるなり肺から空気を全て吐き出したのではないのだろうかと思うほど大きく溜息を吐いた。


「其方は全く……」

「師団長、どうしたのです?」


 眉間を押さえながら首を振る養父様に、オスカー様が訊ねる。


「あぁ……クランブルック公爵から先程言われたのだ。『クラリッサ嬢を我が家にお招きしてもよろしいですかな? ご本人には了承を得ております』とな」


 どうやら、クランブルック公爵は早速養父様のところに行ったらしい。あぁ、それのことか、と納得した私に、オスカー様までもが「貴女という人は……先程のお茶会で?」と溜息交じりに聞いてくる。


「えぇ。セラフィマ姫のご紹介でクランブルック公爵とお話しまして。元々それが今回のお茶会の目的でしたし、養父様もオスカー様もそれほど驚くようなことでもないでしょう」

「たしかにそうですが……まさかクランブルック公爵家に行くなんて話が出るとは」


 やはり私もその場に同席するべきでしたね、と呟くオスカー様の肩を養父様が叩く。


「会場警護が其方の任務だったのだから、さすがにそれは無理だろう。それに、アルバートが側に付いていてもこうなったのだ。其方が気に病む必要はない」


「それに、不幸中の幸いと言うべきか、『護衛をつける、という約束をアルバート様と致しましたので、どなたになったのか後で教えて下さい』と言われた。クラリッサ1人だけで行かせるのは不安しかないが、護衛を付けられるのであればとりあえず安心はできる」


「では、その役目は私が」

「うむ。頼んだ」


 オスカー様が?


 反対を押し切って招待を受けたというのは否めなかったので大人しく2人の話を聞いていたけれど、護衛がオスカー様という話になって思わず目を見開く。


「お母様のご実家に行くだけなのに、わざわざお忙しいオスカー様に来て頂くのは……」


 そう口を開くと、養父様がこめかみを押さえながら口を開く。


「それはたしかにそうだが。――わかっているのか? クラリッサよ。クランブルック公爵は其方の祖父であると同時に、其方の拉致事件の依頼主と考えられているモコチイタ子爵家の本家筋当主でもあるのだぞ」


 ――その繋がりの意味がわからぬ其方ではあるまい、と諭すように養父さまがそう告げた。


 ……それはつまり、モコチイタ子爵があの行為に及んだ後ろにクランブルック公爵の関与が考えられる、ということかしら。


 そのモコチイタ子爵家がクランブルック公爵家の分家筋という話は以前聞いて知っている。クランブルック公爵に関してはわからないことが多いからこそ、今回行きたいと思ったわけだけど……そうした繋がりがある以上、養父様達が心配するのも当然か。


 私が思案している間に、養父様とオスカー様の間では護衛に関する話し合いが終わったらしい。養父様が魔石に向かって「護衛はオスカーに任せる」と告げてラスールを飛ばすと、暫くして「かしこまりました」という返事がクランブルック公爵の声でかえってきた。


「――では、私は仕事に戻る。オスカー、クラリッサを頼むぞ」

「かしこまりました」

「クラリッサ、オスカーの言うことをきちんと聞くように。良いな?」

「かしこまりました」


 周りの心配を押し切ってクランブルック公爵の招待を受けたからか、養父様は私に念を押してから部屋を出て行った。「私達もそろそろ行きましょうか」というオスカー様の声に頷いて、私も席を立ち、部屋を後にする。




「……オスカー様」

「なんでしょう?」


 馬車に揺られながら、私の向かいに座るオスカー様が微笑む。私はその笑顔に「オスカー様から見て、クランブルック公爵とはどのような人ですか?」と質問してみた。


 オスカー様は笑みを絶やさず、それでいて目線だけは馬車の窓に映る外にずらす。


「そうですね……宰相という面で見ればとても優秀な人物に違いはありません。最年少で宰相の地位まで上り詰めた、非常に合理的で冷静沈着な方……ですが」


 一度言葉を区切り、再び目線を私に戻す。


「家族や……父親として、という面では、あまりいい話は聞きませんね」

「それは……お母様が実家と距離を取っていたという……?」

「ユリアナ様から聞きましたか」


 私はそれに首を縦に振る。オスカー様はそれを見届けてから「そうですね」と再び口を開く。


「過去に一度だけ、貴女のお母様からクランブルック公爵の話を聞いたことがありますが……残念ながら、親子の仲はよろしくなかったようです」


 それっきり、オスカー様は口を閉じてしまった。


 ――そういえば、1年前お母様のお墓参りに行ったとき、クランブルック公爵は何か後悔の言葉を呟いていたような……。あの言葉は、親子仲が良くなかったことを悔やんでの言葉だったのかしら……。


 そんなことを考えている内に、馬車は王都のクロスフォード公爵邸に着いたらしい。馬車の揺れが止まり、扉が開かれた。オスカー様が先に降り、私もその後を追う。


 馬車を降りると、私の帰宅に気づいたらしい養母様が迎えに出て来てくれた。


「おかえりなさい、クラリッサ。オスカー様、この子を送って下さりありがとうございます」

「いえ。引き留めたのはこちらですから。――それではクラリッサ嬢、また後日」

「はい。宜しくお願い致します、オスカー様。今日はありがとうございました」


 馬車へと戻るオスカー様を見送って、私と養母様も家に入る。先に戻っていたレイがニヤニヤしながら階段の上から私を見つめていて、まだまだ今日は終わりそうにないわね、と私は1人小さく息を吐いた。


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