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オウムシュラハト、開幕

 

<6の鐘がなりました! 新緑祭2日目、2年生のオウムシュラハト――開幕です!>



 青空に投影された映像の中で、今日実況を担当する3年生が試合の開始を告げる。


「それじゃ皆、宜しくね」


 それを合図に私がそう言えば、チーム“クロスフォード”の面々が力強く頷いてくれた。


「じゃ、私達は先にいくわね」

「クラリッサ嬢、ちゃんと来いよ!」


 レイとレオニードが飛び立つ。私はレオニードの最後の一言には答えず、笑顔で見送る。


「では、私も。クレア、これお借りしますね」

「えぇ、有効利用してくれたら嬉しいわ」


 小瓶を握り締め、カタリーナも飛び出した。


「じゃあ、僕らも行きましょうか」

「そうね」


 ランヴァルと共に今回私達が隠れる場所に決めた位置へ移動する。周りに誰もいないことを確認して、私はポケットから羊皮紙を取り出す。


 ……うん、大丈夫。


 魔法陣を確認して、ランヴァルに手渡す。それを地面に置き、ランヴァルは集中するように瞼を閉じた。


「――アムレートゥム」


 ランヴァルの周りに、淡い光の壁が生まれる。それを見て、私は小さく息を吐いた。


「……大丈夫そうね?」

「うん、問題ありません。クラリッサ嬢が事前準備して下さっていたおかげで、回復薬も足りそうです」

「よかった。じゃあ、私もそろそろ行くわ」

「はい。いってらっしゃい」


 ランヴァルに見送られながら、私はタラリアに魔力を込める。高く高く、青空へと飛び立った。






 島全体がおおよそ見えるぐらいまで飛び上がったところで、私は上昇を停止する。上空に映し出された映像の中では、レイとレオニードがすでに一戦交えていた。


「はやいなぁ……この様子だと、1個特別な卵を見つけたら一旦2人に合流した方がよさそうね」


 思わず独り言を呟き、私は行動計画を頭の中で修正する。


 ……よし、そうとなれば、私もさっさとはじめますか。


 一度瞼を閉じて、目元に魔力を集めながら、ゆっくり開く。


 ……1年前は魔術具の補助が必要だったけれど……今年は自力でできる。魔力の残りに気を遣う必要もないし、今年は楽ね。


 ある程度痕跡の箇所を記憶した私は、左手にはめた指輪の存在を確認するようにくるりと回してから、淡い光のもとへと降下を始めた。






「えっと、たしかこの辺――」


 もう一度目元に魔力を集めると、花壇の草木が密集したところに淡い光が見える。ガサガサと草木をかき分ければ、お目当ての卵が転がっていた。


 ……まずは1個っと。


 右手で掴み上げ、すぐさま転送用の魔法陣が組み込まれた指輪を起動する。手元が一瞬光り、掴んでいた卵は私の手から消え失せた。


 まずは良い出だしが切れたことに安堵しながら、私は花壇から抜け出す。すぐさまタラリアを起動して空に飛び立てば、わりと近くでレイとレオニードが交戦している様子が青空に映し出されていた。


 見上げていた顔を地上に戻せば、レイが得意な火属性魔術で攻撃したのだろう。火炎が見える。


「わかりやすくていいわね、レイの攻撃は」


 その方角に飛びながら、再び目に魔力を込める。レイ達が交戦しているすぐそばに、動く気配のない強い光が見える。


 ……あれが敵チームの守護者(ガーディアン)ね。


 光に向かって飛ぶと、レイ達と戦う仲間を物陰から心配そうに見つめる小柄な少女の姿が見えた。




 音を立てない様に、慎重に着地する。私の目の前、魔法陣の中で小さくうずくまる少女は、私に気づく気配はない。私から見て右手側、レイやレオニードと戦う仲間から目が離せないらしい。


 ……ま、気づかれないなら気づかれないでいいかしら。その方が楽だし。


 一歩一歩。ゆっくりゆっくり少女に近づく。ばれない様にしているとは言え、音で気づかれたら意味がない。焦らず確実に、私は少女との距離を詰めていく。


「…………」


 腕を伸ばせば届きそうな距離まで近づいて、それでも少女は気づかない。


 ……さすがに、ここまで近づいても気づかれないとは。


 少しだけ呆気にとられながら、私は結界に触れるか触れないかぎりぎりの所まで腕を伸ばす。


 淡い光の壁を凝視して――私はその構成を読み取った。


 ……霊属性と水属性の2属性結界か。反撃の仕掛けはなし。2年生なら、やっぱりこれが王道よね。


 少しだけ口角が上がるのを自覚しながら、私は慣れた手順で魔法陣を支配下に置き、無力化する。


 ……さんざんファルネーゼ先生に魔法陣を解かされたから、もう初見の魔法陣でもそうそう戸惑うことはないわね、これ。




 淡い光が、私の手の平の先で消えていく。それに気づいた少女が、戸惑いの声をあげた。


「え? 魔法陣が……なんで?」

「――フリーレン」


 戸惑いながら立ち上がった少女に、私は間髪入れずに呪文を唱える。少女は腰から下と、腕を氷で固められて動けなくなる。


「嘘……何が……どういうこと……?」


 その問いかけには答えず、少女がその体に斜め掛けにしていた鞄を開く。右手を突っ込んで、手に当たった3つの卵を片っ端から転送した。




「クレア……よね? 流石にそれはどうなの……」


 右側からレイの声がする。その言葉に疑問形が含まれていることに気づいて、私は鞄から手を抜き取ると左手の指輪をぐるっと回した。


「あら、私としたことが。ちょっと集中しすぎて姿を隠したままなのを忘れてたわ。結界を解いたら姿を表すつもりだったのに」


 怖かったわよね、ごめんなさい、と少女に伝えると、少女は涙を流しながらも安堵の表情を浮かべた。


「あぁ……クラリッサ様だったのね……姿が見えないから怖かったわ……」

「ごめんなさい、ほんとうに」


 再び謝った時、空から声が降ってくる。


<チーム“クロスフォード”、はやくもチーム“ルシエンテス”を撃破! レイチェル嬢とレオニード様の連携も見事でしたが、クラリッサ嬢には驚かされましたね、ファビアン先生!>


<そうですね。姿が見えなかったので結界が消えてビアンカ嬢が氷漬けになった時はびっくりしましたね>


<ですね! 姿を隠していたことも驚きですが、結界が消えてからの卵の奪取は実に鮮やかでした!>



 あぁ、あれ見られていたのね……まぁでも、暴露されたからといってすぐ対抗策を取れるチームはそう多くはないでしょうし、構わないか。


 振り返れば、レオニードがやれやれ、といった顔でこちらを見ている。私はそれに苦笑いで返しながら、「じゃあ、私はまた特別な卵を探しにいくから」と言って指輪を再びぐるりと回した。


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