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セラフィマ姫のお茶会:前篇

 

「……お茶会?」


 私が繰り返すと、レイは「えぇ」と頷いた。


「この間アル兄様に『セラフィマ姫の交流を広げるのに協力してくれないか』って相談されたの。表向きは、セラフィマ姫主催のお茶会だけど、立場が立場だから……私とアル兄様と姫のメイドとで人選した上で開催することになったのよね」


 ……なるほどね。



 レイは監督生補佐として、入学後もセラフィマ姫を何かと支援しているらしかった。そして護衛騎士にアル兄様がついているとなれば、こういう流れになるのも納得だ。


 クロスフォード公爵家は、今は亡きレイのひいおじい様が先々代の王弟で王族とも縁があるし、レイは人脈も広い。お茶会の人選を任せるなら最適解だろう。



「そういうことなら、もちろん参加させてもらうわ。それで、いつ開催するの?」

「3日後の土の日よ」

「ずいぶん直近なのね?」


 人選に時間が掛かるのだろうから、もう少し先かと思っていた予想が外れて、私は少し驚いた。


「えぇ、もうクレア以外の学生には招待状を出してあるのよ。ここ最近忙しかったのは、お茶会の人選と招待の準備があった影響も大きくて。だから、これでやっと私の仕事が一段落するから、オウムシュラハトの件も問題ないってわけ」


「そう。なら安心だわ。じゃあ、私はそろそろ失礼しようかしら。3日後のお茶会、楽しみにしてるわね」


 席を立ち、微笑みながら退室の挨拶をすると、レイに今日の本題を念押しされる。


「オウムシュラハトの件、他の皆に声を掛けたら作戦会議を開くから、ちゃんと戦略練っておいて頂戴ね!」


 最後にそう言われて、私は「任せて」と答えてレイの部屋を後にした。






 レイに言われた通りオウムシュラハトの戦略を考えている内にあっという間に土の日がやってきた。


「ごきげんよう、クラリッサ」


 お茶会会場と化した学院(アカデミー)の大広間を歩くと、メイドに案内された席にはカタリーナが座っていた。


「カタリーナも招待されていたのね」


 私は席に座りながら答える。


「えぇ、レイチェルに声を掛けられて。そういえばクラリッサ、今度のオウムシュラハト、参加するのね。1年前と同じメンバーで参加できるなんて楽しみだわ」


 私は何を担当するか、決まってる? と聞かれたけれど、誰が聞いているかわからないこの場で答えるわけにもいかない。私は「まだ悩み中よ」とだけ答えることにした。




「あら、クラリッサ様。同じテーブルですね。ごきげんよう」


 後ろから名前を呼ばれて振り返る。そこには柔らかな笑みを浮かべたパトリチィアが立っていた。


「ごきげんよう、パトリチィア様。奇遇ですね」

「そちらの方は?」


 パトリチィアの目線が隣に座るカタリーナに移る。それに応えるように、カタリーナは頭を少し下げた。


「カタリーナ・エンメリック様です、パトリチィア様。私と同じサミュエル寮の2年生で、薬草学にとても造詣が深いんですよ。カタリーナ、こちらはパトリチィア・シューマン様。リオ兄様と同じ魔術具学の研究室に所属している3年生よ」


 お二人を仲介するように紹介すると、互いににこりと微笑んだ。


「こうしてご挨拶するのは初めましてね、カタリーナ様。植物園によく通っていらっしゃっていたから、お顔は存じ上げておりますわ。改めまして、パトリチィアです。宜しくお願いいたします」


「私も、植物園でいつも拝見しておりました、パトリチィア様。カタリーナと申します。どうぞ宜しくお願い致します」


 なるほど、2人とも植物園によく出入りしているから、何度かすれ違ったりして顔は知っていたのね。




 2人の挨拶を聞きながらそんなことを思っていると、4人掛けテーブルの最後の1人と思しき少女がメイドに案内されてやってきた。


「……あら。私が最後でしたか。私もお話に混ぜて頂いても?」


 そう言いながら席に着いたのは、初夏の柳の葉色を思わせる明るい黄緑色の髪をサイドに流し、えんじ色の瞳の手前に光る眼鏡が理知的な印象を抱かせる少女だった。


 ……どこかで見たことあるような?


 私が既視感を抱くと、隣に座るカタリーナが答えを教えてくれる。



「バーバラ、ごきげんよう」



 その一言で、私は覚えていた名前と顔を一致させた。


 ――バーバラ・カースルメイ。なるほど、どうりで見覚えがあると思った。


 1人納得していると、声を掛けられたバーバラが自己紹介を始める。


「ごきげんよう、カタリーナ。バーバラ・カースルメイですわ。2年生で、所属はダイアン寮。クラリッサ様とは、去年のオウムシュラハトでの晩餐会以来ですわね」


 私のこと、覚えていらっしゃいますか? と聞かれて、私は微笑みながら答える。


「もちろん。お久しぶりです、バーバラ様。去年のオウムシュラハトでは数々の攻撃役(アタッカー)を返り討ちにする素晴らしい活躍をされていましたもの」


 名前と書類上の情報だけなら、既にレイに猛特訓を受けて頭にしっかり入っている。さすがに顔はどうしようもなかったが、相手にばれなければ問題ない。


 私が笑顔でつらつらとそう答えると、バーバラは少し目を丸くしてから微笑んだ。


「……直接対決したわけではないのに、そんなに私のことを知って下さっているなんてびっくりですわ。でも、ありがとうございます。有名人のクラリッサ様に覚えてもらえているなんて光栄ですわ」


 ……別になりたくて有名人になったり覚えたりしたわけではないのだけどね。


 バーバラの目線がパトリチィアに向いたことをこれ幸いに、私は心の中で呟いた。




 貴族の子女たちが集まる賑やかなお茶会会場に、パンッ、パンッと手を叩く音が響く。


「皆様方、お集まり頂きありがとうございます。セラフィマ姫より、お茶会の開始に先立ちご挨拶をさせて頂きます」


 アル兄様の呼びかけに応じて、賑やかだった会場が静けさに包まれる。会場の前方、レイやイザベラが同席するテーブルから、小柄なセラフィマ姫が立ち上がった。


「皆さま、本日は私のお茶会にお集まり頂き、ありがとうございます。皆さまと楽しいひと時を過ごしたいと思っております。あとで各テーブルにご挨拶に伺わせて頂きますね。――それでは、楽しいお茶会に致しましょう」


 セラフィマ姫の挨拶を合図に、メイド達が茶器やお菓子の入ったバスケットを載せたワゴンを走らせる。



 各テーブルにお茶とお菓子が配られ、セラフィマ姫主催のお茶会が始まった。


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