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図書館棟での調べもの

 

 期末テストを無事終えた私は、寮に戻る前に図書館棟に寄ることにした。


「ごきげんよう、クラリッサ様。もう期末テスト終わったのかしら?」


 受付にいたボドリー先生が声を掛けてくれる。


「ごきげんよう、ボドリー先生。えぇ、さきほど無事終了しました」

「それはお疲れ様。じゃあ今日の訪問は自習じゃないのね……本を探しに来たのかしら?」


 私はこくりと頷き、目的を告げる。


「はい。酒の神について調べたいのですが……良い本はありますか?」

「酒の神……ずいぶん珍しい神について調べるのね。そうねぇ……」


 顎に手を当てて少し考え込んだ後、受付の引き出しから羊皮紙を取り出した。


「えーっと、たしか3階の……たぶんこの辺の棚の本に酒の神に関する記載があったと思うわ」


 羊皮紙に描かれた図書館棟内の地図を指差しながら、ボドリー先生が大まかな場所を教えてくれた。


「ありがとうございます。では、その辺を探してみます」


 ボドリー先生と別れ、棟内の階段を上がる。3階に着くと、一段と濃い古書独特の香りが私を出迎えた。


 ……難しそうな本がいっぱいね。


 書棚に並べられた本たちを眺めながら、目的の書棚に向かって歩く。


 学院(アカデミー)の図書館棟は1階が図鑑や学生達のよく使う魔術書、2階は教員がよく使う研究資料などの本、3階がそれ以外、といった形で蔵書を大まかに分類している。


 下の階と比べ、古く重厚感のある本が多く、かつ使用頻度も少ないせいだろう。図書館棟独特の雰囲気が昇華され、森厳さすら感じられる。


 そんな中を奥へと進み、私はボドリー先生が教えてくれた書棚に辿り着いた。


 ここから先は、1つ1つ見て行くしかないかしらね……。


 書棚を上から下へと視線を動かしながら、それらしき題目の本を探す。


 この辺かしら……?


 手に取ると、図鑑のそれに似た重みが伝わってきた。


 重っ……これは一度、キャレルに置かないと読むのも辛いわね。


 近場のキャレルに運び、ふぅ、と息を吐く。

 そんなことを何度か繰り返して、椅子に座る頃には若干息が乱れていた。


 はぁ……どうして古書ってこうも重いのかしら……。


 キャレルに置いた重厚感溢れる本たちを見つめながら、思わず息を吐く。


 並べた本は、いずれも重量のある表紙に金属の留め具、そして表紙の四隅やしまいには中央にまで飾り鋲が取り付けられている。


 ただでさえ分厚くて重たいのに、金属のそれらを取り付けられていては、重くなるのは必然だった。


 昔の賢者たちは、後世への使い勝手の配慮よりも、自らの知見をいかに荘厳に残すかが大事だったのかしらね……。


 1階や2階にある比較的新しい本は、持ち運びのしやすさ等の使い勝手を配慮し、中の羊皮紙を守るべく重厚な表紙はつけつつも、なるべく最低限の装丁となっている。しかし、3階の本たちにそれらは一切感じられなかった。


 これは、目的の本を見つけても該当箇所だけ写本した方が良さそうね。こんな重い本、持ち歩くのなんて勘弁だわ……。


 そんなことを考えながら、1冊目の本を開く。この本に関しては「目次」という概念すらなかったらしい。表紙の次から「第1章」と書かれていて、私は眩暈がしそうになった。


 これは……厳しいわね……。


 それ以上ページをめくるのが億劫になって、私は一旦その本を()ける。次の本を手に取り開くと、そちらには目次がきちんと用意されていた。


 目次のあるものから調べますか。


 方針を決めた私は、まずは目次の有無で本を仕分け、あるものから調べていくことにした。


 目次を見て、それっぽい箇所のページを開いては、流し読みしていく。


 違う……これじゃない……んー、惜しい、そうじゃないのよね……。


 1冊、2冊と開いた本を閉じ、3冊目に突入したところで、ようやく目的の記述を見つけることができた。



「“酒の神バオニューコベルに関する研究結果”……見つけた!」



 嬉しさのあまり無意識の内に大きな声を出してしまって、はっとする。幸い、3階は今私以外誰もいないらしく、お叱りの声が飛んでくることはなかった。私はほっと胸を撫でおろして本に目線を戻す。


 酒の神バオニューコベルの逸話……そこから導き出される象徴物と属性……うん、必要な情報は揃ってる。となれば……。


 私は鞄を漁り、木札と羽ペン、インク壺を取り出す。そして該当箇所をひたすら書き写していった。






 私がほくほく顔で1階に降りると、ボドリー先生がくすりと笑って出迎えてくれた。


「その様子だと、無事見つけられたみたいね?」

「はい、おかげ様で。ありがとうございます!」

「どういたしまして……て、司書の本業だから、当然なのだけどね。ありがとう、って言われるとやっぱり嬉しいわね」


 頬を薄く朱色に染めながら、ボドリー先生は笑った。


「……? 誰かに何かしてもらったら感謝するのが当然では?」

「そうねぇ……みんながクラリッサ様のような考えの人だったら、世界はもっと素敵なんでしょうけれど……現実はそういう人ばかりではないのよ」


 はぁ、と溜息をつくボドリー先生の後方から、別の司書が声を掛けてきた。


「ボドリー先生、また学生とお話してらっしゃいますが……頼んだ書架の整理は終わったのかい?」

「えぇ、先程」

「なら、次はこれ、宜しく」


 それだけ言って、手に持った資料を受付にどさっと置くと、声を掛けてきた男性司書は奥へと姿を消した。



「……ね?」


 苦笑いを浮かべて振り返ったボドリー先生に、私は「その様ですね……」と同じく苦笑いで答えるしかできなかった。




 世の中、色んな人がいるものね……ああいう大人にはなりたくないわ。


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