新緑祭7-晩餐会-
「今年も、無事新緑祭を終えられたこと、心から嬉しく思う。今日は、オウムシュラハトで優秀な成績を残した各学年上位3チームの学生に集まってもらった。皆、心ゆくまで楽しんでほしい。それでは――乾杯!」
「「「乾杯!」」」
学院の大広間はビュッフェ形式で料理が並べられ、各々が好きな料理を、好きな場所で食べられるようになっていた。
私は気になったものを少量ずつ片っ端から器にのせ、ほくほく顔でチームメンバーが集まるテーブルに近づいた。
「ふふっ、クラリッサ、ずいぶん嬉しそうね?」
私の表情を見たカタリーナが微笑みながら聞いてくる。
「えぇ、見たことないお料理がたくさんあって、しかも自分の好きなように選べるんですもの」
「体が小柄だからあまり量食べられないのはわかるけれど、食べないと伸びるものも伸びないわよ?」
レイが私の足先から頭の先まで見つめてくる。
……これでも、目覚めた時に比べれば伸びたんだけれどね……。
私は苦笑いを浮かべながら、空いている席に腰を下ろす。とはいえ、皆と頭1つ分くらい身長差があるのは事実だった。
食事が一段落し、デザートを頬張り出した時。
「……楽しんでおるかね?」
――学院長!?
私は急いで口の中にあったケーキを飲み込み、挨拶しようとした。
「あぁ、よいよい。ゆっくりお食べ。皆が楽しく過ごせているか、顔を見せてもらいにきただけだから」
「……とても楽しく過ごさせて頂いております、学院長」
「それなら良かった。食事が一段落したら、他のテーブルの学生達とも交流すると良い。ここにいるのは優秀な学生ばかりだからね」
「はい、かしこまりました」
ニコリと微笑むと、学院長は次のテーブルへと歩を進めていった。
……びっくりしたぁ。
テーブルの皆を見ると、皆も一様に目を丸くしている。
「まさか学院長自ら挨拶にきてくださるとは……」
「兄上はこんなこと話してなかった。今年からか?」
ランヴァルとレオニードの呟きが聞こえてくる。
学院長が歩いて行った方角を見れば、挨拶されたであろうテーブルの学生達はやはり皆一様に驚いていた。
「どうやら、今年からみたいね」
レイは会場を見渡してそう結論付けたのか、はやくもデザートへと興味を移していた。
デザートも食べ終わり、皆がお茶を飲んで談笑しだした。
ふと前に視線を向けると、前の方で何やら準備をし出しているのが目に入った。
……なにやってるんだろう?
不思議に思い見続けていると、いつの間にか移動したらしい学院長が乾杯の時の挨拶のように再び前に立った。
「歓談中申し訳ないが、少しだけ良いだろうか? ……ありがとう。さて、諸君。この度のオウムシュラハトでの活躍、非常に素晴らしいものであった。私もとても楽しませてもらった。その中でも優秀な成績を収めた君達に、私から贈り物を用意した。是非受け取ってほしい」
その言葉を皮切りに、1年生の3位チームから順番にチーム名が呼ばれ、学生達が前に向かっていった。
イザベラのチームが呼ばれ、私達の順番が回ってくる。
「チーム“クロスフォード”の諸君」
私達は立ち上がり、レイを先頭に学院長の前に進む。
一列に並ぶと、学院長から小さな小箱を渡された。
「オウムシュラハト1年生部門優勝、おめでとう。諸君らのこれからの活躍を楽しみにしている」
「「ありがとうございます」」
席に戻る為に振り返ると、既に小箱を受け取った2チームが中身を確認して盛り上がっているのが見えた。
……何が入ってるんだろう?
2チームの面々はかなり喜んでいるようなので、いいものが入っているようだった。
「何が入っているか、楽しみね」
「そうね」
カタリーナにこそっと話しかけられ、相槌をうつ。
席に戻り、皆で一斉に小箱を開けた。
中に入っていたのは、橙色の半透明の宝石だった。光を受けて、細かな結晶がキラキラと光輝いている。
「――ヘリオライト、ですね」
ランヴァルが小さく呟いた。
「ヘリオライト?」
レイが確認するように復唱した。
「はい、別名『太陽の石』とも呼ばれる宝石です。魔石の素材にするもよし、太陽神ヘリオティアスロンの加護を得るための触媒にするもよしの使い勝手のいい素材ですね。……比較的手に入りやすい宝石とはいえ、それを褒美として渡すなんて、学院長は太っ腹ですね」
ランヴァルの説明を小耳に挟みつつ、学院長の方を見ると、3年生の優勝チームが丁度学院長と別れ席に戻るところだった。
学院長が再び会場に向けて声を掛ける。
「――皆喜んでくれたようで、嬉しく思う。まだ8の鐘までは時間がある。私は執務にもどる為退室するが、ゆっくり歓談を楽しんでほしい」
学院長が退室すると、大広間はにわかに賑やかさを増した。今まで席で優雅に談笑していた学生達が、チーム外の学生にも声を掛け始めた。
「レオニード、お前たちのチームは何をもらったんだ?」
「兄上! 私達のチームはヘリオライトでした。兄上のチームは?」
「私達のチームはセレスタイトだった。他のチームの友人にも声を掛けたが、オニックスにトリフェーンだったから、チームごとにばらばらの宝石を贈っているようだな」
そう呟いたジルベールを、遠くの席から呼びかける声が聞こえてくる。
「おっと。呼ばれてしまったから私は行くよ。お前たちもこの機会に人脈を広げるといい」
「はい、兄上」
ジルベールが呼ばれた席へ移動していくと、レイが「私達も行きましょ」と立ち上がる。
「……レイ?」
「学院長も言ってたでしょ、『人脈を広げた方がいい』って。絶好のチャンスよ! 社交に行きましょう!」
そういうレイに手を引かれ、私は半ば強引に社交に連れていかれた。
私のイザベラとの対決はかなり注目を集めたらしく、2・3年生に挨拶すると悉くどうやってあの状況から逆転したのか、その詳細を質問された。
レイがわざと回避したのか、危惧していたチーム“イザベラ”との接触はなく、気づけば8の鐘が鳴り響き、晩餐会は平穏無事にその幕を閉じたのだった。




