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新緑祭4-勝負の行方-

 

 な……何が起こったというの?


 私は今目の前で起こった出来事が理解できず、ただただ立ち尽くすしかなかった。



 つい今さっき。



 私は、目の前にいる彼女――クラリッサ・リーストエル・クロスフォードにとどめの一撃を放った筈だ。


 先程までのリオートのような数個の氷の粒を放つ簡単な魔術ではなく、使用が許可されている中で最大級の魔術を……それで彼女を戦意喪失でもさせて、鞄を奪うつもりだった。



なのに。



 放った魔術は消え失せ――彼女は今も、不敵な笑みを浮かべて私の前にいる。


 凍らせて動きを封じた筈の足元の氷も、いつの間にかなくなっている。



 ……どういうこと?


 彼女のお守りの効果は無効化した。彼女が何か魔術を発動させたようにも見えない。呪文の詠唱をしていなかったし、そもそも魔術を発動させたところで、彼女の魔力量ではあのとどめの一撃を相殺できるはずもない。


 ……何が起こったのかはわからない……でも、ここで引くわけにはいかないっ!


 私は再度右手を前に突き出し、魔力を集める。足元の氷も解けている以上、もういつ逃げられてもおかしくない。なら、戦意喪失狙いではなく、かなりの怪我をさせるかもしれないけれど、ルール違反ギリギリの最大級の魔術を叩きつけるしかない。


「――グランディネッ!」


 リオートとは比べ物にならないほどの無数の氷の塊をクラリッサに向けて放つ。


 さすがにこれだけの数の氷はよけるのは勿論、相殺しきるのだって難しい筈。


 ……貴女が悪いのよ、クラリッサ。大人しく鞄を渡していれば、痛い思いをせずに済んだでしょうに。


 傷だらけになっているであろう姿を見ることに忌避感を抱きつつ、とはいえ敗者にせめて哀れみの目ぐらいは向けるべきかとクラリッサを見る。


「え……?」


 最初に負わせた右腕の傷以外は全く無傷のクラリッサが、先程と変わらずそこにいた。


 ……どうして!?


 驚きと混乱で一瞬固まった私の隙を彼女が見逃すはずもなく、不敵に微笑みながら呪文を唱えた。


「――フーモ」


 厨房全体が煙に包まれる。


 私はそれで我に返り、すぐさま風の魔術で煙を吹き飛ばしたけれど……すでにそこにはクラリッサの姿はなかった。




 ◇◇◇




 あっぶなかったあぁぁぁ!


 煙でイザベラの視界を遮った隙に厨房から逃げ出した私は、レイチェル達と予め相談していた、隠れるのにぴったりの場所に人目を避けつつ向かうことにした。


 もう、ほんとにダメかと思った……目の前にあった特別な卵を回収できなかったのは悔やまれるけれど、鞄を奪われるよりはましか……。


 何とか死守した鞄をぎゅっと抱きしめて歩きながら、先程のイザベラの襲撃を思い返した。


 まさか、特別な卵を敢えて餌にして、その前に魔法陣を仕込んでおくなんてことをされるなんて……試合開始前に宣戦布告された時点で、もっとイザベラについて情報を集めるべきだったかしら……。


 考え事をしている内に目的地が見えてきた。空に向かって歓声を上げる人々の背中が見える。

 私は歓声を上げる人々を眺めつつ、気づかれないように壁際を移動し、競技場の階段裏に忍び込んだ。


 ふぅ……あとは結界の魔法陣を展開して、レイ達とカタリーナの健闘を祈りますか。


 魔法陣の中で腰を下ろし、鞄を抱きかかえる。民衆の歓声を聞きながら、階段の隙間から空を見上げる。


 ――青空には、激しく魔術を打ち合うレイチェルの姿があった。





 ゴーン、ゴーン、ゴーン……


 7の鐘が鳴ると同時に、実況者が叫ぶ。


<試合しゅうりょおぉぉー! 選手の皆様、そこまでです! スタート地点に速やかに戻ってください! 係員の方が卵の集計とポイントの計算を行います!>


 放送を聞いて、私は立ち上がる。階段裏から出ると、カタリーナが迎えにきてくれていた。


「お疲れ様、クラリッサ」

「カタリーナも、お疲れ様」

「一緒にいきましょう? もう魔力、残ってないでしょう?」


 気づかうような視線をカタリーナが送ってくる。ここはありがたくお言葉に甘えよう。正直、ずっと結界を維持するのは私にはかなり大変だった。立ち上がった瞬間、よろけそうになってしまったし。


「ありがと……お願いしていい? カタリーナのいうとおり、もう魔力が底をついてるの」

「えぇ、もちろん。皆を待たせてはいけませんしね」


 カタリーナは私の左腕を肩にまわすと、タラリアで飛び上がった。


 ……やっぱり、タラリアは便利ね……。


 風を切りながら進むカタリーナに身を任せ、そんなことを思っているとあっという間にスタート地点に到着する。


 すでにレイ達は到着していて、係員も私達の到着を待っているようだった。


「お疲れ様! クレア、カタリーナ」

「レイ達も、お疲れ様。だいぶ激しい争奪戦を繰り広げてたみたいね?」


 私がそういうと、レイは「中々楽しかったわよ」と言いながらニヤリと笑う。


 ……余裕だったみたいね。


 私はそんなレイから視線を外し、カタリーナと共に係員の前に歩みを進めた。


守護者(ガーディアン)のクラリッサ・リーストエル・クロスフォードと捜索者(サーチャー)のカタリーナ・エンメリックだな。卵の確認をする。鞄を」

「かしこまりました」


 係員は卵を1つ1つ鞄から取り出し、木札に集計結果をまとめていく。


 私達のチームは、私が集めた特別な卵が3、カタリーナが見つけたのが10、レイ達が奪取してきた卵が8、そして元々持っている卵が1で、合計22だった。


 ……これは、優勝狙える数なのかしら? あ、でも、たしかポイントに換算するから卵の数だけでは勝敗はわからないのかしら。


 どうやら集計が終わったらしい。係員は木札を近くの木の枝に止まっていた小鳥に見せるかのように掲げた。


 あぁ、空の実況映像って、あの小鳥の目から得た映像を魔術で投影していたのね……。


 そんなことを考えている内に、空から再び実況者の声が響いた。


<皆様大変お待たせ致しました! 集計が完了致しました! 今年は非常にハイレベルな戦いでした! 入賞となる第3位から発表していきます。第3位は――>


 知らないチーム名が発表され、遠くから歓声が聞こえる。ここまでは良かった。……実況者がポイント数を発表するまでは。


<獲得ポイント数は、260ポイント! いきなり高得点が出ましたー!>


 ……260ポイント?

 私は耳を疑った。だって、それじゃ……私の計算が間違ってなければ……。


 レイを見ると、今にも喜びを表現したいけれど我慢している、というのがありありと伝わってくる様子で、今にも爆発するんじゃなかろうかと思うぐらい、体をぷるぷると喜びにふるわせている。


 カタリーナも、レオニードも、ランヴァルも、皆口には出さないけれど、勝利を確信したようだった。


<続きまして、第2位の発表です! 第2位は……チーム“イザベラ”! 獲得ポイントは、290ポイント!>


「よっしゃ!」


 レオニードがフライングで喜びの声を挙げる。それにつられて、私達はハイタッチをし出した。


<そして、栄えある第1位は――チーム“クロスフォード”! 獲得ポイントは、驚異の350ポイントです!>


「「やったーーー!!」」


 5人で肩を組み、喜びを爆発させる。唯一の300ポイント越え。圧勝といっていいだろう。


「いい線いけると思っていたけど! やるからには優勝狙っていたけど! まさかこんなに圧倒的な優勝をできるとは思わなかったわ!」


「僕も、クラリッサ嬢が捜索者(サーチャー)を兼ねると言い出した時はどうなるかと思いましたが……それが奏功したみたいですね?」


「あー……それもあると思うけど、たぶんポイントが伸びた最大の要因はカタリーナがいっぱい特別な卵を見つけてくれたからだと思うわよ?」


「それこそ、クラリッサのおかげよ。あの地図があったから、スムーズに探せたんだもの」


「……地図? なんのこと?」


 あ。レイに話してなかったの、忘れてた。


 レイが「クレア?」と問いかけてくる。言外に「何企んでたの?」という言葉が含まれている気がした。


「あー……えーっと、説明すると長くなるから、また今度ね……? それより、表彰式があるんじゃない?」


 話題をずらそうとしたら、私達の喜びが落ち着くのを待っていてくれたらしい係員が声を掛けてくる。


「クラリッサ嬢の言う通りだ。競技場で表彰式があるから、そろそろ移動しなさい」


「うっ……かしこまりました。いい? クラリッサ。表彰式が終わったら、ちゃんと説明して頂戴ね!」


「わかったわ。ちゃんと説明する」


 なんとかレイの尋問を回避し、私達は表彰式へと向かうことにした。


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