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新緑祭3-ピンチ-

 

 イザベラ・ボルジア!? 攻撃役(アタッカー)の彼女が何でこんなところに?


「うふふ、『何で攻撃役(アタッカー)がこんなところに?』って顔してるわね。私のチームの捜索者(サーチャー)からラスールが飛んできたのよ。『チーム“クロスフォード”の守護者(ガーディアン)学院(アカデミー)内をうろうろしている。どうやら守護者(ガーディアン)も特別な卵を探しているみたい』ってね」


「それで、私のチームの捜索者(サーチャー)が見つけた特別な卵をあえてそのままにして、貴女が来るのを待っていた、ってわけ。特別な卵1つ回収するより、貴女からチーム“クロスフォード”が集めた卵全て奪った方が、オイシイものね?」


 イザベラの目が鋭く私を貫いた。私の頭の中で「逃げろ」と警鐘が鳴り響く。


 ……レイのライバルである以上、私が真正面から戦った所で勝てる確率は低い。何とかして逃げなきゃいけないけれど……さっき呪文をすでに詠唱されてる。まだ特に変化はないけれど、下手に動けない……。


「ふふっ、どうやって逃げよう、とか考えてるのかしら? 無駄よ。貴女は私からは逃げられない」


「……それはどうかしら?」


「強がっちゃって。貴女、魔力量がびっくりするぐらい少ないんでしょう? それでどうやって私に勝つつもりなのかしら?」


「……」


 よほど自分の力量に自信があるのだろう。イザベラは余裕綽々の様子で語りかけてくる。


「あら、だんまり? 私、貴女とこうやって話すの、実は楽しみにしていたのよ? 色々調べたんだから。ねぇ、ウルラの後継者さん? それとも、あれかしら。その魔石のお守りがあるから大丈夫……とでも思ってるのかしら?」


 魔石のお守りのことも知ってるの!?

 私は思わず目を見開いた。イザベラはそれを見て唇を歪めて笑う。


「あはっ、もしかして本当にそう思ってた? だとしたらごめんなさいね。やっぱり貴女に勝ち目はないわ……その程度のお守り、どうってことないもの」


 ――カチン


 それは、怒りのスイッチが入った音だろうか。それとも、心の(たが)が外れた音だろうか。現実には鳴ってない音のはずなのに、私の頭の中でやけに大きくその音は鳴った。


 ……その程度、ですって? 私を見下すのは別に構わない。魔力量が少ないのは事実だ。

 けど……養父母様達が用意してくれたこの魔石のお守りを馬鹿にするのは、許せない。


「叔父様が恥をかいたからって、私に逆恨みしないでもらえる?」

「……え?」


 私は不敵に笑ってそう切り返す。まさか煽られるとは思っていなかったのだろう。イザベラは目を丸くして固まってしまった。


 ……あんなこと言ったんだから、こっちが何言っても構わないわよね?


「あら、聞こえなかった? 『叔父様が恥をかいたからって、私に逆恨みしないで』と言ったのよ。貴女、ボルジア先生の姪なんでしょう?」

「――っ!」


 みるみるイザベラの顔が真っ赤になっていく。

 レイが言ってた通りか、と頭の片隅で思いつつ、どんな返事が返ってくるかと考えていると、イザベラは予想外の行動に出た。


「うるさいっ! ——フリーレン、リオート!」


 連続で!?


 私は咄嗟に逃げようとした、が、足を凍らされて動けず、バランスを崩して倒れそうになるのを必死に踏ん張り、その場にしゃがみ込む。


 氷の粒程度の攻撃なら、お守りが作動するはず……。


 身動きが取れず、右腕で顔をかばうような態勢をとりつつ、魔石のお守りを左手で握り締める。


 しかし、右腕の隙間から見えたイザベラの表情を見て、私は目を見開いた。


 ……え? 笑ってる?


 その瞬間、氷の粒が私に向かって襲い掛かってきた。


「――っ!?」


 魔石のお守りが発動して、攻撃ははじかれる――はずだった。


 しかし、イザベラの放った氷の粒ははじかれることなく、私のマントを、制服を、そして右腕の皮膚を切り裂いた。


「っ、どうして……」


 私は右腕をかばうように背に回す。右腕から指先へ、血が滴り落ちていくのが伝わってくる。


「……『どうして』? 言ったじゃない、私。『その程度のお守り、どうってことない』って。貴女の魔石への対策は、最初から打ってあるのよ」


「……っ。どういう……意味」


「あぁ、ごめんなさい。わからないわよね。いいわ、見せてあげる。――マギアクライス・ファニア」


 足元が淡く光出し、私はそれに見入る。


 そこには、非常に複雑な紋様の魔法陣が描かれていた。


「貴女のお守りを無効化する魔法陣よ。どう? 美しいでしょう?」


 ……認めたくはないけれど、認めざるをえないわね。この魔法陣は確かにすごい……。

 けれど、それをイザベラに言うのは癪だ。


「ふっ」


「……何?」


「ふふっ。……あぁ、ごめんなさいね。『その程度のお守り』なんていうから、ずいぶん見下されたものだと思っていたのだけど……そういう割には、思いっきり対策練ってきているものだから、可笑しくって」


「――っ! 減らず口をっ! もういいから、さっさと鞄を渡しなさい! リオート!」


「リオート」


 イザベラが放った氷の粒に、私も氷の粒を放って相殺する。その後しばらく、魔術の打ち合いが続いたが、私の少ない魔力では相殺するのがやっとだった。凍らされた足元を解除することすらできない。


「……はぁ、もうあきらめてくれないかしら? 貴女じゃどうあがいても私に勝てないのは明白でしょう。あとどのくらい魔力が残っているのか知らないけど、このままじゃジリ貧だと貴女もわかっているでしょう?」


「……」


 私は答えない。非常に腹立たしいけれど、イザベラが言うことはまさしくその通りだ。先程の魔術の打ち合いで私のただでさえ少ない魔力はかなり消耗させられてしまった。


 ……せっかく、タラリアを使わずに魔力温存しておいたのに……。


「……はぁ。もういいわ。これ以上は時間の無駄だもの。次で決めさせてもらう。痛い目にあっても恨まないで頂戴ね? 素直に鞄を渡さなかった貴女が悪いんだから」



 ◇◇◇



「どうしましょう、アル兄様っ! クレアお姉様がっ!」


 学院(アカデミー)の競技場の一角にある観覧席で空に映し出されたオウムシュラハトの実況放送を見ていた私は、思わずアル兄様に向かって叫んでしまいました。


 空に映し出されていたのは、敵チームのご令嬢の氷の粒の魔術攻撃を受け、右腕を切り裂かれたクレアお姉様のお姿です。


 思わず叫んでしまったことに後から気づいて思わず両手で口を塞ぐと、隣で観戦していたアル兄様がその大きな手で私の頭を撫でてくれました。


「落ち着いて、ソフィー。右腕は負傷したようだけど、クレアは大丈夫だよ。……それにしても、クレアのお守りが発動しないなんて……対策されていたのか」


 後半は、アル兄様の独り言だったようです。ですが、それにお母様が反応しました。


「おそらくそうでしょうね。クレアのお守りであれば、あの程度の魔術ははじくことができますから」

「ですが、母上。一体どうやって対策を……?」

「おそらく……」


 考えを述べようとしていたお母様が言葉を切って空を見上げると、「あぁ、やっぱり」と零しました。


 私とアル兄様もつられて空の映像に視線を戻せば、クレアお姉様の足元に魔法陣が浮かび上がっていました。


 ……先程まではありませんでしたよね?


 私が顔に疑問符を浮かべていたことに気づいたのでしょう。お母様が微笑んで私に教えてくださいます。


「あのご令嬢は、おそらくクレアが特別な卵を探していることを事前に知って、予め卵の前にあの魔法陣を準備して待ち構えていたのでしょう。クレアのお守りの無効化に、隠蔽の効果まで含んだかなり高度な魔法陣みたいだけれど、ボルジア公爵家の令嬢なら起動してもおかしくはないわね」


「……そうすると、この状況クレアには非常に厳しいものなのでは?」


 アル兄様が厳しいお顔でそう呟きました。そんな兄様の予想を肯定するかのように、実況者の声が響きます。


<ボルジア公爵家のイザベラ嬢とクロスフォード公爵家のクラリッサ嬢の好カード! しかし、クラリッサ嬢は魔法陣の上で動きを封じられているようですね! 今は互いに魔術の打ち合いになっていますが、これはクラリッサ嬢にとってはかなり厳しい状況ではないでしょうか!? ファビアン先生!>


<そうですね、クラリッサ嬢も必死に応戦しているようですが、どうやら相殺するのが精一杯のようですね……>


<現在チーム“クロスフォード”は卵の奪取数5つでトップですから、ここでイザベラ嬢が鞄を奪ったら一気に戦況が変わる可能性がありますね!>


 ……クレアお姉様はそう簡単にはやられません!


 キッと空を睨んだけれど、状況が好転しそうな気配はありません。


 祈るように天を見上げていると、「賑わっておるのう、ユリアナ」とお母様を呼ぶ声が聞こえてきました。


 声の方に視線を向けると、初めて見る女性の方がいらっしゃいました。私はついアル兄様のマントを引っ張り、後ろに隠れてしまいます。


 見知らぬ方は、苦手です……。


 アル兄様はそんな私に仕方ないな、といった視線を向けながらも、そのまま私をかくまってくださいました。


 女性はクレアお姉様とお母様とはお知り合いのようで、オウムシュラハトの様子を見に来られたようでした。


「ファルネーゼ先生。えぇ、今ちょうどクラリッサがイザベラ嬢と対峙しているところで……」


「そのようじゃのう。中々面白い展開になっていて見応えがありそうではないか」


「そう……ですか? 養母(はは)としては、お守りが無効化されているので心配なのですけれど……」


「うむ、まぁ其方の気持ちもわからなくもないが。庇護の証は目立つからの……対策されていてもおかしくはなかろう。肝心なのは、ここからどう巻き返すか、じゃ」


「ファルネーゼ先生は、クレアに勝機があるとお考えなのですか?」


 ニヤリと笑ったファルネーゼ先生と呼ばれた女性に、アル兄様が問いかけました。私も聞きたかったお話なので、心の中で「アル兄様、流石です!!」と称賛します。


「アルバートか。久しいの。……クラリッサに勝機があるか、とな? 結論を言えば『十分にある』……クラリッサがわらわの教えを活かせれば、の話ではあるが」

「それは……」


 アル兄様の声は、一層賑やかになった会場の歓声にかき消されてしまいました。


 な、何が起こったのでしょう……?


 歓声を上げる群衆の視線は空に向けられています。なにか戦況に変化があったのでしょうか。もしかしてクレアお姉様が……いえ、そんなはずはありません。クレアお姉様ならきっと大丈夫、なはず……そんなことを考えながら、アル兄様のマントの後ろから、恐る恐る空を見上げます。


 空に映し出されている映像を見て――私は思わず固まってしまいました。






 そこに映っていたのは――先程の場所から一切動かず、不敵な笑みを浮かべた――クレアお姉様でした。



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