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新緑祭1-イザベラー

 

「おはようございます、クラリッサ様。本日からいよいよ新緑祭ですよ!」


 リリーに声を掛けられて目覚めると、窓は閉めているはずなのに街のお祭り騒ぎが聞こえてきた。


 窓から外を見ると、普段は学院(アカデミー)の学生のマントばかりが目に入る大通りが、色とりどりの服を着た人々でごった返している。


 新緑祭は今日から3日間行われる。普段は一般公開されていない学院(アカデミー)もこの期間は一部一般公開されており、在学生の家族や、観光目的でやってくる一般人で非常に賑わう――と昨日レイが言っていた。


 リリーに支度をしてもらい、談話室に降りていく。既に多くの学生が集まっているようで、談話室もとても賑やかだった。


「クレア! おはよう、こっちよ」

「おはよう、レイ」


 レイに声を掛けられそちらに向かう。人が多くて途中までわからなかったけれど、近づくと養母様にアル兄様、ソフィーまでいることに気づいた。


「おはようございます! 皆様、もういらっしゃっていたのですね」

「おはよう、クレア。元気そうで何より」


 養母様がそう言い、微笑んで下さった。


「お久しぶりです、クレアお姉様。今日はレイお姉様と一緒にオウムシュラハトに出場なさるのですよね? 私応援しております!」

「ありがとう、ソフィー。頑張るわ」


 久々の一家団欒――養父様は残念ながらお仕事で来られなかったらしいけど――を楽しんでいると、校内放送で呼び出しがかかる。


<本日のオウムシュラハトに出場する1年生は、出場準備を実施しますので大広間に集合して下さい。繰り返します――>


「あら、もうそんな時間? クレア、行かないと」

「そうね。では、皆様また後で」

「えぇ、貴女達の活躍期待してますよ」


 レイと共に退出の挨拶をし、放送の通りに大広間へと向かう。途中、同じく放送を聞いたチームの面々とも合流し、チーム“クロスフォード”5人揃って大広間へと入った。


 大広間には既に放送によって集まった学生達が列を作って待っており、私達もその列の最後尾に並ぶ。どうやら、チームごとに事前に受付した内容の確認と配布物の受け取りをしているようだ。


 チームごとに対応しているからだろう。並んでいた人数のわりに、列が進むのは早かった。あっという間に私達のチームが呼ばれ、5人で係の者の所へ向かう。


「チーム“クロスフォード”ね。メンバーはレイチェル・クロスフォードにクラリッサ・リーストエル・クロスフォードに……」


 係員が全員間違いなく揃っているかを確認し、配布物を渡してくる。


「全員揃っているわね。では、こちらが本日使用して頂くタラリアです。あとできちんと問題なく起動するか各自確認してください。問題があればすぐこちらまで。それと、こちらが守護者(ガーディアン)捜索者(サーチャー)が使う卵を収納する魔術具の鞄です」


 自分が使う魔術具と言われ、私は一歩前に出た。カタリーナも横に並ぶ。係員が注意事項を伝えながら渡してくれる。


「中は卵がぴったりと収まるように作られているから、普通に持ち歩く分には問題ないけれど、攻撃とかの衝撃を受けたら簡単に壊れてしまうから、気を付けてね」

「かしこまりました」


 受け取った魔術具は、一見すると少し大きめのショルダーバッグで、言われなければ魔術具とはわからないような感じだった。私はすぐに肩から斜め掛けする。


「それと、こっちの指輪は転送者(フォワーダー)が使う転送の魔法陣が組み込まれた指輪ね。転送先はそっちのバッグに既に設定されているから、魔力を流せば起動するわ。配布物は以上。あとは、事前に申請を受けていた魔術具たちね……」


 オウムシュラハトでは、全員が使う配布物の他、各自が作った、あるいは以前から所有している魔術具の使用が認められている。ただ、規定に違反しないか――殺傷能力の高さなど――を確認するため、事前に申請をして許可のおりた魔術具のみが使用可能になるとのことで、私の庇護の証をはじめとした私達の使用予定の魔術具も予め申請に出していた。


「申請してもらった魔術具は全て使用許可が下りているわ。各自魔術具に問題がないか確認して頂戴」


 私達は各々の魔術具を手に取り、不備がないか確認していく。特に不備はなさそうだ。


「問題ありません」


 レイが代表してそう伝えると、係員は最後に地図を渡してきた。


「では、最後にこちらを。今回の貴女達のスタートポイントはこの地図にも印がついている、ここ。オウムシュラハトの試合時間は6の鐘から7の鐘まで。試合開始前に校内放送が流れますから、それが流れたら6の鐘が鳴る前にこのポイントに全員集合していること。私からの説明は以上です。……何か質問は?」


 5人で顔を見合わせる。特に誰もないようだった。


「結構。では、時間までご自由にお過ごしください。貴女達の健闘を祈ります」

「ありがとうございます」


 係員と別れ、大広間から出る。一度寮に戻って作戦の最終確認をしよう、という話をしながら歩いていると、斜め後ろから声を掛けられた。


「あら、レイチェル・クロスフォードじゃない。貴女、盾役(タンク)で参加するって聞いたけど、本当かしら?」


 聞いたことのない声がレイを呼び止め、前を歩いていたレイが振り返る。その顔には不機嫌さが如実に表れていて、私は目を見開いた。


「あらごきげんよう、イザベラ。えぇ、私は盾役(タンク)で参加するわ。そういう貴女は攻撃役(アタッカー)なのね?」


「当然ですわ。私の力を最大限活かせるのが攻撃役(アタッカー)ですし、オウムシュラハトの花形である攻撃役(アタッカー)以外私には似合いませんもの」


「そう、活躍が聞けるのを楽しみにしているわ」


「何を他人事のように。オウムシュラハトに参加する以上、全力で潰させて頂きますわ。特にレイチェル・クロスフォード、貴女と……そこのクラリッサ・リーストエル・クロスフォードはね」


 !?


 突然話しかけてきて随分と好戦的な人ね……なんて思っていたら、突然敵意を向けられた。私は驚きで何も言えず、固まってしまう。


 ……え? 元々知り合いらしいレイだけならまだしも、何で私も名指しで潰す宣言されてるの? そもそも私、貴女とは初めましてだと思うのだけど……。


 困惑で何も言い返せないでいると、チームメイトらしき女子学生が「イザベラ様、そろそろ参りましょう」と声を掛けてきた。


 それを聞いたイザベラは「そうね、いきましょ」とまるで何もなかったかのように去っていった。


 えっと……今のは一体……?


 私は訳が分からず、レイに説明を求めて視線を向ける。


 私の視線に気づいたレイは「はぁ……」と深い溜息をついてから、「あとで説明するわ」とだけ言って、歩き出してしまった。


 周りを見ると、残りの3人も苦笑いを浮かべている。どうやら事態を理解できていないのは私だけらしかった。






 サミュエル寮に戻り、会議室に5人全員が入って扉が閉まった途端、レイが発狂した。


「あーもう! イザベラに会うなんてツイてない!」

「ちょ……レイ? 落ち着いて?」


 普段養母様を見習って常に淑女たらんとしているレイがこうも負の感情を表に出すのは非常に珍しい。よっぽど因縁の相手なのだろうか。


 戸惑いながらも落ち着かせようとしていると、レオニードがこうなった原因と言えるイザベラについて説明してくれる。


「レイチェルとイザベラは幼馴染で、ライバルなんだ。公爵家の長女っていう立場も同じだから、昔から比較されながら育ってきてる。クラス分けのテストでイザベラは僅かにレイチェルに及ばなかったらしいから、その分オウムシュラハトで見返そうと思ってるんだろ。……でも、レイチェルはまだしもクラリッサにまで敵意をあらわにしてきたのは意外だったな。誰彼構わず敵意を示す奴じゃないんだが……」


「それなら理由は明白だわ」


「レイ?」


「あの子、クラリッサのこと恨んでいるのよ」


 ……恨んでる?

 初めましてなのに?


「……ごめんなさい、レイ。意味が分からないわ。私、彼女と面識ない筈なのだけど。なのに、どうして私恨まれなきゃいけないの?」


 本当に訳が分からなくて首を傾げながらそう問いかけると、レイは「あ、そっか」と一人呟き、私に補足説明をしてくれた。


「ごめんなさい、大切な情報を伝え忘れていたわね。彼女はイザベラ・ボルジア。ボルシア公爵家の長女よ。……ここまで聞けば、心当たりに思いつくんじゃないかしら?」


 ……イザベラ・ボルジア。

 私は教えてもらった名前を心の中で復唱する。

 やっぱり初めましての筈なのだけど……ん? ボルジア?


 私は聞き覚えのある単語を思い出して記憶を辿る。そして一つの可能性に辿りついた。


「もしかして、ボルジア先生?」

「正解よ。ボルジア先生は現ボルジア公爵の弟……つまりイザベラの叔父にあたる人。ね? 関係あったでしょ?」


 確かに全くの無関係ではないようだけれど、納得いかない。何故叔父にあたる人物と関係があっただけであんなことを言われなければいけないのか。


「確かに関係あったといえばあったけれど……なんでそれで彼女から恨まれることになるの?」

「それは、クレアを排斥しようとしていた派閥の中心人物であるボルジア先生を、お母様とオスカー様、そして貴女自身が完膚なきまでに叩きのめしたからに決まってるじゃない。イザベラからしたら、自分の顔に泥を塗られたようなものよ?」


 ……叩きのめした、なんて失礼な。私は自分の無実を訴えただけだし、あとはオスカー様の手の平の上で踊らされていただけなのに。


 とはいえ、初対面にも関わらずあんなことを言われた理由は理解できた。ご丁寧にも宣戦布告してくれているのだから、こちらも要注意人物として扱えば問題ないだろう。


「そう……わかったわ。それなら仕方ないわね。あまりお近づきにならないように気を付けるわ」


 私がそう言って話を終わらせようとすると、カタリーナがフォローを入れてくる。


「たしかにイザベラ様のお言葉はよくなかったですけれど、根は良い人なのですよ、クラリッサ。同じ立場のレイチェルに負けないよう、ボルジア公爵家の長女として常に誰よりも努力し続けてきた人でもあるわ」


「たしかに、それは私も認めるわ。イザベラは本当に努力家よ。……あの高飛車さえなければ、本当にいい子なのに」


「レイチェル、その辺に。人のことを悪く言っても何も良いことはないですよ」


「……それもそうね。それよりも、作戦の最終確認をした方がよっぽど有意義よね」


 レイがオウムシュラハトの作戦会議に頭を切り替えたことで、イザベラの話題は終了になった。


 剣呑な雰囲気にどうしたものかとおろおろしていたランヴァルと「これだから女子は……」というような目線を寄越すレオニードに申し訳なさを覚えつつ、私達は作戦の最終確認を始めたのだった。


「私達の作戦は以前言った通り、『最高を望み、最悪に備えよ』——つまり、攻撃と防御の両立。私とレオニード、ランヴァルの3人のコンビネーションで卵を奪取しつつ、集めた卵はクラリッサの庇護の証の魔石で守り切る。カタリーナが特別な卵を見つけられたら言うことなし! 皆、自分の期待役割の把握は大丈夫ね?」


 カタリーナ、レオニード、ランヴァルが頷く。私は頷かずに小さく手を挙げた。


「クレア?」



「実は、1つ提案があるのだけど……」


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