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テスト

 


「おはようございます! 朝ですよ、クラリッサ様!」

「…………………………」

「クーラーリッサーさーまー! あーさーでーすーよー!」


 朝から元気いっぱいのリリーに叫ばれ、仕方なくベッドから起き上がる。


「う……おはよう……リリー」

「はい。おはようございます、クラリッサ様。今日はとてもよく眠られたようで何よりです」


 次いでマロウ、シスルも朝の支度の為に入室してくる。私は3人が動きやすい位置に移動した。


「おはようございます、クラリッサ様。リリーの言う通り、よく眠られたようですね、顔色がずいぶんよくなりましたもの」

「ありがとう、マロウ。昨日はあまり寝られなかったけれど、今日はぐっすり寝られたわ。不安の種が減ったし、疲れていたしね」



 昨日――――養子縁組手続きを無事に終え、安堵と共に昼食をとった、そこまではよかった。前日の寝不足が祟ったのか、レイ主催のお茶会に向かう頃にはかなり疲れていた。


 まして、お茶会には養母様も参加していたわけで。今までとは違う意味で緊張もした。


 そんなわけで、お茶会を終え、晩餐を食べた後のことは正直覚えていない。いつの間にか私は眠りに落ちていたらしい。


「実際の所、お茶会の頃にはかなりお疲れで眠気と戦っていたのでは?」


「リリーは本当によく見てるわね……えぇ、その通りよ」


「でしたら、無理に参加しなくても……ご家族のみのお茶会でしたら、体調が万全でなければ欠席されてもよかったのでは?」


「私が話したいことがあったから……それが話せただけで、少し無理をしてでも参加した価値があるわ」


「それなら良いのですけれど……あまり無理はなさらないでくださいね」


 そう、昨日あの場で、将来の話をすること……それが私の出席理由だった。

 養子縁組の話が晩餐で出た時、唯一即賛成しなかったのがレイチェルだった。


 レイの質問に養父様がすぐ答えたから受け入れていたけれど、私の口からも言っておいた方がいいだろうな、と思っていたのだ。


 言うのであれば、養子縁組手続きが終わってすぐのあのタイミングが最適だった。


 問題は、他にも人がいる場でどうやって自然にその話題に持っていくかを考える気力がなかったことだったけれど……おそらく、レイのお茶会開催理由の1つだったのだろう。レイ自らその話題に持っていってくれたおかげで、無事自然に宣言するこができた。


 レイの不安を取り除き、かつ私の目標を共有してソフィーとレイから協力してもらえる約束も取り付けられたのだから、多少の無理をしてでも出席した甲斐があったと思う。






 朝の支度が終わり、ラミウムもやって来た。


「おはようございます、クラリッサ様」

「おはよう、ラミウム。今日の予定は授業だけよね?」

「はい。オスカー様から、初日なので少し早めには終わらせる予定だとは伺っていますが、予定はそれだけですね」

「わかりました」

「頑張ってくださいませ」

「ありがとう」






 朝食を終え、4の鐘が鳴ったのを確認していざ、図書室へ。

 リリーと一緒に行こうとすると、扉の前には何故かラミウムが控えていた。


「ラミウム?」

「本日の授業へは、私が同行するように仰せつかっております」

「そうなの?」


「はい。奥様より、最初の授業なので様子を報告して欲しい、と。授業が終わり次第私は奥様への報告に向かいますので、リリーには授業の後半に図書室に向かってもらいます」


「わかりました。では、行きましょうか。もう図書室でお待ちでしょうし」

「かしこまりました」

「では、行ってきますね」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ」


 リリーとシスルとマロウにそう伝え、私はラミウムと共に部屋を出た。







 図書室に入ると、窓辺に面した場所にテーブルと椅子が準備されていて、オスカー様の前には大量の木札が置かれていた。


「おはようございます、クラリッサ嬢。今日から宜しくお願い致します。どうぞ、こちらへ」

「おはようございます、オスカー様。こちらこそ、宜しくお願い致します」


 私は指し示された椅子に腰を下ろす。すると、オスカー様は早速積まれた木札と、羽ペン、インク壺を私の前に差し出した。


「まずは、貴女の学力を把握する為、テストを受験して頂きます。知らなければ知らないで、空白にしておいて頂ければ構いません。こちらに積まれている木札は全てテストですから、どんどん答えていって下さい。1つの木札が終わり次第、解答を確認しますので私の方に渡して下さい。……何か不明点や質問はありますか?」


「……今のところは大丈夫です」


「かしこまりました。では、早速始めましょう。途中で質問が出てきたら声をかけて下さい」


「はい」



 早速、1つ目の木札に目を通す。

 どうやら、最初の木札は神々に関する問題らしい。



 問1.代表的な神々―――12神の総称を答えよ。


 問2.12神の御尊名、属性、何を司るかを答えよ。


 問3.12神のシンボルを答えよ。


 問4.12神以外の神々について、御尊名、属性、何を司るか、シンボルを答えよ。


 ・

 ・

 ・



 ………………難易度、高くない?


 わかる。網羅的に、どの程度の知識があるか知りたい、というオスカー様の意図はわかる。

 ……けど!

 全部筆記で書かせる? 選択肢ぐらいくれてもいいのに……


 私はオスカー様の鬼教師っぷりに目をむきつつ、なけなしの知識を精一杯引っ張り出して問題に向き合う。


 問1は簡単。“シアンファテオ12神”。


 問2………12神全部は厳しいなぁ……アティスヴィーネ様に、リビテイア様………エイレテルース様。


 それから……あれ?


 すっごい美男子だけど悉く悲恋で終わる神様の御尊名はなんだったかしら………以前読んだ本に載っていた……ヘ……ヘリ……ヘリオティアスロン様!

 それから浮気性のユーピテュール様。あとは、普段は優しいけれど怒らせるとこわいアーパスリール様……それから…………


 うんうんと唸りながら、なんとか捻り出して書いていく。


 たぶん言われれば「そうそれ!」ってなるんだろうけれど……なんのヒントもなしだと、存外出てこないものなのね……


 とりあえず、全問何かしらは解答できたけれど、御尊名だけ書けていたり、属性と司るものまで書けていたりと解答の精度はかなりバラバラだと思う。


 けれど、これ以上悩んでも出てきそうにもないし、まだ木札は1つ目だ。あまり時間をかけすぎると終わらないかもしれない。


 私は諦めて、オスカー様に声をかける。


「……終わりました」

「お疲れ様です。では、採点致します。次はこちらをどうぞ」


 渡された木札に書かれた問題は地理。その後も、歴史、経済、一般教養と次々と木札を渡され、解いていった。




「……終わりました」

「お疲れ様です。ちょうどいい時間ですから、一旦昼食に致しましょう」


「え? もうそんな時間ですか? 鐘、鳴りましたか?」


「えぇ、先ほど鳴りましたよ。とても集中しておいででしたので、聞こえなかったのでしょう。さぁ、使用人達が隣の応接室に昼食の準備をしてくれていますから、参りましょう」


「そうですね、とてもお腹がすきました」

「それは何より。頭を使った証拠ですね」

「そうかもしれませんね」

「では、栄養補給と致しましょう」


 私はオスカー様と共に図書室の隣の応接室へと向かった。




 リリーが準備してくれた昼食を食べながら、初対面の時から気になっていたことを聞いてみる。


「オスカー様、ずっと気になっていたことがあるのですが……」

「はい、なんでしょう?」


「なぜ、私の専属教師を引き受けてくださったのですか?」


「……理由はいくつかあるのですが、守秘義務のあるものもあるので、全てをお伝えすることはできません。ですが……お伝えできる範囲のもので言うなら、『興味があったから』でしょうか」


「興味……?」


「えぇ、貴女に興味があったのですよ。3年前の出来事の唯一の生き残りであり、3年間の眠りから目覚め、記憶を失った、貴女に」


「……オスカー様と私は、私が記憶を失う前に面識があったのですか?」


「おや、どうしてそう思いましたか?」


 オスカー様が楽しそうに聞いてくる。


「3年前のことや、記憶喪失のことがあるとはいえ、記憶に関する学者様でもない、ましてお忙しい特務師団所属の方の興味を引くとは思えません。であれば、元々面識があったからかな、と思ったのですが……」


「なるほど。なかなか良い推察です。面識……そうですね、確かに、私はあの事件の前に貴女にお会いしたことがあります」


「やっぱり私とオスカー様は会ったことがあったのですね」


「えぇ。そんなわけで、貴女のことを心配していましたし、興味があって専属教師を打診された際に二つ返事で了承した、というわけです」


「……そうでしたか」


 オスカー様とも元々知り合いだったらしいが、当然私は覚えていない。それが申し訳なく感じて、私は曖昧に返事をすることしかできなかった。



「さて、昼食も終わりましたし、再開するとしましょうか」


 そう言われて席を立つ。図書室に戻り、机を見ればまだ木札は半分ほど残っている。


「さて、テストも残り半分です。頑張って解いてくださいね」


 そう笑顔で言われては、「頑張ります」としか返せなかった。


 残りの半分は、古語、薬学に魔術基礎、紋章学など……前半とは比べものにならないほど難しい問題ばかりで、ほとんど空白のまま終えるしかなかった。


「はい、お疲れ様でした。……ふむ。なるほど。さすがに後半は難しかったですかね」

「そうですね……」


 どう考えても8歳程度の知識しかない人間に解けるわけがない問題だったと思いますよ? ……とは言えないので、私は複雑な感情を抑えながら曖昧に答える。


「一番正答率が高かったのは神学……次点で歴史と地理ですか。これは何か要因があるのですか?」


「神話に関しては、以前読んだ本の中に神話を扱ったものがあったので、たぶんその影響かと。歴史と地理に関しては、つい先日ソフィーが歴史を習った話を少し聞きましたけど……その程度です。なんとなく考えていたら思い出してきたので、元々知っていたのだと思います」


「なるほど。まぁ何はともあれ、お疲れ様でした。今日はこれで終了です」


「え? でもまだ、6の鐘がなって少ししかたってませんけど……」


「今日は少し早めに終わらせる予定だとお伝えしていたでしょう? 私はこれから、このテスト結果を基に今後の授業内容の最終調整をしなくてはなりませんから」


 そういって、オスカー様は片づけを始める。


「あぁ、そうそう。明日以降の授業日程ですが。基本的には土の日と木の日はお休みです。本日が空の日ですから、明日明後日授業をしたら一度お休みの日を挟みます」


「何か用事ができたりして授業ができなくなってしまった場合はそのお休みの日を使って授業をさせて頂くこともあるかもしれませんが、その場合は前もってご連絡させて頂きます。……何か現時点でご質問は?」


「今のところは大丈夫です」


「結構。では、丁度お迎えの使用人も来たようですから、今日は以上です。お疲れ様でした」


「ありがとうございました」


 私は礼をし、迎えに来てくれたリリーと共に図書室を退室した。





「そうそう、クラリッサ。3日後の授業がお休みの日は出掛けますからね」


 晩餐の席で、唐突に養母様がそう切り出した。


「お出掛けですか?」


「えぇ、貴女の学院(アカデミー)入学のための入学申請と、制服の発注をしなくてはいけないですからね」


「そうでしたか。かしこまりました。……何か準備しておくことはありますか?」


「そうね、入学試験、というわけではありませんが、魔力を持つ貴族の子であることを確認する簡単な検査がありますから、魔石を光らせられるように最低限の魔力操作はできるようにしておいてくださいね」


「まぁ、オスカー様はその辺抜かりないとは思いますが。……あとは、養子縁組の証のネックレスと、旦那様から頂いたマントを忘れないようにしておけば大丈夫ですよ」


「かしこまりました。宜しくお願い致します」




「クレアお姉様、オスカー様との授業は如何でしたか?」


 会話が一段落するのをまって、ソフィーが訊ねてきた。


「どう、と言われても……今日はテストを受けただけだから………」

「でも、昼食もご一緒したのでしょう? 授業以外でも、どんな会話をしたのか私も気になっていたの!」


 レイも話題に食いついてきた。


「そんなこと言われても……授業中はひたすら問題を解いて、終わったものをオスカー様にお渡ししていただけだし……。昼食時は多少お話もしたけれど……」


「それよそれ! 何をお話したの?」


「テストのこととか……あとは私が気になっていたことを質問したり」


「気になっていたこと?」


「えぇ。お忙しい筈の特務師様が、何故私の専属教師を引き受けてくださったのか、と」


「それで、オスカー様は何と?」


 先ほどまでのレイとソフィーに加えて、静観していた筈の養母様まで参戦してきた。


「えっと……『興味があったから』だそうです」


「興味? オスカー様がクレアお姉様に、ですか?」


「えぇ。私もそう思って、以前から知り合いだったのかと聞いてみたら、どうやら面識があったみたい。私は覚えていないけれど……」


「まぁ、そうだったんですか! では、昏睡状態から目覚められたお姉様を心配して、専属教師を快諾してくださった、ということですか?」


「そうみたい」


「……あのオスカー様にそんな一面があったなんて、びっくりだわ」


「レイ、どういうこと?」


「オスカー様は、『氷雪の貴公子』と呼ばれる方なのよ。誰とでも気さくに話してくださるけど、誰とも一定以上親しくなさらない。特務師の中でもエリート中のエリートで社交界でも注目の的なのに、未だに特定のお相手もいらっしゃらない。だから、クレアの専属教師に決まった時もとても驚いたのだけど……」


「そうなの?」


「まぁ、なにはともあれ、オスカー様がクレアの専属教師を引き受けて下さって助かりました。この時期に専属教師を探そうと思っても、優秀な方は既に他の方の教師を引き受けてしまっていて引き受けてもらえませんからね……」


 養母様がふぅ、と息を吐く。どうやら、オスカー様に決まるまでに色々とそのことで苦労したらしい。

 知らされていなかった養母様の苦労を知って、私の心の中は感謝と申し訳なさでいっぱいになった。


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