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一話 初めての登校

「おはようございます。赤太(あかた)です」


 いつものようにインターホンを押し、毎朝呪文のように同じ文句を言う。そんな今は、四月七日午前七時三十分。


「「はーい、赤太(あかた)君おはよう。ごめんね、ちょっと待っててくれる? ……霞流(かな)ーっ! 赤太(あかた)君待ってるわよー」」


 インターホンの音声を切っていないせいで、家の中の音声が丸聞こえだ。


「「え? 赤太(あかた)、もう来たの? ……あっ、入学式って集合時間早いんだっけ!?」」


 電子音声越しで聞こえるその声は、おそらく話し口から相当離れているはずなのに、しっかりと明瞭に聞き取れる。要するに声がでかい。


「「赤太(あかた)ごめんっ! あと五分だけ待って。超特急で済ませるからっ!」」

「おう」


 急に音量がでかくなったと思ったら、話すなり()()()とインターホンが切れた。


 幸い高校への通学手段は徒歩。電車やバスだったら、遅刻ということもあり得たけど、徒歩なら走れば帳尻を合わせられる。

 今までも、こんなことが無かったわけじゃないけど、大して気にならなかった。もちろん今日も。



 数分、島郷(とうごう)家の外観をぼうっと眺めていたら、霞流(かな)が玄関から押し出されるように出てきた。


「ごめんごめんっ! あ、おはよう赤太(あかた)


 真っ黒なナチュラルボブに、綺麗に揃えられたぱっつんヘアー、そこからニカっとした笑顔が少しだけ見えた。


「おはよう。……早めに歩こう、初日だし遅れたら流石にばつが悪い」

「そだね」


 新しい高校のブレザーを身にまとった彼女は、そう言って俺と学校に向かった。


**********************************


「男子の制服は、変わらず学ランなんだねー」

「確かに。……まあこっちのほうがしっくりくるかも。……女子は結構変わったね。そのなんていうか……」

「……」


 変なことを口走ったせいで会話が滞る。正直、朝、玄関口で霞流(かな)を見たとき、すごく似合ってると思った。でもそんなことを口にするのは何か違うと思ったので、心の中に封印した。


「急いで着たんだけど……そ、その……。似合ってる……?」


「……似合ってる」

「よかったあぁ」


 めちゃくちゃ安堵しながら早歩きしている霞流(かな)は、(はた)から見るとすごい変なんだろうなあ。まあ俺も早歩きしてるんだけど。


「その、私が遅れたこんなときにいうのも何なんだけどさ、その、もうちょっと……恋人らしくしない?」

「……」


 恋人らしくって言われても今更感がすごいし、何より付き合い始めたのなんて、ほんの数週間前である。


「一緒にいる期間が長すぎて、急に変えろって言われても難しい」

「でも、赤太(あかた)から告白したんじゃん」


 『でも』の使い方が少しおかしい気がしたけど、それを言ったら面倒なことになると思ったので言わなかった。あと、俺から告白したのは本当なので、正直黙るしかなかった。


「具体的にはどうすればいいの?」

「うーん、デートとか?」


 もう一度言うが、二人とも、朝の住宅街を早歩きしながらこんな会話をしている。


「デートならいつもしてたじゃん。霞流(かな)の服見に行ったりとか、夜ご飯食べに行ったりとか」

「確かに。……ってあれはなんていうか……その、違うじゃん!」

「何が?」

「うーん。やっぱ同じか……」


 正直、付き合う前から変に仲が良かったせいで、付き合ってからこういうことになってしまっている。


「……それにしても霞流(かな)も合格出来てよかった」

「ちょっと、めっちゃ強引に話し逸らしたっ! ……まあ確かに合格出来て良かったけど……」


 現在目的地の学校に入るのは本当に骨が折れた。偏差値六十五、とスーパーエリート校とまではいかなくても、そこそこ頭がよくて、地元の中学校が近いから倍率が1.8倍くらいあって、四割くらいの人が落ちる結構な難易度だ。


「ほんと数学の試験は死ぬかと思ったよー。赤太(あかた)に教えてもらわなかったら絶対落ちてたー」

「あの時は、霞流(かな)もめっちゃ頑張ってたし、もともと才能があったってことじゃない」

「またまた~。そんなこと言っても、昼ご飯はおごりませんぞ赤太(あかた)殿っ!」


 そろそろ早歩きしながら喋るのも疲れてきたころ、例の高校、県立喜納(きな)高等学校の校門が見えてきた。


「歩いた距離は中学校と変わんないから、なんか高校感ゼロだねー」

「ある意味それが最大のメリットだからね」


 こんな近場(ちかば)でなきゃ、霞流(かな)はもう少しランクを落とした高校に通っていたはずだ。


「私、満員電車だけはどうもダメなんだよねー。ほんと頑張った甲斐があった!」

「それは同意」


 校門付近には、花飾りで飾りつくされた『入学式』の看板と、新入生をお出迎えするかのように十数人の先生たちが、昇降口に向かってレールを敷くように並んでいた。


「なんかビビっちゃうね、もう高校生なんだ私たち」

「先生たちがあんなにニコニコなのは今だけでしょ」

「あー、もうっ! なんで赤太(あかた)はすぐそういうこと言うのっ!」

「ごめん」

「謝るのはやっ!」


 そんなこんなで、誘導されるままに校舎へ足を踏み入れた。

 俺と霞流(かな)が違うクラスなのは元から知っていたので、ここでお別れになる。


赤太(あかた)は九組だっけ? 私は二組だから……じゃあまた後で!」


 軽く手を振り返して、俺は廊下の突き当り、九組の教室に入った。

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