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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第五章・砂漠の王国と双子天使

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聖天使協会本部にて

 全身の骨折、重度の火傷、神器の破壊、翼の損傷。

 生きているのが不思議なくらいの負傷だった。

 聖天使教会本部に運ばれたサンダルフォンとメタトロンは、すぐにジブリールの下へ運ばれ治療……一命は取り留めたが、もはや戦えるような状態ではなかった。

 聖天使教会十二使徒アルデバロンは、サンダルフォンとメタトロンを十二使徒から除外。これにより十二使徒の欠員は三人となった。


 原因は、呪術師の生き残りフレア。

 ラーファルエルは軽くちょっかいを出して敗北。サンダルフォンとメタトロンは実力を測ろうとして半死半生という結果に、聖天使教会は『呪術師の生き残りに接触禁止』の命令を出した。

 世界に中心にある天使たちの居住地である、『楽園都市エデン』では、かつて天使たちが命懸けで戦い滅ぼした呪術師に恐怖していた。


 そして……休暇でずっと家に引きこもって爆睡していた赤髪の少女こと、聖天使教会十二使徒最強である『炎』のミカエルは、休暇を終えて本部に顔を出し、サンダルフォンとメタトロンが敗北したことをついさっき知った。

 ここは、ズリエルの執務室。


「さ、サンダルフォンとメタトロンが……負けた!? うっそ!?」

「ほ、本当ですぅ……というか、本部だけじゃなく町でも話題になってますけど……知らなかったんですか?」

「うっさい!! 寝てたんだからしょうがないでしょうが!!」

「ひぃぃっ!? すす、すみません!!」


 十二使徒の一人ズリエルから話を聞いたミカエルはズリエルの襟をつかむ。


「で、接触禁止ってなに?」

「あだだだだっ!? あ、アルデバロン様が決めたんですぅ!! これ以上余計なちょっかいを出して十二使徒が減らされることを防ぐってぇぇっ!!」

「は? あたしが負けるとでも?」

「あ、サンダルフォンさんはそう言って負けました」

「あ゛?」

「すす、すみませぇぇんっ!! あつつ、熱い熱い!? 火ぃ出てます火!!」


 ズリエルの襟がメラメラ燃えているがミカエルはお構いなし。

 襟から手を放し、フンと鼻を鳴らす。


「火力」

「へ?」

「呪術師の炎、どれくらい強いの?」

「え、えーと……報告では、サンダルフォンさんの『鋼』を溶かしたとか」

「……ま、及第点ね。あたしが相手をするくらいは強くなってる」

「あ、あの……ミカエルさん?」

「あたしが行く。舐められっぱなしってわけにはいかないでしょ? ラーファルエルに続いてサンダルフォンとメタトロンの敗北……天使の価値が落ちるんじゃない?」

「う。そ、それはその、これから会議で」

「そんな悠長なことやってる場合? いいわ、あたしが呪術師を……フレアを倒す」


 ミカエルは不敵に笑う。

 嘲るような笑いではない。フレアを強者と認めたからこそ出た笑いだ。

 ミカエルはズリエルの執務室を出ようとして歩きだし──。


「どこへ行くつもりだ。ミカエル」

「……アルデバロン」


 聖天使教会トップ、アルデバロンがドアの前に立っていた。

 いつの間にか部屋にいたとか、そんなことは問題ではない。明らかに、ミカエルを通さないために立っていたのだ。

 もちろん、ミカエルは言う。


「どきなさいよ」

「どこへ行くつもりか、聞いている」

「呪術師のところ。あいつはあたしが倒す」

「駄目だ。呪術師に手を出すことは許さん」

「は? はぁ?……なにあんた、ビビってんの?」

「違う。ラーファルエルに続きサンダルフォンとメタトロンまだもが敗北した。お前は知っているのか? 呪術師の至宝である七つの魔神器が、最後の呪術師に全て継承されている可能性があるということを」

「だから? あたしが負けるとでも?」

「そうだ。真に覚醒した魔神器の恐ろしさを知らぬわけではあるまい。千年前の大戦を忘れたのか?」

「なおさら、あたしが行く」

「駄目だ……まだわからんのか」

「はっ……あんたこそ、わかんないの?」


 ミカエルの全身が真っ赤に燃え上がる。

 恐るべき熱量の紅蓮だった。深紅の髪が逆立ち、火の粉が飛び散る。


「聖天使教会のトップはあんただけど……天使最強はあたしよ。あんた程度があたしを止められるとでも?」

「…………」


 アルデバロンは大きくため息を吐き、ようやくドアからずれる。

 ミカエルは早足で部屋を出て、アルデバロンも何も言わず退室した。

 そして、残されたズリエル。


「…………あの、部屋」


 ズリエルの執務室は、ミカエルの火の粉と熱風で酷い有様になっていた。

 当然、掃除や修復をしたのはズリエルだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 さっそく本部の自室に戻って荷造り、そしてフレアの下へ。

 ミカエルが自室に戻ると、そこには。


「あ、ミカちゃん。ようやく来たぁ~~~……もう!! お部屋に遊びに行ってもいないし、ここにいるかと思って見てもいないし!! せっかくの休暇、どこか行くなら教えてくれてもよかったのに!!」

「ラティエル、あんた……勝手に人の部屋に入るんじゃないわよ」


 ラティエル。

 深緑色のゆるふわウェーブの髪を持つ少女だった。

 柔らかで人懐っこそうな少女で、ミカエルの部屋に勝手に入りお茶の支度をしていた。

 ミカエルは一気に脱力する。

 

「ミカちゃん、こっちは大変だったのよ? サンちゃんとメタトロンくんが大怪我しちゃって。わたし、ミカちゃんに伝えようとお部屋にお邪魔したのに、ミカちゃんの部屋鍵かかってるし」

「ああ、寝てたから」


 聖天使教会本部だけでなく、天使の町エデンにも家を持つミカエル。

 ちなみに、他の十二使徒は一戸建てや屋敷を持っているが、ミカエルは安い賃貸式アパートの一室を借りていた。

 ミカエルはクローゼットからカバンを引っ張り出し、出掛ける準備をする。

 様々な道具類や、人間の町で使う金貨や白金貨などを詰めていると、ラティエルが首を傾げた。


「ミカちゃん、おでかけ? 休暇は終わったんじゃ……」

「ちょっと人間の国にね。呪術師と戦ってくる」

「えぇぇ!? で、でも、アルデバロン様が接触禁止命令を」

「あたしにはそんなの意味ない。あたしは最強だしね」

「あらら……」

「うし。準備完了……じゃあねラティエル。行ってくる」


 カバンを背負い、部屋を出ようとするミカエル。


「待って、ミカちゃん」

「何よ。止めても無駄よ」

「うぅん、わたしも行く」

「……はぁ?」

「わたし、これから休暇なの。せっかくだし、人間の町でのんびり過ごそうかなぁって考えてたところなの。ミカちゃん、わたしも付き合うわ」

「……あの、遊びに行くんじゃないけど。ってか、戦いに行くって」

「大丈夫!!」


 ラティエルはドンと胸を張る。

 ローブ越しからでもわかるほど大きな胸が揺れた。


「わたしだって『聖天使教会十二使徒』の一人だもん。ミカちゃんと一緒だよ!!」


 ◇◇◇◇◇◇


 時間は、少しだけ巻き戻る。


「と、いうことで……呪術師に敗北した両名を救出、その場を離脱しました」

「…………そうか。感謝する」

「いえいえ。ワタクシ、同胞を救っただけですので」


 アルデバロンの執務室で事の詳細を説明するマキエルは、糸のような眼を細め口を三日月のように歪ませて嗤う。

 そう、サンダルフォンとメタトロンをすんでのところで救出し、ここまで連れてきたのはマキエルだ。

 聖天使教会は、マキエルに大きな借りができた。


「今回の件、ワタクシのBOSSにも報告しておきますので。聖天使教会十二使徒をワタクシが救出した、とね……フフフ」

「…………そうしてくれ」

「ええ。もちろん」

「あと、伝えておいてくれ。『聖天使教会はこの程度で揺らがない。私とミカエルがいる限り』とな」

「おお……わかりました。一言一句違えずお伝えしましょう」

 

 マキエルは優雅に一礼し、アルデバロンの部屋から退出しようとして……。


「ああ、そうだ。これはたった今入った情報なのですが……どうやら、十二使徒最強のお嬢さんが、呪術師の下へ行くと騒いでいるようですねぇ」

「……貴様、教会内に『蟲』を放ったのか」

「おお、そんなに怒らないでください。ここはワタクシにとって敵地とも友軍地とも言える場所。最低限の警戒をしただけで」

「直ちに『蟲』を消さねば宣戦布告と取る。『奴』がこんなことを許すとは思えん。貴様の独断で我々に戦争を仕掛けたとなれば」

「おっとそれは困りますな……はい、消しました。では失礼」


 マキエルは再び一礼し、そのまま去った。

 アルデバロンはミカエルを止めるため、小さく息を吐いて部屋を出た。


 ◇◇◇◇◇◇


 聖天使教会本部を出たマキエルは、自分の所属する『組織』に向かおうと空を飛んでいた。

 すると、マキエルを待ち構えていたように小さな影が空間を割って現れた。


「おお、これはこれは。ラハティエルさん」

「マキエル。むかえ。きた」


 ダボダボでボロボロのローブを着た十歳くらいの少女だった。

 顔色は悪く、長い髪は傷みきっている。肌も青白く言葉もたどたどしい。

 異様なのは、手に持った巨大な『鎌』だった。

 その大きさ、全長十メートル、鎌の部分も同じくらい大きい。ラハティエルと呼ばれた小さな少女は、小枝でも引きずるように『大鎌』をプラプラ揺らす。


「マキエル。かえろ?」

「ええ。仕事は終わりましたので帰りましょうか。ああ、お土産もありますよ」

「やった。ありがと」


 感情をまるで感じさせない声で、ラハティエルは万歳した。

 そして、無造作に鎌を振り下ろすと、空間がパックリと裂け黒い空間が現れる。

 ラハティエルはその空間に飛び込み、マキエルを手招きした。


「ボス。まってる。おみやげ。ちょうだい」

「はいはい。では……」


 マキエルは帽子を手で押さえ、空間の中へ。


「では、帰りましょうか。我ら『懲罰の七天使アインソフオウル・セブン』のアジトに」


 空間がゆっくり閉じられると……そこには、何も残らなかった。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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