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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第五章・砂漠の王国と双子天使

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BOSS・聖天使協会十二使徒『鋼』のサンダルフォン&『操』のメタトロン①

 時間は少しだけ巻き戻る。

 フレアとサンダルフォン、メタトロンの会話が始まる少し前。カグヤ、レイチェル、コクマの三人はダッシュで強い気配のする場所……すなわち、フレアの下へ向かっていた。

 そして、もう間もなく到着というところで、コクマが盛大にズッコケた。


「あいっだぁぁぁっ!?」

「コクマ!? だ、大丈夫か!!」

「ああもうドンくさいわね!!」


 カグヤとレイチェルは急ブレーキをかけて振り返る。だがコクマは突っ伏したまま動かず……五秒ほど経ってようやく顔を上げると、鼻血を流し眼鏡は割れていた。


「あいだだだ……さ、さぎにいっでぐだざい!! め、眼鏡、じゃなくで足を捻ったみだいで……」

「だ、だが……どんな脅威があるかわからん場所に、貴殿を置いていくのは」

「だ、大丈夫……ずこじやずんだら追いまず!! げっほげっほ!! い、『隠べい』をづがえば気付かれないど思うんで、そのへんにかぐれでまず!!」

「わかった。じゃあ先に行ってる。後で迎えに来るからっ!!」


 そう言ってカグヤは駆け出した。

 レイチェルはほんの少しだけ悩み、頭を下げる。


「……かたじけない!!」


 レイチェルも走り出し、二人はあっという間に見えなくなった。

 二人が見えなくなり、コクマはゆっくりと起き上がる。


「ふぅ……いやぁ、ほんとにいい子たちだ」


 顔をぬぐい、カバンから水のボトルを取り出して一気に飲み干す。

 そのまま大きく伸びをして、カグヤたちが向かった方向とは全く別の方向を見た。


「さーて、ボクは覗き見してる誰かさんに会いに行こうかな」


 ◇◇◇◇◇◇


 俺は構えたまま、上空に浮かぶ双子天使を見据える。

 ラーファルエルの時も思ったが、空飛べるってズルい。


「だからって負けるつもりねぇけどっ!!」


 先手必勝。

 俺は気絶しているカガリビの近くに向かい、落ちていた『回転式拳銃』を拾う。

 使い方は至近距離で見てたからわかる。弾丸も入ってるし使えそうだ。

 さらに、この庭園……やっぱりあった。これだけの規模の庭園を管理するための水路だ。


「第二地獄炎、『アイスレイランス』!!」


 右足から炎を出し、水路に片足を突っ込んで水を掌握。

 この辺りの水路全体に第二地獄炎を巡らせ、大きな氷の槍を作り出した。


「先手……いただきまっす!!」


 巨大氷槍を双子天使に向けて蹴り上げる。

 氷の槍は天使に向かって飛び、俺はその氷の槍に飛び乗った。


「わお、器用ね」

「だから何?って感じだけど」


 双子は手をつないだまま、空いた手を俺に向ける。


「『鋼錬金(フルメタルアルケミー)』」

「『流操作(マニ・ストリーム)』」


 双子の前に液状の『鋼』が瞬時に出現、メタトロンが液体の鋼を『操作』し、メタトロンが固定。小さな短剣が数十本現れた。


「おうらっ!!」


 俺は氷の槍を思い切り蹴り砕くと同時に、短剣が俺を狙って飛んできた。

 砕けた氷と短剣が衝突……でも、何本かは氷と接触せず、俺を狙って正確に飛んできた。

 俺は片手のブレードを展開、もう片手には拳銃を握り、メタトロンに向けて引金を引く。


「……はっ」


 だが、メタトロンは薄く馬鹿にしたように笑う。銃弾はメタトロンの人差し指の腹で難なく受け止められてしまう。


「っぐ、この……っ!!」


 俺はというと、飛んできた短剣を叩き落とすのに必死だった。

 そのまま地上に落下……くっそ、やっぱり空中戦ってずるい。

 俺は着地すると、双子に向かって叫ぶ。


「お前ら飛ぶのズルいぞ!! 降りてこいこのアホたれー!!」

「ふ、フレアさん……なんか子供みたいですぅ」

「う、うるさいな」


 植木の陰に隠れるニーアのツッコみを無視する。

 すると、メタトロンは馬鹿を見るようにクックックと嗤った。


「ああ、人間は翼を持たないから不便だよねぇ……ならいいよ、きみにピッタリの相手を作ってやろう」

「あ!! あれやるのね?」

「うん。人形劇、いいだろう?」

「もちろん!!」

「くっそ、高いところでキャッキャウフフしやがって……」


 試しに『呪炎弾』を撃つが、あっさり躱された上に鉄の盾でガードされた。炎は軽く躱せるし簡単に防御できるぞって実演しやがった。

 そして、双子天使は再び手をかざす。狙いは俺……ではなく、倒れているカガリビ?


「『鋼騎士(メタルナイト)』」

「『操着・騎士装甲(パラデインメイル)』」


 カガリビの周りに鋼が集まり、メタトロンが鋼を操作して成形し……肌をすっぽり覆う全身鎧となり、気を失うカガリビの身体をがっちり包み込む。

 そして、メタトロンが五指をクイクイ動かすと鋼の鎧を装備したカガリビも動き始める。


「『操作(パラサイト)』……ふふ、これならキミも戦えるだろう? かつて呪術師との闘いで数千数万の軍勢を『操』ったボクの真骨頂さ」

「マジかよ……」


 カガリビはガッチャガッチャと動きながら、鋼の剣を抜く。

 剣を構え、人間ではあり得ない動きをしながら俺に迫る。

 俺は両手のブレードを展開し、鋼の剣を受け止めた。


「っぐ……お、重っ!?」

「あはは!! さぁさぁ、まだまだ行くよ!!」

「っぐ……」


 カガリビは、俺と戦った時よりも速い動きで剣を振るう。

 俺は剣を躱し、ブレードで受け流しを繰り返す。そして聞いた……カガリビの身体の骨が軋み、肉が裂けて鎧の隙間から血が出ているのを。


「これ……おい!! カガリビが死んじまう、止めろ!!」

「はぁ? なに馬鹿なこと言ってるの?」


 カガリビは、限界を遥かに超えた速度で『操作』されていた。

 しかも、速度はまだまだ上がる。振り下ろした剣が庭石を粉々に砕き、カガリビの両腕もベキベキと音を立てて砕けた。それでも剣は離さず震え一つ起こさない。


「ふふ、大昔、捕らえた人間や呪術師をコマにして戦わせたなぁ……呪術師の連中、鎧の顔部分だけ見せてやると動きが鈍るんだ。かつての仲間が死体になってボクに動かされてるって気付いた時の顔、すっごくそそるんだよねぇ~……」

「あん。メタトロンってば、あんただけ楽しむのズルいぃ~」

「あはは、ごめんね姉さん。もうちょっと遊ばせてよ」

「…………」


 カガリビの両足がゴキゴキ音を立てて砕け、腰を捻っての横薙ぎで背骨が折れる音がした。鎧の隙間から血が流れ……おそらく。


「あれ?……ああ、死んじゃったかな。まぁいいか、ボクの『操作』は死体だろうと関係ない。さすがに原型がなくなると操作しにくいけど……予備はまだあるしね」


 メタトロンは、ダルツォルネと……ニーアを見た。

 この瞬間、俺は頭にきた。


「このや「うらっしゃぁぁぁーーーっ!!」え」


 ズドン!!と爆音がしたと思ったら……カガリビが吹っ飛んで壁に激突、鎧が砕けて動かなくなった。

 俺の背後から放たれた『蹴り』で吹き飛ばされたのだ。

 こんなことする奴は一人しかいない。


「なーんか楽しそうなことになってんじゃん!!」

「か……カグヤ」

「ぶぉっちゃむぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」

「レイチェルぅぅっ!!」


 カグヤ、そして涙と鼻水に濡れながらニーアの下へ向かうレイチェルだった。

 カグヤは長い銀髪を払い、俺と双子天使を見た。


「天使様ね……あんた、ほんとに戦りあってんのね」

「前にも言っただろ。つーかお前、怖くねーの?」

「はぁ? アタシ、いつか天使様と戦ってみたかったのよね。ねぇ、二人いるっぽいし一人譲りなさいよ」

「……っは、いいぜ。じゃあ二人でやるか」

「ん、いいわよ」


 俺は、ニーアを抱きしめ鼻水でベトベトにしているレイチェルに言う。


「おい、ニーアは任せたぞ」

「おい貴様、坊ちゃまの腕に傷が付いてるぞ……後で覚えてろ」

「あんた変わらないな……まぁ、なんかすっきりしたわ」


 俺はカグヤと並び、再び構える。

 カグヤも片足を掲げ、ババっと突き出して構える。


「相手は飛んでるけど、大丈夫か?」

「問題なし。あんたは?」

「…………」

「は、雑魚い。アタシが二人ともやっちゃおっと」

「は? ふざけんなお前」


 カグヤを睨む俺。

 サンダルフォンとメタトロンは特に表情を変えずに言う。


「姉さん、どうする?」

「別にどうでもいいわ。雑魚が増えただけじゃない」

「そうだね。あーあ、駒が壊れちゃった……仕方ない、ちょっとだけ本気でいこうか」

「そうね。天使の力、見せてあげようかしら」


 二対二……これで対等に戦える!!

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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