ホワイトパール王国の闇
ホワイトパール王国。
別名、宝石の国。鉱山採掘と宝石の加工が主な産業で、七大国の中で最も栄えている国である。
現在、この国の王であるホワイトパール55世は、病に瀕していた。
ベッドから起きることもできず、薬漬けになりながらなんとか延命している。その様子を見守るのは六人の兄弟たちだ。
「父上……」
「おお、マッケンジー……顔をよく見せておくれ」
「私はここにいます。国のことは安心してお休みください」
「兄上、そのセリフはまだ早いのでは? 父上、どうか安心を。このグレンドールがおそばに」
「あーら兄上。過剰な採掘と加工のせいで会社を潰したあなたが安心を口に? 父上、このフィニエがおそばにいますので」
「お姉さま、お姉さまも結婚と離婚を繰り返すアバズレと言われ民からの信頼がないじゃないですか。こんな人が王になったら国は終わり……父上、このマーナが付いてますゆえ」
「マーナ姉さん、鏡を見て言いなよ。そんなブッ細工なツラで王になれると思う? 父上、おっさんおばさんの時代は終わりました。このウィンダーに国はお任せを」
「やーれやれ……兄貴も姉貴も馬鹿みたい。この天才的頭脳を持つモンテリアなら、このホワイトパール王国を益々発展させることができますわ。父上、後のことはお任せを」
醜い争いだった。
長男マッケンジー、次男グレンドール、長女フィニエ、次女マーナ、三男ウィンダー、三女モンテリア。
ホワイトパール王国の王族にして王位継承権を持つ兄弟たちは、父の前で火花を散らす。
「う、げーっほげーっほ!! げっほ……がっは」
「「「「「「父上っ!? 大丈夫ですか!?」」」」」」
「あ、ああ……おや? あの子は……プリマヴェーラはどこに……? あの子に、会いたいのぉ」
「「「「「「…………」」」」」」
六人の兄弟たちは、互いに睨み合う。
心の中には、プリマヴェーラのしてやったり顔が浮かぶ。
自分がいなくなることで、六人の兄弟たちは醜く争うことだろう。そして、敢えて姿を消すことで自分の存在を浮かせることができる。現に、父である国王はこの場にいる六人よりも、姿を消したプリマヴェーラの行方を案じていた。
「父上……プリムは外出中で、近く戻ります」
「そうか……あの子の笑顔が、また見たいのぉ」
「……はい」
マッケンジーは、笑顔で王に応えるが……王はなにも言わずに目を閉じた。
そして、安静にすべきと医者が言うので退室。六人は言葉を交わすこともなく自分の部屋に戻った。
六人の心の中には、ニヤッと笑うプリマヴェーラがいた。
「「「「「「あのガキ……舐めたマネしやがって」」」」」」
もちろん、プリマヴェーラにそんな思惑はなかった。
◇◇◇◇◇◇
「……へくちっ」
「ん、風邪でも引いたか?」
「さ、さぁ……?」
「姫様!! 寒いのでしたら私を抱きしめて!!」
「アイシェラ、気持ち悪いから下がりなさい」
「うっ……ふぅ。ありがとうございます」
「なんでお礼なんだよ?」
「黙れ。貴様にはわからん。というかわからせてたまるか!!」
「うーん、あんたやっぱりキモいな」
◇◇◇◇◇◇
「……で、聖天使教会からの返事は?……そっか、天使様が来てくれるのね? じゃあプリマヴェーラを始末して。死体はホワイトパール王城の前に放置して。父上を散歩に連れ出して見つけさせる。ああ、そのままショック死するかもね……いいわ。そっちのが好都合。天使様の報酬はた~っぷり用意しといてね。え? 天使様はもう向かった? 仕事が早いわね……うん。任せるわ。死体の回収はあなたが責任を持ってやりなさい。加勢? お馬鹿。天使様に勝てる人間なんていないわ。そもそも、人間の持つ武器や魔法程度で、天使様に傷を付けるなんて不可能よ。ええそうよ。まずはプリマヴェーラから、次はいっっちばん邪魔なマッケンジー……くふふ。このフィニエが王になる日が来るわ。ふふふ……待っていなさい、プリマヴェーラ!! おーっほっほっほ!!」
◇◇◇◇◇◇
「さて、人間を始末する。でしたかな……簡単な仕事で助かります」
白い法衣を着た中年の男が、ホワイトパール王国の街道をゆっくり歩いていた。
和やかな笑顔は愛嬌があり、ぽこっと出たお腹やどっぷりした顔はどこか可愛らしい。どこにでもいそうな神官に見えるが、彼は違う。
「ふぅ……大陸の空気は不味いですな。さっさと仕事を終えて帰りたいですな」
口に手を当て、不快感をあらわにする中年。
すると、中年の周りに何人もの男が群がってきた。
「へへへ、ここを通りたいなら通行料金を払いな」
どうやら、この辺りでカツアゲをしているチンピラだ。
中年はチンピラたちの身なりを見て、顔を渋くする。
「汚物。やはり人間は汚い……家畜にすべきであり、天使が管理すべき存在ですな」
「なんだぁてめぇ!? よし決めた。てめぇは身ぐるみ剥いで裸にして磔決定ぇぇ!?」
「「「「「すっぱだか!! すっぱだか!!」」」」」」
「品もない……ダメですな。もう臭くて気持ち悪い」
「あ? てめ――」
スパン……!!
チンピラの首がコロッと落ち、噴水のように血が噴き出した。
「汚物掃除は豚に任せたいのですが……参りましたな」
聖天使教会所属天使・モーリエは、ハンカチで口を押さえながら『汚物』の処理を開始した。