BOSS・レッドルビー王国第二皇子カガリビ
カガリビはナイフを右手で逆手に持ち、左手を背後に回す。すると左手には見慣れない形の銃が握られていた。
俺がブルーサファイア王国でもらった銃より大きく、筒の部分が妙に丸くなっている。
右手でナイフをもてあそび、左手で銃をクルクル回転させた。
「天使様。先ほどの発言ですが」
「ああ、フレアを倒したらきみをこの国の王にしてあげよう。望むなら邪魔者も全て消して、この国をきみの色に染めるといい」
「……っ!! わかりました」
メタトロンの返答にカガリビは歪んだ笑みを浮かべる。
双子天使は庭園のアーチの上に座り、俺たちの戦いを観戦していた。
俺はニーアを近くの茂みに移動させ、呪符を取り出す。
「『自己修復』……どうだ?」
「あ……い、痛みが弱く」
「すぐに治る。いいか、じっとしてろよ……すぐに終わらせるから」
「で、でも、フレアさん……王候補と戦うなんて、国家反逆罪に」
「お前、難しい言葉知ってんだな……でも、関係ない。王だろうが天使だろうが神だろうが、お前を傷つけた野郎はぶちのめす」
俺はカガリビに向き直り拳を握る。
双子天使は『戦い』を希望している。背中を向けていたのに奇襲がなかったのは空気を読んだのか。
まぁ……どうでもいい。ダルツォルネは跪いたままだし、まずはカガリビからだ。
「あんたさ、気付かないのか? やってることめっちゃ小物っぽいぞ」
「ふん。ガキにはわからんよ。それにお前も気づいちゃいねぇ」
「あ?」
「わしの名はカガリビ……かつて最上級冒険者にまで昇り詰めた、レッドルビー王国最強の一人よ」
「…………ふーん」
俺は甲の型で構える。
カガリビはナイフと銃を構えた。
「レッドルビー王国第二王子カガリビ……いくぜ」
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。お前呪って……いや、むかつくからぶん殴る」
天使の見世物ってのは気に食わないけど、この小物野郎はぶちのめす。
◇◇◇◇◇◇
「いくぜ……!!」
ちょっとデブってる体型のくせに、アクロバティックな動きで迫ってきた。
しかも、ナイフをいきなり投擲……狙いは顔面。
俺は首を傾けてナイフを躱す。カガリビは腰から予備のナイフを抜き、俺の間合いに入ってきた。
「ヒャァァッ!!」
「──っ!!」
ナイフをクルクル回転させながら斬り付けだ。俺は両手の仕込みブレードを展開して躱しきれないのを受ける。
そして、俺の体勢が不安定になった瞬間を狙って銃を発砲。狙いは身体のどこか……なんとか身体を捻って躱すが、おかしいことに気づく。
「なんだ、その銃……っ!?」
「はぁっ!! 最新式の『回転式』だ!! 六発連続で発射できる、レッドルビー王国の技術で作られたモンだぜっ!!」
「くっ……」
銃もだが、ナイフも馬鹿にできない。
右腕の使い方が抜群にうまい。肩、肘、手首、指……可動できる部分をフルに使い、信じられない軌道と速度で正確に俺を斬り付けてくる。
素人の二刀流より速度は上、下手すりゃ二人がかりの四刀流だ……これほどのナイフの使い手、初めて会ったかもな。
「ヘイヘイヘイィィィーーーっ!!」
「…………」
だが、俺は冷静に対処する。
ナイフ、そして銃。確かに接近戦でこれほど戦える奴はいないだろう。さっき戦った冒険者四人組よりも強いかもしれない。
撃ち終わった銃を投げ捨て、新しい銃を腰から取り出す。そうだ、こいつ倒したら投げ捨てた銃もらっちゃおうっと。
「どうしたどうしたぁっ!! おめーの実力はそんな「じゃ、俺もいくぞ」へぶぁっ!?」
俺の拳が、カガリビの顔面に突き刺さった。
カガリビの鼻から鼻血が出る。
「っぷぁ……ほまえ」
「あんた、確かに速いよ。ナイフの使い方とかマジですごい。でも……もう見切った」
「なっ……」
「気づいてるかどうか知らんけど、あんたのナイフの軌道読みやすいんだよ。俺なら数手先まで読めるし、躱すのも苦じゃない」
「ふ、ふざけたこと抜かすんじゃねぇ!!」
「じゃ、来いよ……ほれほれ」
俺は仕込みブレードをしまい、カガリビを手招き……そう、バカにしてます。
カガリビは赤くなり、銃をしまってもう一本ナイフを取り出す。そして、俺に向かって不規則な軌道でナイフを振りかざした。
「くらえぃぃっ!! 『ナイフダンス』!!」
「流の型、『流転掌』」
俺はカガリビのナイフを全て捌く。
右手だけじゃなく左手でもナイフを振う。でも、こいつのナイフの使い方はもうわかった。
俺は迫るナイフを腹を軽く叩き、全ての攻撃を受けては捌く。
「ぐっ……おぉぉぉぉっ!!」
「だから無理だって。じゃあ終わらせるか」
「──ッ!?」
ナイフの腹に拳を叩き込むと、ナイフは砕け散った。
カガリビはナイフを捨て両手をズボンに突っ込む。すると両手に銃が握られていた……が、もう遅い。
「流の型、『白蛇氾濫』」
「ごっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺の両手がカガリビの両手首に絡みつき、手首と肘関節を絡んで外す。
ゴキゴキッと音がすると、カガリビの両手から銃が落ち、だらりと垂れた。
そして、とどめの一撃。
「滅の型、『百花繚乱』!!」
「ぶごぼぼぼぼっ!?」
顔面だけを狙った高速の連弾がカガリビの顔面を潰し、歯が折れて顎にヒビが入り鼻も曲がった。
カガリビは気絶……そのまま背後にドスンと倒れて気を失った。
「押忍!!」
カガリビを倒した……が、別になんの感情も浮かんでこない。
なぜなら、こいつは準備運動。真の敵はこれからだ。
「わぁお! 見た見たメタトロン! 呪術や炎を使わないで倒したわ!」
「そうだね姉さん。まぁ、こいつじゃフレアに傷一つ付けられやしないと踏んでいたけど……次はどうかな?」
そして、跪いていたダルツォルネが立ち上がる。
俺は瞬間的に感じていた……ダルツォルネは強い。
「ほらあんた、頑張りなさいよー!!」
「姉さん、静かに……どうやら互いにわかってるようだね」
俺は無言で構え、ダルツォルネも無言で構える。
久しぶりに、本気で戦えそうだ。




