てのひらの上で
天使を殴りまくってレッドルビー王城まで進む。
でっかい門が開いてたので中へ。驚いたことだが、レッドルビー王城は浮島の上に建っていた。周りがオアシスになっていて、たくさんある水路から町中に水が送られてるようだ。
天使は、上空からワラワラ落ちてくる。
「第一地獄炎、『呪炎弾』!!」
両手の指を立て、赤い炎の弾丸を発射……天使は火達磨になって落ちてくる。
オアシスに落ちる前に天使は燃え尽きる。人々の飲み水にもなってるオアシスの水に死体を落とすわけにはいかないからな。
「くっそ、ニーア……どこだ」
王城へ続く橋の上。俺は頭を掻きながら歯軋りをする。
守るって言ったのに……なんて失態だ。もし先生が見たら蹴り殺されるかもな。
とりあえず橋を渡り、王城の敷地内へ。
「……あれ、そういえば兵士とかいないのか?」
天使は出てくるのに、兵士はいない。
もしかしたら、天使が動いてるのかも。一国の城に乗り込んで兵士がいないなんてありえない。
いきなりの天使襲撃だしな……なんか嫌な予感。
「とにかく、探さないと……ん?」
ふと、気が付いた。
天使が急に襲ってこなくなった。そして、数人の天使が空の上から俺を見てる。
「呪術師、呪術師、呪術師」
「呪術師、呪術師、呪術師」
「な、なんだよ」
「「…………」」
「あ、待て!!」
天使たちはスイーッと飛んでいった。
俺は後を追う。城の敷地内を進み、広場っぽい場所を駆け抜け、建物が並ぶ屋根を駆け……俺がいた橋の反対側まで来てしまった。
天使は空高く飛んでいった……くそ、逃げられた。
「ちっくしょう!! ニーア……あ?」
この場所、なんかおかしい。
壁とわずかな地面だけだ。壁の向こう側はオアシスなんだけど……いや、おかしい。
「…………これ、地下か?」
地面の一部が蓋みたいになっており、蓋が開いていた。
いかにもな地下通路だ。覗き込むと血の匂いがした。
「…………」
なんか気持ち悪い……まるでここまで案内してくれたみたいだ。
「ま、行くけどな」
階段を降りると、血の匂いの正体が分かった。誰かに殴られたのか、冒険者っぽい奴らが倒れ気を失っていた。ひっでぇ、顔面陥没してるよ。
誰かがこの先に進んだ。冒険者ってことは、俺たちは襲った奴の仕業か?
まぁいい。俺の目的はニーアを探すことだけ。
「おーい!! ニーアぁぁぁーーーっ!! おーーーいっ!!」
俺は叫ぶ。すると……奥から人の気配がした。
◇◇◇◇◇◇
「いたぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」
「ふ、フレアさん!!」
「やっと見つけたぞこんちきしょう……ああもう、心配させやがっ……って、誰?」
ニーアを発見した。
広い牢屋みたいな部屋で、おっさん二人と一緒だ。なんだこの状況は?
一人は白髪交じりの長い髪に立派な鬚をした男で、めっちゃムキムキだ。
もう一人は短い髪で帽子を被り、煙草を吸っている鬚親父だ。なんか態度悪そう。
すると、ニーアの隣にいた白髭が言った。
「お前がフレアか」
「え? ああうん」
「…………ふむ、強いな」
「えーと。あの、ニーアこっち来い……えー、では失礼します」
ニーアを手招きして俺の傍へ。
なんか嫌な予感がしたんでさっさとここから出ようとすると、黒髭の態度悪そうな男が言った。
「まぁ待て。わしも兄貴もお前に用がある。少し話をしようぜ」
「え……いや、なんで俺? ってか誰?」
首を傾げるとニーアが言う。
「第一王子ダルツォルネ様、そして第二王子カガリビ様です……フレアさん、ぼくのお母さん、この国の王族だったみたいです」
「は?」
黒髭が指をパチッと鳴らす。すると、背後から魔法陣が出現し天使が槍を構えて現れた。
「なっ……」
「兄貴、邪魔すんな。おい小僧、悪いようにはしねぇ……わしと一緒に来てくれや」
「……ヤダって言ったら?」
「天使様を呼ぶ。量産型じゃねぇ大物をな……」
「大物……わかった」
「カガリビ、貴様……」
「悪いな兄貴。わしはこの国の王になるんだ」
天使を燃やして逃げるのは簡単だけど、大物って奴に会ってみるか。
◇◇◇◇◇◇
ニーアとおっさん二人、そして天使と一緒に外へ。
どこで話をするのかなと思って歩いていると、城の中腹辺りにある大きな庭園に来た。途中、ニーアから大体の話は聞いた。まさかニーアが王族で、この国の王位継承権を持っているとは。
となると、ギーシュの手紙とか調査も怪しい……もしかして気付いてたんじゃねーか?って思うが、今は別にいいや。
俺はなんとなく聞いてみた。
「なぁなぁ、あんたら王様になりたいのか?」
「ちょ、フレアさん!?」
ニーアが仰天したが俺はどうでもいい。この国の王様候補と歩ける機会なんてないしな。
まず、黒髭……カガリビが言った。
「ああ。わしはこの国の王になる。七つの大国の最高権力の一つ……くく、わしが王になって最強の軍事国家を作る。そのためには兄貴をなんとかしなきゃならんのだ」
カガリビはニヤニヤしながらダルツォルネを見る……おお、喧嘩売ったぞ。
「くだらん。何が軍事国家……そんなくだらんことをするために貴様は王になるというのか、カガリビよ」
「くだらなくなんかねぇよ。男たるもの力を求めて何が悪い? 兄貴よ、あんたは強いが所詮は『個』の力。それじゃなにもできん……ジャランダーラの連中もいずれ屈服させてみせる」
「ふざけるな。今必要なのは『力』ではない!! 砂の王国は資源に乏しい。ジャランダーラの森人と話合い共に生きることが必要なのだ!!」
「奪えばいい!!」
「馬鹿を言うな!!」
うわー……俺とニーアのこと無視して喧嘩してるよ。
でも、なんとなくわかった。
「なぁ、ジャランダーラの人はみんないい人だぞ。変な掛け声は面白いし、ゴキブリに乗って移動するのはちょっとキモいけどな」
「……会ったのか?」
「うん。俺たち、森を通ってきたからな。ちょっといろいろあってジャランダーラの連中と戦ってな……認めてもらって、宴会までしたんだ。すっげぇ楽しかったぞ」
白髭……ダルツォルネは驚き、微笑を浮かべた。
あ、俺こいつ好きかも。
「やはり話せばわかる。わしは王になり、ジャランダーラの森人たちと和解する。カガリビよ、わしは本気だぞ……」
「ふん。いいだろう……」
「俺としては、白髭のおっさんが王様に向いてると思うなー。だって黒髭のあんたは悪人顔だし、言ってることめっちゃ小物っぽいもん。なぁニーア」
「ふ、ふ、フレアさん……相変わらずとんでもないですね」
クスクス────。
「あん?」
ふと、子供っぽい笑い声が聞こえてきた。
ダルツォルネとカガリビが青くなりその場で跪く。
わけがわからず、俺とニーアは空を見上げた。
「……なんだ?」
「て、てて、天使様……し、しかも翼がいっぱい」
「いちにーさんしー……翼が十枚か。ラーファルエルと同じだな」
同じ顔をした天使……男と女か。双子か?
ニーアも跪き、俺は天使を見上げていた。
「初めまして呪術師」
「初めまして呪術師」
「あたしはサンダルフォン」
「ボクはメタトロン」
「「聖天使教会十二使徒所属、美しき双子の使徒」」
なんか手を繋いでクルクル回りながら落ちてきた。
踊ってるみたいだ……十二使徒ってことはラーファルエルと同格。しかも二人か。
「この二人に天使を与えたの、お前たちか?」
「そうだよ。人間同士の醜い争いを見たくてね。見てただろう? 王になるとかくっだらない……王様なんて、ボクたち天使にお願いするだけの代表みたいなものなのにね」
「ふーん……で、俺と戦うのか?」
「もっちろん! あたしたち、そのために来たんだもの……と、言いたいけど」
サンダルフォンがにっこり笑う。そして……。
「まずは、この国の玉座を賭けて戦ってもらおうかしら! あんたとあんた、フレアを倒したらこの国の王様にしてあげる!」
「……は?」
すると、背後から殺気……俺はニーアを担いで横に飛んだ。
「チッ……避けやがった」
「あんた……」
カガリビがナイフを構え俺に斬りかかったのだ。
そして、血が流れた。
「うっ……」
「ニーア!?」
ナイフがニーアの腕を掠め、血が流れていた。
俺はニーアの袖を破り、腕に巻いて止血する。
「大丈夫か?」
「は、はい……っ」
俺はカガリビを睨む。
だがカガリビはナイフを構え、軽快なステップを刻む。この野郎、ナイフ使いか。
「おい小僧。大人しく死ねや……天使様、しかも十二使徒のお墨付きとなれば王になったも同然。余計な血を流さずに王になれるならテメェを殺すぜ」
「…………あんたもか?」
「…………」
ダルツォルネは、跪いたまま動かなかった。
拳を握りプルプル震えている……悩んでるのか。
俺はニーアから離れ、天使に言った。
「おいお前ら、こいつらぶっ飛ばしたら覚悟しとけよ」
双子はニヤニヤしている。
俺は構え、カガリビを迎え撃つ。




