襲撃
鉱石を換金し、宿に入った俺たちはのんびりくつろいでいた。
換金してすぐに食事したのでお腹がいっぱい……今日はのんびり休んでもいいかな。
俺はベッドに寝転び、ニーアは椅子に座って果実水を飲んでいた。
「はぁ~……眠くなってきたな」
「あはは。今日は休んで、明日になったら兵士の詰め所で情報を集めましょうか」
「そうだな。ま、なんとかなるだろ……くぁぁ」
俺は大きく欠伸をした。
シラヌイはラキューダと一緒の厩舎で寝てるかな。新鮮な野菜をいっぱい食べてたラキューダはご機嫌だったし、シラヌイものんびりしてた。
「フレアさん……」
「ん?」
「レイチェルとカグヤさん、絶対に見つけましょうね」
「おう。ま、そんなに心配すんなって。レイチェルの傍にはカグヤもいるんだ。あいつが付いてれば問題ないだろ。天使でも出ない限りな」
「て、天使って……」
「ははは。冗談だよ冗談。それより、もうそろそろ夕方か……晩飯どうする?」
「ば、ばんめしって……た、食べたばかりじゃないですか!?」
「いや、さっきのは昼飯。換金に時間かかって昼飯喰い損ねたからな。晩飯は晩飯で食うぞ」
「えぇ~……」
金は一杯あるから大丈夫。意外にも鉱石がいい値段で売れたからな。
「ニーアも食えよ? いっぱい食わないと大きくなれないぞ」
「う……が、頑張ります!」
「はっはっは────……」
「フレアさん?」
俺は、部屋の入口……ドアを見る。
妙な気配を感じてベッドから起き上がると、ノックもなしにドアが開いた。
「み、見つけた……見つけた」
「……あの、誰?」
見たこともない男だった。
三十代くらいの中年だ。腰に剣を下げ、俺とニーアを見て笑っている。でも、なんだか妙だ……目がカタカタして口がピクピクしてる。毒でも喰らったような男だった。
ニーアの前に立つと、男が叫んだ。
「見つけたぞ!! こいつだ、こいつが白金貨五十枚だぁぁぁぁーーーーーッ!!」
白金貨五十枚?
そう質問する前に、男は俺の横をすり抜けニーアに向かって飛びかか────。
「いや、させねーから」
俺の突きが男の側頭部に突き刺さり、男は壁にぶつかった。
ニーアは怯えて青くなる。
「ふ、フレアさん!? な、なにが」
「わからん。お前の迎え……ってわけじゃなさそうだな」
男は気を失って倒れた。
白金貨五十枚ってどういうことか聞こうと思ったのに……うーん、なんか嫌な予感。
「……なんか妙な感じがする」
「ふ、フレアさん……そ、外、外が」
「外?」
嫌な予感がして窓を開けると……宿屋の下に妙な連中がわんさか集まっていた。
窓を開けた瞬間に集まる視線……これ、絶対俺たちを見てるよな。
すると、またもや入口から人が。今度は二人だ。
冒険者1、冒険者2ってところか。
「こいつか。へへ、おい小僧、そのガキをよこしな」
「いや、なんで? あんたら、人の部屋に入って叫んでやかましいんだよ。俺たち、これから晩飯なんだけど……用事があるなら明日にしてくれよ」
「へ、おめぇも冒険者だろ? こっちは依頼なんだ。そのガキを連れてこいって言う、この町のギルド長直々のな」
「ギルド長がニーアを? なんで?」
「知るか。でもよ、報酬は白金貨五十枚だ……へへ、ガキ連れてくるだけで白金貨五十枚だぜ。こんな美味しい仕事はねぇ。素直に渡せば見逃してやる。抵抗するなら殺すぜ」
「…………」
殺す。殺すって言ったか?
ああ、そうかそうか。このアホ共のおかげでなんとなくわかった。
ニーアは狙われている。この町のギルド長とかいう奴に。しかも、冒険者への依頼って形でだ。
すると、もう一人の冒険者2が言った。
「おいガキ、等級は?」
「五等」
「は、新人かよ。新人が護衛依頼とは生意気だな。だが、その依頼はここで終わり。そのガキ渡してさっさと失せな」
「…………」
「それとも、やるかい? 町中の冒険者がそのガキを狙ってるぜ?」
「……何人?」
「あ?」
「ニーアを狙ってる冒険者、何人?」
「おいおい、おかしくなっちまったのか? この町の冒険者は二千人を超える。逃げ場なんてねぇよ!!」
「二千人ね……わかった」
ちょっとだけ安心した。
「ぶがばぁっ!?」
「なっ……」
俺は、最初に喋っていた冒険者1に飛び掛かり、顔面が陥没するくらいの威力でぶん殴った。
冒険者1が吹っ飛び、壁に叩き付けられて気絶した。
「お、お前……正気か!? そのガキを渡せばいいだけだぞ!? 素直に渡せばカガリビ様から報酬が出るし、ここまで連れてきたお前は冒険者等級が爆上がりするかもしれねぇ!! そのガキ渡すだけで美味しい汁が啜れるんだ!!」
「あっそ」
「し、新人の正義感って奴か……いいか、冒険者やるなら臭ぇ依頼ややりたくもねぇ依頼なんて山ほどある。お前がここで手を汚してもオレたちは何も言わねぇ。だから」
「もういいよ。説明長い」
俺は前蹴りで冒険者2の顔面を蹴る。すると、冒険者2は冒険者1に激突して気絶した。
俺は呼吸を整え、軽くジャンプする。
「ニーア、外に出るぞ」
「は、はい」
「たぶん、かなりの人数と戦闘になる。俺から離れるなよ」
「はい……なんで、こんなことに」
「さぁな。でも、おしゃべりな連中のおかげで少しわかった。カガリビとかいうギルド長がお前を狙ってる。なんとなくだけど……この国にいるっているお前の祖父も怪しい気がしてきた」
「…………」
「とりあえず、かかってくる奴はブチのめす……はぁ~あ、観光して美味い物いっぱい食いたかったけど、この国には長居しないほうがよさそうだ」
「…………フレアさん」
「じゃ、行くか。カグヤたちの情報は冒険者たちを叩きのめしながら手に入れよう」
「フレアさん!!」
「ん?」
ニーアは、袖をギュッと握る。
そして、俺の目をまっすぐ見て言った。
「ぼ、ボクを差し出せば……フレアさんは「はいそこまで」もがっ」
俺はニーアの口を押さえ、俺もニーアと目を合わせる。
「お前を差し出して金もらってさよなら……俺がそんな奴に見えるか?」
「もがが……」
「お前は俺が守る。お前のため、俺のため、プリムのため……それに、お前を守るってレイチェルと約束したからな」
「もが……」
「ま、たった二千ぽっちだ。昔、先生に連れられて大型ゴリラの群れに放り込まれた時なんて五千はいたからな。二日間不眠不休で倒したけど、あの頃に比べれば楽勝楽勝!!」
「…………」
あれ、なんかドン引きされてる。
「じゃ、行くぞ」
さーて、ひと暴れしますかね。




