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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第五章・砂漠の王国と双子天使

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天使の暗躍

第二王子カガリビは、『レッドルビー王国・冒険者ギルド』のギルド長室で、手駒の冒険者から報告を受けていた。


「げ、現在、冒険者七十名態勢でレッドルビー王国の入国者をチェックしています。ですが発見には至らず……」

「……そうかい。で?」

「え?」

「いつ見つかるんだ?」

「も、もうしばらくお待ちください。見つけ次第、報告を」

「……中は?」

「……はい?」

「中だよ、中。すでに入国しちまった可能性もあんだろ? レッドルビー王国の中も探しな」

「は、はいっ!!」


 冒険者は頭を下げ、ギルド長室を出ていった。

 カガリビは舌打ちし、ブルーサファイア王国から届いた手紙と、絵師が描いた似顔絵を見る。 

 小さな、女のような容姿をした子供だ。失踪した第十二王子……ニーアの母親を思わせる容姿。

 この子供に罪はないが、存在が明るみになれば少々面倒なことになる。


 王位継承権を持つダルツォルネとカガリビ以外の王位継承権。正式な手順を踏んでいないので継承権は放棄していない。捕まえて継承権を秘密裏に剥奪させるか、秘密裏に始末するかだ。

 カガリビとて慈悲はある。王位継承権を放棄さえすれば監視付きで生かしてもいい。


 現在、レッドルビー王国は、ダルツォルネ派とカガリビ派に分かれている。

 ここにニーアが加われば、ダルツォルネ派でもカガリビ派でもない人間がニーアを支持するかもしれない。そうなると王戦は荒れに荒れる。


 ニーアの存在を知っているのはカガリビのみ。

 ダルツォルネにニーアの存在が知られたら……厄介なことになる。


「ちっ……くっそ面倒くせぇな」


 手紙と似顔絵をテーブルに放り、煙草を吸おうと煙管に手を伸ばし────。


「ねぇ」


 背筋が凍り付くような感覚がした。

 ゾクゾクと背筋に冷水をぶっかけられたような感覚。

 声は背後から。

 武器。戦い。隙。好機。逃走。一瞬で様々な言葉がカガリビをよぎる。


「何もしないからこっち見なよ。ちょっといい話があるんだ」


 カガリビは、恐る恐る振り返る。

 窓枠に腰掛けるのは、聖天使教会のローブを纏った少年だった。

 ただの天使ならまだいい。絶対に言えることではないが、カガリビは下級階梯天使なら倒せると自分の実力に自信を持っている。

 だが、この少年は違った。


「じゅ……十二、使徒」


 聖天使教会の最高幹部にして最高戦力。聖天使教会十二使徒。

 無邪気な笑みを浮かべる少年は、カガリビに言った。


「ボクはメタトロン。ま、王族のキミなら知ってると思うけど」

「…………」


 自分の人生はここで終わるのか。

 天使は、人の依頼がなければ動かない存在ではなかったのか。人類の管理者でありヒトよりも上位の存在。聖天使教会へ依頼書を出し、報酬を支払い、初めて人の前に姿を現すはず。

 人間同士で争おうとも、我関せずを貫くはず。


「何にもしてないのに怯えないでよ。話すらできないじゃん……人間って本当にビビりだなぁ」

「て、天使様……いったい、どのようなお戯れでしょう」

「ん、ちょっと面白いことになってね。マキエルの奴がどうしてもっていうから聞いてやることにしたんだ。あいつは嫌いだけど姉さんが乗り気だからなぁ……ま、弟として姉には付きあわないとね」

「……???」


 何を言っているのかわからない。

 でも、これからメタトロンが言うことは、間違いなく厄介ごとだ。


「ボクたち、とある呪術師を探しててね……キミたちの探してるニーアって奴と一緒にいるみたいなんだ。捜索に力貸してあげるから、さっさと見つけてよ」


 メタトロンはパチッと指を鳴らす。すると、ギルド長室に魔法陣が展開し、そこから十名ほど、同じ顔をした天使……量産型天使が現れた。

 

「今回はちょっとルール違反しちゃうから、お詫びに少しだけ我儘に付きあってあげるよ。例えば……王戦とか」

「……っ!!」


 カガリビは、無意識に跪いた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

「……何者だ」

「あら。バレちゃった」


 レッドルビー王城、ダルツォルネの執務室。

 開けた窓からコソッと入り、執務机に向かうダルツォルネの背後から驚かそうと近づいた可愛らしい少女は、背後を見ずにかけられた言葉に拍子抜けした。

 少女ことサンダルフォンは執務机の正面に回り込み、十枚の翼を広げた。


「天使……」

「そ。わたしは聖天使教会十二使徒サンダルフォン。ちょっとあなたにいいお話を持ってきたの。ふふ、断るなんて答えはないと思うけど」

「…………」

「わたし、難しいお話は嫌い。マキエルの奴が変なこといっぱい喋ってたけど、面白くなるって言うからやることにしたの。それにはね、あんたの協力が必要なのよ」

「…………」


 ダルツォルネは、一筋の汗を垂らす。

 目の前の少女から、とんでもない圧力を感じた。

 若い頃はSレートの魔獣を単独で始末したこともあるが、その比ではない。自分が全力で戦っても勝てるはずのない敵だ。

 今、目の前の天使の機嫌を損ねてしまえば死ぬ。自分が死ねばレッドルビー王国がカガリビの物になってしまう。

 ダルツォルネは執務椅子から下り、サンダルフォンに跪いた。


「……なんなりとお申し付けを」

「あら従順。ま、いいわ」


 サンダルフォンは近くのソファに座り、大きく伸びをした。


 ◇◇◇◇◇◇

 

「さて、種は蒔いた。次は……少し遊んでもらいましょうか」


 マキエルは、レッドルビー王国上空から城下町を眺めていた。

 視線の先には、宿屋の厩舎にラキューダを預け、宿屋に入る二人の姿……フレアとニーアだ。 

 マキエルは指先から黒い靄を出し、上空から一滴落とす。

 水滴は落下し、カガリビの命令で町を探す冒険者の頭に落ちた。


「あ?……雨、じゃねぇな」


 そして、黒い水滴が小さな虫となり冒険者の頭を伝って耳の中に侵入した。


「っ!?」


 ビクンと、冒険者の身体が跳ねる。

 マキエルはそれを見て、にっこり笑う。


「少し、遊んでもらいましょうかね」

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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