マルチェーラの部屋
「ん……っくぁぁ~……あれ?」
眼を覚ましたカグヤが最初に見たのは、豪華なシャンデリアが吊された天井だった。
大欠伸をして身体を起こす。寝ぼけ眼を擦り、乱れた髪を適当に撫で付け、大きく伸びをして背筋を反らし……気が付いた。
「……ここ、どこ?」
やたらと大きなベッドの上にいた。
かなり寝ていたのか頭が回らない。窓から射す日の光がとても明るく、カグヤの意識は徐々に回復……そして、ようやく気が付いた。
「あれ、アタシ……服、あれ? 下着も……あれ!? は、裸じゃん!!」
カグヤは、生まれたままの姿で寝ていた。
部屋を見回すが、自分の着ていた服はない。自分で脱ぎ捨てた記憶もない。誰かに脱がされたとしか考えられず、顔が赤くなった。
そして、徐々に蘇る記憶。
「……アタシ、あの変な輪っかを持つ奴に喧嘩売って……ああ、そっか」
負けた。
カグヤは、変な輪っかを持つ奴……円剣のマルチェーラに負けたのだ。
そして、殺されることもなくこの場所に連れてこられた……裸で。
今気付いたが、身体からいい匂いがする。まるで香水のような甘ったるい香り。それに、髪はいつも以上にサラサラになっていた。
「起きた?」
「ッ!!」
突然、ドアが開く。
入ってきたのは円剣のマルチェーラだ。手には食事のトレイがあった。
同時に、カグヤのお腹が鳴る。
「ふふ、お腹減ったよね。ごはんの時間だよ」
「…………」
「それと、汚れてたから綺麗にしてあげた。ふふ、思った通りツルツルのスベスベ……身体もだけど、髪もとっても綺麗」
「……アンタ、アタシに何したの?」
「まだ身体を洗っただけ。お楽しみはこれから……」
「違う。アンタと戦ったとき、妙に身体がむずがゆかった……アンタの能力は『毒』、そうなのね?」
「んー……半分正解」
「あ?」
マルチェーラは、食事のトレイをカグヤに渡す。そしてマルチェーラは近くの椅子に座った。
パンとスープ、肉と野菜の炒め物に瑞々しい果物だ。お腹も減っていたので遠慮なく食べ始めるカグヤに、マルチェーラは少し驚いていた。
「あれ? 『敵の施しはうけない』とか言うのかなーって思ったけど」
「は? なにそれ? お腹も空いたしちょうどいいわ。ありがとね」
「……っぷ。変な子。そんなところも可愛い♪」
「あと、服返しなさいよ。あと装備」
「だーめ。この部屋にいる限りあなたは裸のまま。帰ってきた私を優しく出迎えて抱きしめるのが最初の仕事……もちろん、その後の仕事も用意してるわ」
「ふざけんな……ごちそうさ、まっ!!」
カグヤは食事を終え、トレイをマルチェーラに投げつけた。同時にベッドから飛び上がりマルチェーラに向かって蹴りを……蹴りを。
「あ、れ……っ?」
ガクンと、力が抜けてしまう。
そのまま床に崩れ落ち、妙な動悸がして全身がむずがゆくなる。
マルチェーラは妖艶に微笑む。
そして、崩れ落ちたカグヤの下へ向かい、そっと顎を掴んで自分に向き合わせた。
「もうあなたは私に逆らえない。わからない? とぉ~っても敏感になってるでしょ?」
「ッ……っく」
「教えてあげる。私の能力は『艶媚香』……私の身体から出るフェロモンを吸った者の感覚を操るの。あなた、接近戦が得意みたいだけど、私のフェロモンをたくさん吸ったみたいですぐに自由を奪えたわ。私に興味を抱かない人には通じないけど……あなた、私に興味津々だったみたいで安心したわ」
「こ、この……っ」
「これから時間を掛けて可愛がってあげる。まずはこの綺麗な身体……私色に染めてあげる」
「ふ、ふっざけんな!! アタシはそのケはないっつーの!!」
「ふふ、ほらベッドに戻って」
マルチェーラの手でベッドに戻されたカグヤ。
カグヤは、全身に力が入らなかった。多少は動けるがここから脱出は難しい。
そして、ようやく気付いた。
「……レイチェルは?」
「ああ、あの金髪の子? そこで寝てるわよ」
「え……」
窓際のソファに、レイチェルが横になって寝ていた。
カグヤのように裸ではなく、ドレスを着ている。
「綺麗でしょ? 光を当てると髪が金色の輝くの……まるでお人形さんね」
「趣味わるっ……つーか、ここどこよ?」
「レッドルビー王国。私の部屋よ」
「レッドルビー王国……先に来ちゃったか」
「ん?」
「ふん、別に」
マルチェーラは、ゆっくりドアへ向かう。
「じゃ、お仕事してくるね。帰ってくるまでいい子にしててね」
「うっさいバーカ!! あっちいけペッペッペ!!」
マルチェーラはクスリと笑い、部屋を後にした。
残されたカグヤはため息を吐き……窓の外を眺める。
「絶対にこんなとこ脱出してやる……!!」
空は蒼く、どこまでも澄んでいた。




