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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第五章・砂漠の王国と双子天使

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レッドルビー王国の王候補

 レッドルビー王国。

 ここには、『闘技場(コロッセオ)』と呼ばれる兵士たちの訓練場がある。

 立派な石造りで、獅子や竜の彫刻が飾られた伝統ある建物だ。ジャランダーラの部族が森を作ったように、砂の民であるレッドルビー人はこの『闘技場』を作り、大昔から『素手(ベアナックル)』の戦いをここで行い、その力を見せつけてきた。

 そして今、ここに一人の男が闘技場に降り立つ。


「…………」


 これでもかと鍛え抜かれた鋼の肉体、腰布だけを身に付け武器は何も持っていない。

 年齢は四十代と人生の半分を終えたところだが、未だその肉に衰えは感じられない。

 男の名はダルツォルネ。レッドルビー王国第一王子にして王位継承権を持つ者だ。


「開けろ」


 小さな声で呟く。

 すると、闘技場の門が開き……全長三メートルはある巨大な獅子が現れた。

 獅子の名は『レオファング』といい、冒険者ギルドが定めた討伐レートはB+……上級冒険者なら最低五名、最上級冒険者なら三名以上で戦うのが好ましい。

 だが、ダルツォルネは一人だった。武器も持たず、両手を静かに広げる。


「この戦い、この血、この勇姿を捧げる」


 ビキビキと筋肉が膨張したような気がした。

 この数日、レオファングは食事を与えられていない飢餓状態だ。目の前のダルツォルネはさぞかし脂の乗ったいい肉に見えただろう。


『ゴァァァァァァッ!!』

「来い!!」


 雄叫びを上げ、ヨダレを垂らしながら向かってきた。

 ダルツォルネは笑い、真正面からレオファングを受け止める。

 レオファングは飛び、大口を開けてダルツォルネの肩に喰らいついた。


「ぬぅぅぅぅぅ……ッ!!」


 血が噴き出た。

 肉が喰われる。だがダルツォルネは笑みを浮かべる。

 この痛みですら、ダルツォルネは捧げるものだと理解していた。


「獅子よ。貴様に罪はない……この牙の痛み、わが身にしっかりと刻んでおこう!!」

『ッ!?』


 ダルツォルネはレオファングの口を掴み力任せにこじ開けた。そしてそのままレオファングから離れ、右の拳をギリギリと握りしめて構えを取る。

 

「ふぅぅぅぅ……」

『ゴォルルルルルル……っがぁぁぁぁっ!!』


 レオファングは、再びダルツォルネに飛び掛かった。

 だが今度は違う。ダルツォルネの握った拳がレオファングの眉間に突き刺さった。


「『絶拳(ウルティマ)』!!」

『────』


 衝撃が頭蓋を砕き、脳を破壊、そのまま全身を駆け巡りレオファングは吹っ飛び……壁に激突。

 調べるまでもなく即死だった。

 ダルツォルネは亡骸を確認することなく、誰もいないはずの闘技場で呟く。


「獅子の亡骸は父と共に葬れ。あの世で母に自慢できるだろうからな」


 この日……レッドルビー王がその生涯を終えた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 レッドルビー王の死は、国中に広がった。

 国葬は滞りなく行われた。亡骸は燃やされ、その灰は王家の墓地に葬られた。

 国民、王族は悲しんだが……その悲しみはすぐに収まった。

 なぜなら、次の国王が誰になるか。その関心と不安と恐怖が悲しみを上回ったからだ。

 数十人いた王族も、命惜しさに王位継承権を放棄したり、決闘を申し込まれてその命を失ったり、毒殺や暗殺などの手にかかり、残りは二人に絞られていた。


 一人は、第一王子ダルツォルネ。

 武闘派で、若い頃は最上級冒険者まで昇り詰めた経験もある。その肉体は今も成長中で、今が全盛期とも言える無類の強さを誇る。

 王になると明言。レッドルビー王国軍の最高指導者という立場もあって、彼が王になると国民の半数がそう思っていた。


 もう一人は、第二王子カガリビ。

 こちらも武闘派で、レッドルビー王国の商業関係の仕事を一手に担っている、王国の金庫番だ。

 『カガリビが声をかければレッドルビー王国中の冒険者が駆けつける』と言われ、レッドルビー王国軍に対抗できるほどの実力者を集めた私設軍を持っている。

 国民の半数もまた、カガリビが王に相応しいと考えていた。


 第一王子ダルツォルネ、第二王子カガリビか。

 どちらが王になってもいい。だが、間違いなく血は流れる。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 レッドルビー王国・冒険者ギルド。

 レッドルビー王国で最も巨大な建物の最上階。この階層は全てギルド長の部屋になっている。そこに、逆立った赤い髪、眼帯、そして煙管を咥えた男が大きな椅子に座っていた。

 

「親父が死んだ、か……」


 レッドルビー王国冒険者ギルド長にしてこの国の第二王子カガリビ。

 彼は煙管をふかし、趣味の彫刻で使うナイフを取って軽く投げる。

 手首のスナップだけで投げられたナイフは矢のような速度で飛び、石の壁に柄の根元まで突き刺さる。


「わしが王になる時が来た」


 カガリビは、ぐちゃりと歪んだ笑みを浮かべる。

 レッドルビー王国の王。

 最高権力。ギルド長なんて地位よりも遥かに高い。


「ブルーサファイア、ホワイトパール、イエロートパーズ、グリーンエメラルド、ブラックオニキス、パープルアメジスト。そして、レッドルビー……七つの王国、至上の席の一つが、わしの手に」


 カガリビは、王になりたかった。

 レッドルビーは武力で最強。自分ならもっともっと強くできる。そしていずれは他国を……。


「まずは兄貴、そして羽虫……」


 カガリビのデスクには、一通の手紙があった。 

 印は、ブルーサファイア王国のもの。

 

「王位継承権を持つ王子がまだいたとはな。わしの覇道を邪魔するならガキでも容赦せん」


 その手紙には、ニーアのことが書かれていた。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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