ルート3/カグヤ・レイチェル④
「貴様ら!! ここはジャランダーラの神森であるぞ!!」
カグヤたちが休憩所から出ようとすると、鉱山入口から何人もの男たちがなだれ込んできた。
コクマは慌ててカグヤたちを止める。
「じゃ、ジャランダーラの戦士だ!! まずい、今出るとぼくたちも敵と見なされる!!」
「は? ぶっ飛ばせばいいじゃん」
「駄目だって!!」
「静かにしろ。様子を見るぞ……」
レイチェルがゆっくり入口から外の様子を窺う。すると、王国軍とジャランダーラの戦士が言い合いをしているようだった。
「砂の民め!! ここは我らがジャランダーラの……」
「黙れ!! ここはレッドルビー王国。全ての大地は国の物……」
「ここから去れ!!」「さもなくば……」「戦争……」
戦士と兵士の怒号はボルテージを上げていく。
そんな中、カグヤは落ち着いた様子で怒号が飛び交う中を観察していた。
「へぇ……」
カグヤの視線は、レッドルビー王国軍のマルチューラに向いている。
ぼーっとしているようだが、怒号が飛び交うこの状況を冷静に観察していた。兵士と戦士が一触即発の状況で、いかに有利に戦えるか。そんな風に考えている目だ。
「ねぇ、ここでアタシらが出たらどうなる?」
「そんなの決まってる。余計に混乱させるだけだ……今の状況でぼくらが出たら」
と、コクマの言葉は最後まで続かなかった。
カグヤが石を拾い、そのまま軽く投げたのである。
「え」
「なっ……」
コクマも、レイチェルもカグヤを止めることはできなかった。
止めるも何も、カグヤがこんな行動をするとは思わなかったのである。
石は高く上がり落下……落ちた先は、レッドルビー王国軍の兵士の頭上だった。
「っづ!? な、この……誰だ!!」
「黙れ砂の民!! この地から出ていけ!!」
「~~~っ!! この、痛ぇじゃねぇかこの野郎がぁぁっ!!」
「ごあっ!?」
兵士は、近くにいた戦士を殴った。
これをきっかけに、戦士と兵士たちが武器を抜いてぶつかり合う。
レイチェルはカグヤを睨んだ。
「貴様、何を考えている!!」
「決まってんじゃん。あいつらが戦ってる隙にここから出るのよ。ほらコクマ、案内しなさいよ」
「で、でも……出口はあそこしかない。脱走防止のために、入口と出口は一か所しかないんだ」
「ああ、じゃあ……この戦いが終わるまで出られないのね。というか、こんな状況だとアタシらの居場所もすぐにバレるわね……ほら」
「え……う、うわっ!?」
「くそ……カグヤ貴様、こうなることを」
「さぁね。アタシは強い奴と戦いたいのよ」
ラキューダに乗った円剣のマルチューラが、カグヤたちのいる場所をジーっと見ていた。
◇◇◇◇◇◇
「じゃ、アンタらはここに隠れてなさい。アタシは……遊んでくるっ!!」
カグヤは飛び出した。
狙いは円剣のマルチューラ。マルチューラはラキューダから下りると、ラキューダにぶら下げていた巨大なリングを取り、くるくると回す。
カグヤの襲撃などお見通し。そんなはずはないのだが……無表情なのでよくわからない。
ジャランダーラの戦士とレッドルビー王国軍の戦いの隙間を抜い、カグヤはマルチューラに向かって跳躍、飛び蹴りを放つ。
「神風流、『流星撃』!!」
「…………」
岩をも粉砕する鋭い蹴り。
マルチューラは半歩だけ横に移動し、流星のような蹴りをギリギリで躱した。
カグヤはマルチューラのすぐ近くに着地。そのまま回し蹴りを繰り出すが、マルチューラは後ろに倒れるようにして回避した。
ここで、レッドルビー王国軍とジャランダーラの戦士は、ようやくカグヤの存在に気が付いた。
「あなた、だれ?」
「カグヤ。奇襲みたいで悪かったけど、アンタと戦いたくて我慢できなかったの」
「ふーん……ふむふむ、お人形さんみたい」
「あ?」
「綺麗な髪、綺麗な目、綺麗な身体……精巧に作られたお人形さんみたいだなって」
カグヤの額に青筋が浮かぶ。
「遊びたいの?」
「うん。強い奴を見ると身体が疼いちゃうのよ。アンタ強そうだし、相手してくれる?」
「いいよ。私、強い女の子嫌いじゃない。連れて帰ってペットにしてあげる」
「はっ……」
カグヤは半身で構え、マルチューラは巨大リングを両手に持つ。
「みんな、私はこの子と遊ぶから。邪魔な奴はみーんな殺しちゃっていいよー」
「「「「「はっ!!」」」」」
マルチューラはレッドルビー王国軍兵士にそう指示した。
ジャランダーラの戦士たちも雄叫びを上げ、兵士たちとの戦いはさらに白熱する。
この状況を、コクマとレイチェルは見ていた。
「ああくそ……カグヤめ、面倒なことをして……!!」
「ど、どうします?」
「…………あいつを見捨てて逃げるのは簡単だが、坊ちゃまが悲しむな」
「で、では加勢を」
「バカを言うな。数人程度ならなんとかなるが、この人数相手では不利だ。円剣のマルチューラに数十人のレッドルビー王国軍、そしてジャランダーラの戦士……両軍から攻撃を受ける可能性もある」
「じゃあ……」
「今はここに隠れて様子を見る。まだ出るときじゃない」
「は、はい……」
レイチェルはため息を吐き、もう一度呟いた。
「全く、カグヤめ……面倒なことをして」
廃坑の戦いは、ますます過激になっていく。




