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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第四章・ジャングル/ジャランダーラ/怪しい学者

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ルート3/カグヤ・レイチェル③

 カグヤは、コクマの出した硬いパンを齧っていた。

 味が殆どない。はっきり言って美味しくないが食料は食料。レイチェルも同様にパンを齧り、水の入った瓶を豪快に飲み干す。

 コクマは、岩と岩の隙間に流れる湧き水を使い、瓶の中に水をためる。


「水源は生きてるようでよかった」


 そう言って、自身も水を飲む。

 ここは、鉱山跡地の休憩所。この鉱山で働く鉱夫たちの休む場所だ。

 広い横穴で壊れた……いや、破壊された椅子やテーブル、そしてベッドがいくつもある。コクマは壊れていない椅子とテーブルを起こし、埃を払う。


「さ、座って」


 最初の怯えが噓のように、コクマは笑顔を浮かべカグヤたちを席に促す。

 コクマは大きなリュックを下ろし、カグヤたちが座ったのを確認して自分も座った。


「で、きみたちはここでいったい何をしてたんだい? レッドルビー王国が定めた森を抜ける街道を踏み外せば、ジャランダーラが何をするかわからないよ」

「その、ジャランダーラってなによ?」

「そうか……レッドルビー王国民じゃないと知らないのか。ジャランダーラはこのレッドルビー王国内にある独立国だよ。この森を植えたとされる部族なんだ」

「へー」

「なるほど。知らなかったな……」

「アンタ、手綱握ってたのにそんなことも知らなかったの?」

「うるさい。お前こそレッドルビー王国に住んでるくせに知らなかっただろう」

「まぁまぁ」


 レイチェルは、自分の情報収集が甘かったことを悔いた。

 前の町では、フレアがオアシスを救った英雄ともてはやされて宴会ばかりだった。この森がどういう場所か住人にも確認していないし、街道を突っ切ればレッドルビー王国に到着するとだけ知っていた。

 まさか、森の部族やら鉱山やらがあり、部族の聖域になっているとは考えもしなかった。


「坊ちゃま……」

「ところでアンタ、『特異種』なんだっけ?」

「うん。ぼくは『隠蔽』っていう能力がある。と言っても、気配を薄くしたり足音を消すくらいしかできないんだけどね……視認されれば見つかるし、嗅覚の鋭い魔獣には簡単に見つかっちゃうし」


 コクマはあははと笑う。だがカグヤは侮らなかった。

 射程内に入られてようやく気が付いた。つまり、コクマが殺すつもりなら一手遅れで敗北する。

 

「でも、この能力のおかげでジャランダーラの神森を調査できる。匂い消しを身体中に塗って、ジャランダーラの建設した遺跡や鉱山、そして霊獣の住まう泉とか……ふふ、楽しいなぁ」

「どーでもいいけど、アタシたちの質問にも答えて。森から出たいんだけど出口どこ?」

「ど、どうでもいい……う、うん。えっと、出口はボクが案内してあげるよ。その代わり、少しだけ鉱山調査に付き合ってくれないかな?」

「……いいだろう」


 レイチェルは水を飲み干す。

 カグヤは意外そうに言った。


「へぇ、坊ちゃま坊ちゃまのアンタが、すぐに森を出てニーアを探しに行かないなんてね」

「確実な方法を選んだまでだ。坊ちゃまにはフレアが付いているし、森を抜ければ自ずと再会できるだろう」

「アイツのこと信用してんのね」

「……ああ。気に食わないところもあるが、坊ちゃまを守るという意志だけは私と同じだ」


 フッとレイチェルは笑った。


「じゃ、決まりだね。さっそく鉱山内を調査しよう」

「こんな鉱山になんかあんの?」

「砂漠じゃ採取できない鉱石でいっぱいだよ。ここはレッドルビー王国からも近いし、発掘再開すれば一大産業になるだろうね」

「ふーん……」


 と、カグヤの気配が変わる。

 レイチェルとコクマもカグヤの気配を感じ取った。


「どうした?」

「……ねぇコクマ、アンタさ……ここは誰もいないはずよね」

「え、うん。そのはずだけど」

「ふーん……」


 カグヤは立ち上がり休憩所入口に向かう。

 そして、自分の口に人差し指を当て、二人をゆっくりと手招きした。

 休憩所入口から鉱山内を覗くと、そこには……。


「アンタの友達?」

「……な、なんでここに」

「…………」


 カグヤが疑い、コクマが驚愕し、レイチェルは沈黙する。

 三人が見たのは、統率された動きで鉱山内に入ってきた団体だった。革鎧に剣と槍を装備し、むき出しの手足には刺青が彫ってある。

 コクマは小声で、怯えるように言った。


「れ、レッドルビー王国軍……しかも、あの刺青、『砂血のダルツォルネ』の鮮血部隊だ」

「なにそれ?」

「レッドルビー王国の王位継承者の一人で、最も国王に近いレッドルビー王族だよ……戦いと血が何よりも好きで、国王が死んだら真っ先に戦争を始めるって噂だ」

「……ッチ、胸糞悪い連中だな。なんでそんな連中がここへ来る?」

「……たぶん、鉱山資源を狙ってきたんだ。戦争するにもお金が必要だしね。ここにはまだまだ資源が眠ってるから。それに、新たな資源を見つければ国益にもなるしね」


 三人はヒソヒソ声で話す。

 すると、ラキューダに乗った若い女性が現れた。


「う、噓だろ……ダルツォルネの副官の一人、円剣のマルチューラだ……!!」

「誰?」

「円剣だよ円剣!! 最上級冒険者の一人にして『二つ名持ち』の冒険者だ!! 冒険者でありながらレッドルビー王国軍の副官を最年少で務める少女だよ!!」

「アンタ、いい解説になれるわね。で……どうすんの? このままひょっこり出て『じゃ、アタシらは失礼しまーす』って言って帰してもらえる?」

「……どうだろう」

「というか、あのマルチューラとかいう奴、かなり強いわね……闘ってみたい」

「おい、静かにしろ」


 レイチェルが二人を黙らせる。どうやらマルチューラとその部下の会話を聞いているようだ。


「鉱山……」

「はっ!! この鉱山は廃坑になってもう何年も経過しております。資源はまだまだ豊富です」

「ん、じゃあここを掘ればお金になるの?」

「はい」

「じゃあ、掘ろう」

「はい。ジャランダーラの邪魔が入らぬうちに作業を始めます。姫様、いざという時には」

「ん、わたしがみんなを守ればいいのね」

「はい。よろしくお願いいたします」


 どうやら、無断で発掘を行うようだ。マルチューラはその護衛らしい。

 コクマは考える。


「……これ、名乗り出れば意外といけるかも」

「マジ?」

「うん。ぼくはレッドルビー王国考古学院の研究者だし、きみたち二人はぼくの護衛ってことにしよう」

「だが、それでは貴様……無断でここに踏み込んだことを」

「咎められるだろうし、処罰もされるだろうね。でも、このまま隠れてても見つかるし、隠れるなんてやましいことしてるみたいでもっと疑われる。名乗り出れば大丈夫だと思う」

「ま、アタシは冒険者だから、アンタから依頼を受けたってことにすればいいわね」

「うん。じゃ、行こうか」

「……カグヤ、警戒をしておけ」

「わかってる」


 三人は、休憩所から出ていく────。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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