ルート1/フレア・ニーア③
「客人。ここがジャランダーラの町である」
「「おぉ~……」」
俺とニーアは、ジャングル部族こと『ジャランダーラ』の住まう町にやってきた。
道中聞いた話だが、このジャングルは『ジャランダーラ』という部族が植えた木が成長して完成した密林で、レッドルビー王国にありながら独立国であるらしい。
大昔、森の一部だけ街道を整備して砂の民(レッドルビー王国民)の通行を許可したが、それ以外の場所に立ち入ることは絶対にダメみたい。つーかレイチェル、そんなこと全然言ってなかったぞ。
俺とニーアはラキューダの背からジャランダーラの町を見る。
「なんか、町って言うか集落だな」
「ふ、フレアさん!!」
「ははは。正直者は神に好かれる。別に構わんよ」
「も、申し訳ありません。ウッポポムーさん。フレアさんも謝って!」
ラキューダの前を歩くのは、俺たちを襲ったジャランダーラの警備隊リーダー、ウッポポムーさん。
ごめん。人の名前を笑うのは礼儀知らずって教わったけど無理でした。ちょっとだけ笑った俺を許してください。
ウッポポムーさんは笑いながら言う。
「さて。まずは食事を用意しよう。その後、我らジャランダーラの長プッチョムキンに会ってもらおう。水の霊獣が認めた客人など珍しいからな」
「あのー、さっきも言ったけど」
「わかっている。君たちの仲間の捜索は、別の者に任せているから安心してくれ。このジャランダーラの森は我らの庭……すぐに見つかるさ」
「どーも。じゃ、肉食いたい!」
「ふ、フレアさんってば!」
案内されたのは、木の骨組みに泥を塗りつけたような家だった。
中は質素で何もない。大きな葉っぱの床敷きだけ。ま、俺は気にしない。
ウッポポムーさんはラキューダを外に繋ぎ、食事の準備をしに行った。
俺は葉っぱの上に寝転がると、シラヌイも寝転がった。
「あー……少しだけ疲れた」
「す、少しですか」
「それより、お前も座って休めよ。しばらくゆっくりできそうだ」
ニーアはちょこんと座り、大きく息を吐いた。
「レイチェルとカグヤさん……大丈夫でしょうか」
「ま、カグヤは強いから平気だろ。カグヤはアホだけどレイチェルがいるし、互いに足りない部分は補って進むだろうさ」
「はい……」
「ま、俺たちはここで待たせてもらおうぜ。レイチェルとカグヤを見つけてもらって合流、レッドルビー王国までの道を教えてもらって出発、って感じだな」
「はい」
いろいろ心配事はあるだろうけど、大丈夫だろう。
俺はシラヌイを撫でる。
「それにしても、お前のおかげだな」
『わう?』
「あの、水の霊獣だっけ? お前の友達か?」
『くぅん』
「首、傾げてますね……シラヌイ」
「言葉通じないからなぁ……ま、可愛いからいいや」
『わんわんっ!!』
俺とニーアは、しばらくシラヌイを撫でていた。
◇◇◇◇◇◇
水をいっぱい飲み、ウシみたいな魔獣の丸焼きを食べて元気になった俺たちは、ウッポポムーさんに案内されてジャランダーラの長がいる家に向かった。
家は泥を固めた家だが、俺たちがいた家より立派だ。
玄関の前まで来ると、ウッポポムーさんが手を合わせる。
「ウーッ……スポポイ!!」
「は?」
「入んな」
「は?」
いきなり奇声を発したかと思えば、家から『入れ』って聞こえた……なにこれ?
ウッポポムーさんは何事もなかったかのように俺とニーアを家の中へ。ニーアは困惑していたが、俺みたいに喋る度胸はないのだろう。
家の中は広く、一番奥に老婆が一人座っていた。なんか魔獣の骨やら磨いた石を繋いだ首飾りやらを付けてめっちゃ派手。しかも煙管でタバコ吸ってるし。
俺たちは婆ちゃんの前に座る。
「霊獣に認められし客人。腹は膨れたかい?」
「うん。あのさ、あのウシみたいな魔獣の丸焼きめっちゃ美味かった!! また喰いたい」
「きょぁっぁっぁ!! 威勢のいいガキだねぇ」
「婆ちゃんも、変な笑い方だな!!」
「ふ、フレアさん!!」
ニーアがボソボソ声で俺の袖を引っ張った……いや、今の笑い方面白くね?
婆ちゃんは煙管の灰を落として言う。見てるのは……シラヌイか。
「その子が、火の霊獣様かい。うぅん、純白の犬アマテラス……伝承通りだ」
「こいつはシラヌイ。俺たちの仲間だ」
『わんわんっ!!』
「ほぉ、そうかい。くく、水の霊獣様が認めるわけだ」
「んなことよりさ婆ちゃん。俺の仲間を探してくれてるんだろ? 見つけたらレッドルビー王国に行きたいんだけど、道を教えてくれよ」
「……砂の王国かい」
「うん。ニーアの爺ちゃんがそこにいるんだ」
「…………」
婆ちゃんは、煙管に新しいタバコの葉を入れて吸い始める。
「お前の仲間も見つけてやるし、道を教えるのもいい……でもね、今はあの王国に近付かんほうがいい」
「え、なんで?」
「もうじき、内乱が起きるからさ。あそこの国王はもうじき死ぬ……後釜を狙った王位継承権者どもがバカ始めるころさね」
「え、マジ? 王位継承権者って……プリムんとこみたいな感じか」
「プリム?」
「あ、こっちの話。ともかく、バカ始めるってのは?」
「戦争さ。砂の民は血の気が多い。次期国王は争いで決まるだろうさ。今の国王も、他の王位継承権者を一人残らず殺して王になったからねぇ」
「争いねぇ……話し合いとかダマし合いとかよりはシンプルだな」
「そうだね……」
婆ちゃんはため息を吐く。
「問題は、砂の民がこのジャランダーラの聖域を狙っていることさ」
「この森を?」
「ああ。砂漠の民からすれば、この森は資源の聖地さ。大量の木材、豊富な水資源、そして鉱山……かつて鉱山は砂の民に渡したモンだが、あまりに非道な奴隷制度を採用して発掘をしてたからね。奴隷たちが反乱を起こして廃坑になっちまったよ」
「へー」
「……あんた、ちゃんと聞いてるかい?」
「うん。婆ちゃんの愚痴なら」
「く、キョァァーッっぁっぁっぁ!! ホントに素直なガキさね。嫌いじゃないよ」
「どうも。なら夕飯はウシの丸焼きで」
「ああ、いいだろう」
「……フレアさん、ホントにすごいですね」
と、ここで婆ちゃんがニンマリ笑った。
「ところでボウズ、かなり強いみたいじゃないか」
「まぁね」
「うちの警備隊をほとんど一人で制圧したようじゃないか。ウッポポムーはジャランダーラでも上位の強さなのにねぇ」
「ふふふ」
と、婆ちゃんは煙管の灰を落としてパンパン手を叩く。すると、入口から屈強な男が入ってきた。
男は、俺をジロリと見て婆ちゃんの隣に立つ。
「ジャランダーラ最強の戦士アパパネパさ。どうだい、今夜の余興に一つ手合わせでも」
「ん、いいよ。メシと寝床のお礼だ。みんなを楽しませてやるよ」
「ちょ、フレアさん!!」
「へーきへーき。それに、こいつめっちゃ強そうだ」
アパパネパは闘気の塊みたいな奴だ。
レイチェルとカグヤを待つ間、退屈しないで済みそうだ。




