ルート3/カグヤ・レイチェル①
「ねぇ、こっちで合ってんの?」
「恐らく……くそ、お前が周囲の木を切り倒したおかげで道がわからない」
「なによ。アタシのせいだっての?」
「そうは言っていない。というか黙れ」
「あ? なにアンタ、喧嘩売ってんの?」
「いいから黙れ……食料も水もないんだ。余計な体力を使わせるな」
レイチェルとカグヤは、ジャングルを歩いていた。
カグヤが大量の木を切り倒したおかげで進むべき方向を見失った。フレアとニーアが消えた方角も、自分たちが来た道もわからない。足跡や車輪の痕跡も倒木によって消えてしまい、右も左もわからない状況だった。
しかも、荷物を全て失った。
地図も食料も着替えも、何より水も失ってしまったのは痛い。
フレアと違い、カグヤとレイチェルは水分が必要だ。カグヤは断食の修行、レイチェルは騎士団の遠征で食事を取らないで進む事もあったのである程度は耐えられる。
だが、水分と食事は絶対に必要だった。
「とにかく、ジャングルを脱出する。食料と水分の確保も同時に行うぞ」
「あいつら、大丈夫かな」
「……信じるしかあるまい。あの男をな」
「ま、あいつならなんとかしちゃいそうね。まーた魔獣に襲われてたりして」
「もし坊ちゃまに何かあったら……あぁぁ、私は、私はぁぁ……っ!!」
「落ち着きなさいよ。信じるって言ったばっかじゃん」
レイチェルとカグヤは、ひたすら森を進んでいく。
◇◇◇◇◇◇
「うっふゃやぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
「お、おい待て!! 私を置いて行くなぁぁぁーーーっ!!」
カグヤとレイチェルは、全力ダッシュしていた。
体力温存もクソもない。二人が全力ダッシュする理由は一つ。
「虫キモイいぃぃぃーーーっ!! こっち来んなぁぁぁーーーっ!!」
「待てぇぇぇーーーっ!! だから私を置いて行くなぁぁぁーーーっ!!」
二人は、巨大魔獣ハエに追われていた。
カグヤの実力なら百匹の群れで来ようと問題ないのだが、いかんせん気持ち悪い。カグヤは戦うことをせずに全力で逃げていた。
思った以上の虫嫌いであるカグヤ。
「ええい!!……よし、あそこだ!!」
走るレイチェルは、少し先に横穴があるのを見つけた。
二人は横穴へ向かって走る。ちょうど人一人が入れるほどの大きさで、穴に飛び込むと魔獣ハエは入口でビタッと止まるも詰まってしまう。
「うっげぇ……あ、あっちいけーっ!!」
「このっ!!」
レイチェルは剣を抜き、穴に詰まった巨大魔獣ハエをチクチク刺す。
それが効いたのか、魔獣ハエの群れは諦めて行ってしまったようだ……が、ここでさらに別の問題が発生した。
「……ねぇ、ここどこ」
「知るか」
「喉乾いた……あっつぅい」
「…………」
走ったことでかなり体力を消耗し、汗もすごくかいた。
着替えたいが服はない。喉が渇いたが水がない。腹が減ったが食料はない。
非常にマズイ状況だ。
レイチェルは座り込み、胸元をパタパタさせる。
「くそ……本格的にマズイ状況だ。とにかく今は脱出のことは忘れて水場を探すぞ。水分補給しなければ」
「…………」
「おい、聞いているのか?」
「ねぇ……ここ」
「?」
カグヤは、穴場の奥を見ていた。
そういえば、この穴場……成り行きで飛び込んだが。
奥行きがあり、風も吹いている。どこかに繋がっているのは間違いない。
「奥、かなり続いてるみたい……行ってみない?」
「なに?」
「なんかさ、アタシの勘が言ってるのよ。この洞窟、かなり面白そう!」
「面白そうって……あのな、今は水場を」
「いいから!! たぶんこの奥にあるわよ!!」
「お、おい!!……あぁもう」
カグヤはウキウキしながら洞窟の奥を目指して歩き出す。
レイチェルは頭を抱えつつも、カグヤの後を追った。




