ルート2/天使①
聖天使教会十二使徒の一人サンダルフォン。そして同じく十二使徒の一人メタトロン。双子の姉弟であり、単体ではなく二人そろって真価を発揮する特異な天使である。
二人は、聖天使教会本部の中庭で楽し気に話をしていた。
「姉さん、呪術師はレッドルビーにいるみたい」
「レッドルビー……砂の王国ね」
「どうする?」
「もちろん、遊びに行くわ」
「退屈だしね」
「ええ、退屈だし」
「「呪術師と遊ぼう。昔みたいに」」
サンダルフォンとメタトロンは手を繋ぎ、顔を近づけて同時に話す。
全く同じ顔。外見年齢は十六歳ほどで、見分けるコツはスタイルと髪の長さくらいしかない。
「姉さん。昔は楽しかったね」
「ええ。たくさんの呪術師と遊んだわ。殺して、殺されて、殺して、殺されて……楽しい時間はあっという間。今はとーっても退屈」
「でも、少しは暇つぶしになるかな?」
「なるわ。呪術師がいなくなって遊び相手は『堕天使』くらい。でもその堕天使も雲隠れしちゃって退屈な毎日。どうせなら派手に遊びたいわ」
「そうだね。じゃあどうする?」
「んー……考えるの嫌い。見つけたら派手に暴れる」
「いいね。姉さんのそういうとこ、ボクは大好き」
「私も、メタトロンが大好きよ」
姉と弟は手を繋ぐ。そして背中から十枚の翼を広げて飛び立った。
二人は踊る、天使のワルツを。
「あはは────」
「うふふ────」
同じ顔の双子は、これから来るであろう楽しい時を思い描く。
呪術師という、楽しい遊び相手が待つ場所へ。
パチパチパチ────。
と────突如、拍手が聞こえてきた。
「「?」」
二人は、ゆっくり地上を見る……そこに、いつの間にいたのか一人の男がいた。
真っ黒なスーツに身を包み、黒い手袋、黒い帽子を被っていた。
男はゆっくり顔を上げる……男の目は、糸のように細かった。
サンダルフォンとメタトロンは、露骨に顔を歪めた。
「マキエル……」
サンダルフォンにマキエルと呼ばれた男は、帽子を取って一礼する。
「お久しぶりです。サンダルフォンさんにメタトロンさん」
糸目の男ことマキエルは、優雅に一礼して帽子を被る。
メタトロンは嫌そうに言った。
「何か用? ボク、キミが大嫌いだから顔も見たくないし同じ空気を吸うのも嫌なんだ。姉さんもボクも気分が悪いし、さっさと消えてくれる?」
「おやおや手厳しい……ですが、そうもいかないのですよ」
「どういうこと?」
メタトロンは敵意すらみなぎらせる。
だが、マキエルはその敵意すら意に介さず、飄々としていた。
「あなたたちのトップとワタクシのBOSSの取り決めでして。例の呪術師を相手にするのでしたら、ワタクシが監視します。万が一の場合もありますのでね」
「万が一……?」
「ああ、そういうこと……あなた、私たちがラーファルエルの二の舞になると考えてるのね?」
サンダルフォンがそう言う。だがマキエルの表情は変わらない。
「その通りです。ところで、知っていますか? ラーファルエルの敗北、人間たちの間ではけっこう有名になっています。天使が人間に敗北、そして呪術師の存在が堕天使にも……興味本位で手を出して敗北すれば、天使を疎ましく思う人間や堕天使共が大喜びですねぇ」
「おい、口の利き方に気を付けろよ……ボクと姉さんが負けるとでも?」
「ええ。可能性は高いですねぇ」
マキエルがクスリと嗤うと、メタトロンの額に青筋が浮かぶ。
サンダルフォンはメタトロンの頭を撫でた。
「面白いわね。アルデバロンとあなたのボスがそんな話をするなんて」
「ふふ。そうですねぇ」
「いいわ。なら一緒に行きましょう。私とメタトロンが呪術師を倒す光景を見ていなさい」
「ええ。ああ、いざとなればワタクシも手を貸しましょう。天使に敗北は許されませんからねぇ」
「黙れ。お前なんかいらない。ボクと姉さんだけで十分だ」
サンダルフォンとメタトロンは再び空へ。そして、物凄い速度で飛んでいった。
マキエルは二人が見えなくなるまで見送ると、楽し気に嗤う。
「ふふ、楽しんでいるのはワタクシのほうですよ。件の呪術師と十二使徒の戦い。特等席で見物させてもらいますよ」
マキエルは翼を広げる。
その翼は、カラスのように真っ黒だった。




