ルート1/フレア・ニーア①
荷物は殆どダメになってた。
着替えとかは最初のほうで落下したためどこにあるか不明、食料の入った木箱はぶちまけ、水の入った樽は粉々……辛うじて残ってたのは水の入ったボトルが三本とニーアのリュックだけだ。
ニーアのリュックに水のボトルを入れ、俺とニーアはラキューダに跨がる。ちなみに、ラキューダには馬具が残っていたので手綱や鐙はちゃんとある。
「よーし、今度は暴れるなよ」
『ブルルルルッ!!』
「シラヌイ、お前は」
『わんわんっ』
シラヌイは、ラキューダの前を勇ましく歩き出す。どうやら道案内をしてくれるようだ。
道案内もクソもない。地図もないから進む方角はわからんし、レイチェルに聞いた話じゃこのジャングルはかなり広い。シラヌイの野生の勘に任せるほかない。
俺はニーアを背後から抱えるように手綱を握る。
「ニーア、大丈夫か?」
「はい。フレアさん、よろしくお願いします」
「おう。はは、今度は二人きりか……レイチェルの奴にうるさく言われそうだな」
「あはは。そうかもですね」
ニーアは、笑顔を浮かべてくれた。
ついさっき、死にそうな目にあったんだ。まだ六歳の子供だから怖いに決まってる。
出口もわからないジャングルで俺と二人、そしてラキューダとシラヌイだけ。食料もないし水のボトルが三本しかない状況だ。
「とりあえず、水場を探そう。シラヌイ、お前の勘で水場を探してくれ」
『わんわんっ!!』
「よろしくね、シラヌイ」
「うっし。じゃあ出発!」
シラヌイは地面をクンクン嗅ぎながらゆっくり歩き出した。
ラキューダも後を追い始め、なんとか進むことができた。
さーて、ジャングル脱出といきますか。
◇◇◇◇◇◇
『クンクン……わんわんっ!!』
ぱっからぱっからとシラヌイの後を追うラキューダ。
走っては止まって匂いを嗅ぎ、走っては止まって匂いを嗅ぐ。そうやって進むこと1時間……水のボトルは早くも一本飲み干してしまった。
「はぁ、はぁ……」
「ニーア、遠慮しないで飲め」
「でも、残り……」
「気にすんな。シラヌイが水場を探してくれるさ」
俺は二本目のボトルをニーアに飲ませる。
ニーアはくぴくぴ飲みながら俺を気遣ってくれる。
「フレアさん、水飲まないんですか? そういえば砂漠でもあんまり飲んでなかったような……」
「ああ。一週間くらいなら飲まず食わずでも平気なんだ。先生に鍛えられたからな」
「そ、そうなんですか? すごい……」
「っつーわけで、水はお前が飲め」
「は、はい」
とはいえ、水は残り少ない。
シラヌイに全てがかかっていると言っても過言じゃない。
「シラヌイ、頼むぞ……」
『くぅぅん……』
ラキューダは、ぱっからぱっからとシラヌイの後を追う。
◇◇◇◇◇◇
そして、ついに聞こえた。
「……ん!?」
「フレアさん?」
「シッ……聞こえる」
「え?」
「…………水の音だ!!」
『わんわんっ!! わんわんっ!!』
シラヌイが走り出した。ラキューダは慌てて後を追う。
そして、ついに見えた……大きな泉だ!!
「やった! 見ろニーア、水だ水!!」
「わぁぁ……やりましたね、フレアさん!!」
「おう……っ!!」
と、次の瞬間……俺は殺気を感じラキューダから飛び降りた。
そして、ラキューダめがけて飛んできた何かを素手で叩き落とす。
「シラヌイ、守れ!!」
『がるるるっ!!』
「え? え?」
いきなり飛び降りた俺、飛んできた何か、警戒するシラヌイに目を丸くするニーア。
シラヌイがラキューダの周囲をグルグル回り、怯えたラキューダは座り込む。
俺はニーアに向かって叫ぶ。
「敵襲だ!!」
そう、泉の周りに何かがいた。
飛んできたのは『矢』だ。正確にラキューダを狙って飛んできた。
俺は泉に近付き水に手を突っ込み、蒼い炎を燃やす。
「第二地獄炎、『ギコル・プリズン』!!」
泉の水がうねりを上げ、大量の水がニーアとラキューダを包み込む。
水は瞬く間に凍り付き、天然の牢獄となる。本来は対象を閉じ込める技だが、防御壁としても効果的だ。
そして、俺とシラヌイだけになると襲撃者たちが姿を現す。浅黒い肌に魔獣の革でこしらえた衣を着た部族みたいな連中が二十人ほど、骨で造った剣や弓を構えていた。
弓矢は俺とシラヌイを正確に狙い、剣を持った連中がジリジリと迫る。
俺は聞いてみた。
「なんだお前ら?」
「貴様。ここが我ら『ジャランダーラ』の聖なる泉と知って近付いたのか……砂の民め、我らの財宝は神々の物。人間や天使が触れてよい物ではない!!」
「は? じゃらん?」
「森を抜けるだけなら許す。だが、我らジャランダーラの領地に入るのなら容赦しない!!」
「え、あの」
なんか話通じねぇ……あーくそ、レイチェルがいればな。
俺は飛んできた矢を片手で掴み、無駄かもしれないが言う。
「あのー、俺たちさ、森の出口に行きたいだけなんだ。ちょっとだけ水をくれたらすぐに出て「かかれっ!!」……やっぱ無理かぁ」
ジャングルの部族が襲い掛かってきた。
仕方ない。とりあえずぶっとばすか。
「シラヌイ、やれるか?」
『ワゥゥゥッ!!』
シラヌイの四肢と顔の一部がボワッと燃え上がる。
俺も手をコキコキ鳴らし、襲い掛かってくる部族の迎撃を始めた。




