はじめてのおつかい
地獄門。
呪術師である俺の村が代々管理をしてきた。地獄門の先には地獄の炎が燃え盛り、炎を絶やさないように、千年に一度生贄を捧げなければならない。
家族もない俺は、生贄に志願した。
若い血肉じゃないとダメみたいだし、幸い俺は家族もいない独り身だ。俺が生贄に名乗り上げても誰も反対しなかったし、同世代の子供はどこかホッとしていたような気がする。
先生だけが反対した。でも……最後は折れた。
泣いてくれたのは、先生だけだったな。
俺は自らを生贄にした。
肉が燃え、魂が燃え……………………ることはなかった。
なぜか、俺の魂は燃えなかった。それどころか、逆に地獄の炎を魂で喰らったのである。
八色の炎を魂で喰らい、白い炎が俺の肉体を再び作り、目覚めたら……なんと、千年も時が経過し、俺の村は廃村になっていた。
不思議と、廃村を見ても悲しみはなかった。
村のために生贄になろうとした俺は死んだ。なら、地獄の炎を喰らって生き残った俺は……今度こそ、自分のために生きようと決意する。
まずは、村の外の世界を知るために旅にでることにした。
村の外から出て森に入ると、そこで出会ったのはホワイトパール王国とかいうデカい国のお姫様プリマヴェーラ。通称プリムと、その騎士アイシェラだ。
ながったらしい説明を簡潔にまとめると、プリムはホワイトパール王国の七番目の王位継承者。跡目争いが嫌で国を出たが、王位を狙う兄だか姉だかに狙われ、襲われていたんだと。
とりあえず、先生から習った呪術と格闘技を合わせた『呪闘技』で悪人を撃退。プリムに頼まれて、俺はこの二人の護衛になることにした。
目指すのは、西のブルーサファイア王国。
海に浮かぶ孤島らしい。ウミってのが俺は見たことがない。さっそく楽しい旅になりそうだ。でも……そう簡単にはいかないんだよな。これが。
俺とプリムとアイシェラの旅……早くも苦難が待ち受けていた。
◇◇◇◇◇◇
アイシェラの言った村に到着。宿屋に向かったらひと悶着あった。
受付のおっさんにアイシェラが食って掛かる。どうも宿泊するな出ていけ、みたいなことを言われているらしい。
プリムは歩き疲れて座り込み、俺は初めて見る故郷以外の文明に感動していた。
「な、何故だ!! 金なら払うと言っているだろう!!」
「悪いな。厄介ごとはごめんだ……帰ってくれ」
「厄介ごとだと? どういう」
「あのな、見るからにおかしいだろうが。銀ギラの鎧を着た女騎士、フリフリのドレスを着た少女、んで普通の男だ」
「どどど、どこがおかしいんだだ……」
「おおかた、どこぞの国のお姫様、それに付き従う女騎士、危ないところを救ってくれて護衛に採用した旅の少年ってとこだろ? 荷物も少ないし、襲われて逃げた先がこの村ってところだろうな」
「ぎぎぎぎっくりどっきぃぃぃっ!! ばばば、バカなことを言うなぁぁぁっ!! ひひ、姫様じゃない。姫様は」
「…………噓の吐けない堅物女騎士か。オークには気を付けな」
「なななななな」
受付のおっちゃんはシッシと手を振る。
よくわからんが、アイシェラが非常にバカっぽいというのはわかった。肩を落として戻ってくる。
「やっぱり野宿しかないじゃん」
「やや、やかましい!! 姫様、申し訳ありません……」
「……いえ。仕方ありませんね」
「……しゃーない」
俺は宿屋のおっちゃんに聞いてみた。
「おっちゃん。せめて食料だけでも分けてくれよ。迷惑はかけないからさ」
「……仕方ないな。弁当くらいは作ってやる」
「ありがと! あとさ、普通の服を売ってる店とかある? あの二人に似合いそうな」
「あー……道具屋にならあったかな」
「うんうん。ありがとう! アイシェラ、お金お金! お礼してよ!」
「な、貴様、勝手に」
「アイシェラ。支払いを」
「……承知しました」
宿屋のおっちゃんに弁当を作ってもらい、お情けで使っていない毛布を三枚もらった。
村から出てすぐの場所に、小さな洞窟があると聞いたので、今夜はそこで寝泊まりすることにした。
「プリム、歩けるか?」
「……」
「しゃーない。ほら、俺の背中に乗れよ」
「え、えぇぇっ!?」
「貴様!! 姫様の乳房をその背中で堪能するつもりだな!? おのれ、私が鎧を着ているからできないと知って……ゆるせん!!」
「アイシェラ、死んで」
「……うっ……ふぅ。ひ、姫様は私がお運びします」
「フレア、その……よろしくお願いいたします」
「おう」
「お前ら、頼むから外でやってくれ……」
宿屋のおっちゃんに睨まれ、俺たちは村の外へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
村から出て数分で、目的の洞窟に到着した。
奥行がほとんど無い洞窟だ。一日くらいならここで平気だろう。
俺は適当に薪を拾い、呪符を取り出す。
「『焼けろ』」
呪符が燃え、薪も燃える。
毛布を地面に敷き、プリムを座らせた。
かなり疲れているようで、気が抜けたのか今にも眠ってしまいそうだ。
「プリム、寝るならメシ喰って寝ろよ」
「は、はい……」
「アイシェラ、あんたも疲れただろ」
「大したことはない。その辺の凡人とは鍛え方が違う」
「そっか。それよりさ、宿屋のおっちゃんも言ってたけど、その鎧と服装、なんとかしたほうがいいと思うぜ。めっちゃ目立つ」
アイシェラは銀ギラの鎧、プリムは歩きにくそうなドレスだ。
村の中じゃめっちゃ目立ってたし、このドレスのせいでプリムは余計に歩き疲れている気がする。
「姫様から賜った『聖銀の鎧』を脱げだと? 馬鹿を言うな、この鎧は姫様にしか脱がすことのできない聖なる鎧だ。私はいつか姫様の手でこの鎧を……」
「わかりました。フレア、護衛としてお願いします……明日、村で私とアイシェラの服を買ってきていただけませんか?」
「いいよ。俺も金の使い方勉強したいしな」
「ふふ……」
アイシェラ、やっぱり疲れてるみたいだ。
態度に出さないけど、アイシェラも顔色が悪い。
メシを喰った二人は、あっという間に寝てしまった。プリムがアイシェラに寄り掛かり、アイシェラはハァハァしながら寝てしまったのだ。
先生との訓練で7日間不眠不休で修業したこともあるし、一晩程度の徹夜はわけない。見張りは護衛の仕事だ。
「あ、そうだ」
一つ、大事なことを忘れていた……二人は寝てるし、勝手にやっちまうか。
◇◇◇◇◇◇
翌日。俺は一人で村へ行く。
プリムとアイシェラのドレスと鎧を受け取り、毛布で包んでいく。プリムが毛布を体に巻いて恥ずかしそうにしてたし、アイシェラがガチな殺意をまき散らしていたのでさっさと服を買って戻ろう。
村の道具屋は、宿屋の向かい側に合った。
「こんにちは!」
「ん……いらっしゃい」
おばあちゃんが一人でやってる店みたいだ。
店を見渡すと、面白そうなものがたくさんある。鉈や鎌、鍋や包丁など、生活に必要なものばかりだ。少しの防具と武器、服や下着も扱っている。
「……あんた、昨日宿で騒いでた連中だね」
「あ、バレてます? あはは」
「ったく。うちに若い子が着るような服はないよ。お姫様や騎士が着るような流行の服が欲しいなら、西の町に向かいな」
「西に町があるんですか! へぇ……楽しみだなぁ」
「……あんた、そんなことも知らずに旅してるのかい?」
「あはは。田舎から来たんで……あ、そうだ。これ『シタドリ』? で、あとお金をください!」
「……やれやれ」
おばあちゃんの前にドレスと鎧を置くと、おばあちゃんは鎧をしげしげと眺めた。
「こりゃ買えん」
「え」
「これはミスリル聖銀だ。こんなもん買おうとしたら白金貨二十枚でも足りないよ」
「……えーと、ハッキンカ? ってなんです?」
「……嘘をついてる目じゃないね」
「あの、俺……田舎から来たんで、オカネのことよく知らなくて」
「……こんな立派なの買えない。それだけだ」
「えー……じゃあ、立派じゃなかったら?」
「は?」
俺は鎧を掴んでお手玉し、両手の拳を打ち付けるようにして鎧を挟み込んで殴る。すると鎧がひしゃげ、もはや鎧とは呼べなくなった。
「いってぇ~……これならどうです? 傷物だし、お安くなったんじゃ?」
「……あんた、バカかい?」
「え」
「っく、くくく……面白いガキだね。そうだね、傷物なら買い取ってやる。そっちの薄汚れたドレスと合わせて、大金貨百枚で買ってやるよ」
「やった!! で、ダイキンカってなんです?」
「っくくくくっ!! 馬鹿なガキは可愛いっていうしねぇ……少し、金のことを教えてやる。それと、旅をするんだろう? 適当な道具も見繕ってやるよ」
「おお! おばあちゃんありがとう!」
「……ふん」
おばあちゃんは、鍋や包丁、三人分の食器や下着、服を何枚か手直ししてくれた。
大きなカバンに道具を詰めると、古めかしい箱を出してきた。
「? なにそれ?」
「……あんた、武器は素手……いや、格闘術だろう?」
「え、わかるの?」
「ああ。立ち方や筋肉の付きをみればね。でも、それだけじゃ駄目だ」
「?」
「持っていきな。これはサービスだよ」
箱を開けると、中には小さな籠手が入っていた。
「……なにこれ?」
「あたしが若い頃に使ってた武器さ。あたしも格闘技をやっててね……だけど、格闘技だけと見せかけて、隠し武器をいくつも忍ばせてたもんさ。これはその一つさね。両手に付ける飛び出しナイフさ」
「おお、かっこいい」
先生のグラブを外し、おばあちゃんの飛び出しナイフを腕に付け、その上から先生のグラブを装備する。かなり軽く頑丈で重さも感じない。
手首を上に捻ると、刃が飛び出した。
「すっげぇ!!」
「いいかい、隠し玉はいくつか用意しておきな。戦場ではなにが切り札になるかわからないからね」
「うん! ありがとうございました!」
おばあちゃんに礼を言い、俺は店を後にした。
◇◇◇◇◇◇
「おーい、戻ったぞー!」
「あ、フレア!!」
「ふん、買い物くらいはできるようだな」
荷物を降ろし、中から着替えと下着を出そうとしたらアイシェラに殴られた。
「い、いってぇ……なにすんだ」
「ば、馬鹿者。これから履く下着を男が差し出してどうする!」
「いや、俺が買ってきたやつだし……」
「いいからあっちに行け!!」
後ろを向いていると、ガサゴソ音がする。
着替えが終わったのか、プリムが言った。
「フレア」
「ん、ああ。終わったか」
「ええ、さすがフレア。サイズがぴったりです」
「ふん。まぁいいだろう」
「よかった。昨日の夜計ってみたけど、ピッタリだな」
プリムはシャツとスカート、そして動きやすさを重視したブーツ。
アイシェラはシャツとズボン。ベルトには剣が差してある。
「旅の道具も見繕ってもらった。これで次の町に行けるな。あ、お金の残りを返すよ……って、どうした?」
「「…………」」
「おーい?」
「おい、お前……なんて言った?」
「え? 旅の道具も見繕って」
「ち、違う……その前だ」
「その前? ええと……ああ、昨日の夜計ったってやつか。それがどうした?」
「「…………」」
な、なんか怖い。
どうしたんだろう。いきなり黙って。
「ふ、フレア……あなた、計ったとは?」
「え? サイズだよ。昨日の夜、寝てる間に二人のサイズを計ったんだ。服のサイズ合わないとうるさそうだしね。服を脱がして、全身のサイズを計ったから、ピッタリだろ? 道具屋のおばあちゃんの裁縫の腕もかなりのもんだな!」
「「…………」」
アイシェラは無言で剣を抜き、プリムの目が光彩を失う。
「え? あ、あの? どうしたの?」
「貴様……み、見たのか? わ、私と、姫様の裸体を!!」
「え、うん」
「殺ォォォォォォォォォっす!!」
「はい!? ちょ、なんで!? おいプリム!?」
「フレア、死んでください」
「なな、なんで!?」
男と女の裸なんて大した差じゃない。故郷では男も女もみんな一緒に水浴びしたり着替えをした。そう言ったらめっちゃ怒ってた。
なにこれ、俺が悪いのか?
◇◇◇◇◇◇
「おい、お前さん……あの小僧に渡したのか?」
「ああ。面白いガキだよ。あたしの武具を上手く使ってくれると思うさね」
「やれやれ……ありゃ武器じゃなくて暗器じゃないか。かつて最強の女暗殺者と呼ばれたお前さんの、最後の想い出の品だろう?」
「構わんよ。あと数年で死ぬババァの墓に入れたってしょうがないもんだしね。それよか宿屋、お前さん……なんであの子たちを泊めなかった?」
「ほ、そんなの決まっとる。というか、気付かなかったのか?」
「……?」
「あの三人、誰かに付けられておる。それも、かなりの手練れじゃ」
「ほぉ……」
「村の中で戦争なんて御免だ。ようやっと手に入れた安住の地、壊されてたまるか」
宿屋のおっちゃんと道具屋のおばあちゃんは、二人仲良くパイプをふかした。