パーティ分断
俺はニーアを追って木の上を跳んでいた。
レイチェルたちとかなり離れているのがわかる。このままじゃマズイ……と、枝から枝へ跳び移りながらニーアとシラヌイを乗せたラキューダを追う。
そして、見つけた……爆走するラキューダだ。
「わぁぁぁぁーーーっ!?」
『わんわんっ!!』
「ニーア!! シラヌイ!! 待ってろ、今行く!!」
ラキューダ、かなり速い。荷台をぶつけながら走っているのか、車輪がガタガタになり積み荷がボロボロ落下している。
やばいな、食料を積んだ木箱や水の入った樽が落下してる……早く止めないと。
そう思い、枝から枝へ飛び移っていると────。
『キッキーッ!!』
『ウキキキキッ!!』
「なんだお前ら……邪魔だっ!!」
俺の左右、そして背後と上から、俺と同じくらいの大きさのサルが襲い掛かってきた。
サルにしては腕が長く、口からは牙が生えてやがる。
サルたちは俺を獲物と決めたのか、枝から枝へ跳び移り跳び蹴りをかましてきた。
「おわっ!? この……」
『キキーッ!!』『ウッキーッ!!』
両手で枝を掴んでスイング、そして勢いに任せての跳び蹴りはけっこう速くて鋭い。しかも足には鋭利な爪が生えており、スイングキックがこいつらの攻撃手段とわかる。
だが、その程度で俺がやられるわけがない。
「『腱鞘炎の激痛』!!」
『ウギッ!?』『ギギギッ!?』『ギャッギィッ!?』
両手に呪力を込め、飛んできたサルに触れる。
飛び蹴りしたサルは枝を掴むことができず落下。岩や地面に叩き付けられた。
ふふ、重度の腱鞘炎じゃ枝は掴めまい。
「おらサルども、邪魔すんなら……叩き落とすぞ!!」
『ッキ……ッ!!』『キキーッ!!』
サルたちは俺から離れた。どうやら知能はそこそこあるようだ……って、そんな場合じゃない!!
荷台はすでに限界だった。屋根がめくれ、蹲るニーアが見える。
興奮したラキューダはめちゃくちゃに走り回り、落下したサルを踏み潰す。
「くっそ……こうなったら」
俺は枝から枝へ跳び移り、右手を逸らして仕込みナイフを出す。
そして近くの木に絡まっていた蔦を切断、蔦の先端に斬った枝を巻き付ける。この作業、ニーアを追い枝から枝へ飛び移りながらやる俺ってすごい。
「よっし……ニーア、シラヌイ!! そのまま動くなよ!!」
「は……はいぃぃっ!!」
俺は全力で飛びラキューダを追い越し、持っていた蔦をぶん投げる。
蔦は近くの木の枝に絡まる。軽く引いて確認し、俺は向かってくるラキューダを見てタイミングを合わせた。
「行くぞ……っ!!」
俺は枝から飛び降りる。蔦を摑んだ状態でそして振り子のように揺れ、ボロボロになった荷台に蹲るニーアを掴んだ。
ニーアを掴んだことを確認したシラヌイは、なんと自ら荷台を飛び降りる……そうか、ニーアを守ってくれたのか。
「よっしゃ捕まえたっ!!」
「わぁぁぁぁーーーっ!!」
蔦が切れ、俺とニーアは空中へ。そしてニーアを抱いたまま着地。
岩を避けたラキューダに繋がれた荷台は、遠心力で岩に叩き付けられて木っ端みじんに。衝撃でラキューダの一匹が転倒、もう一匹はそのまま走り去った。
「大丈夫か?」
「は、はい。あの、ありがとうございます!」
『わんわんっ!!』
「いいって。よしよしシラヌイ、お前も……おっと、あいつもか」
俺はニーアを下ろし、倒れて気を失ったラキューダに近づく。
「おい、しっかりしろ……おい!!」
『ブルルル……』
「ったく、このアホめ」
ラキューダは無事だ。落ち着きを取り戻し、申し訳なさそうに俯いている。
ニーアも心配そうにして、消え去ったもう一匹のラキューダが消えたほうを向く。
「もう一匹は……」
「ま、速いし大丈夫だろ。魔獣が出ても上手く逃げるだろうさ」
「はい……」
ニーアは優しいな。死にかけたってのにラキューダの心配か。
ラキューダは俺とニーアにすり寄る。どうも暴れたことを反省しているようだ。
さて、どうするか。
「さーてどうするか。積み荷は全部おじゃん、地図もないしここがどこかわからない。レイチェルたちとはかなり離れたみたいだし……」
「うぅ……」
『くぅん……』
シラヌイはニーアにすり寄る。
ま、こうなったのは仕方ない。レイチェルにも言ったけど、先に進むしかない。
俺はニーアの頭を撫でる。
「とりあえず、使えそうなモンを拾っていくぞ。レイチェルたちと合流しなくちゃな」
「……はい」
「ほら元気出せって!! なんとかなるからよ!!」
「わわっ」
『わんわんっ!!』
『ブルルル!!』
俺、ニーア、シラヌイ、ラキューダ。
二人と二匹。さーて、さっさと行きますかね。
◇◇◇◇◇◇
カグヤはイラついていた。
「…………」
『ゲッゲッゲッゲッゲ……』
気色の悪い笑みを浮かべる八本腕の魔獣、そして魔獣から分離した手の魔獣だ。
手の魔獣は十体を超え、レイチェルが必死に相手をしている。
カグヤは、八本腕の魔獣を相手に戦いを繰り広げる……が、もう限界だった。
「レイチェル、こっち来なさい!!」
「なに?」
「いーから!!」
手の魔獣相手に剣を振るうレイチェルは、言われた通りカグヤの傍へ。
ちょうど、八本腕の魔獣から距離を取ったカグヤと合流、八本腕の魔獣と手の魔獣がゾロゾロ集まり包囲した。
「何をするつもりだ!?」
「面倒くさいから終わらせる。アンタはしゃがんでなさい」
カグヤは、右足を硬質化させ伸ばし、地面に突き刺す。足の先端が螺旋状になっており、回転することで地面に深く深く突き刺さる。
カグヤは独楽のように回転、勢いを増していく。
そして、左足が鋼のように硬くなり、脛の部分が刃のように変化。
回転したまま横蹴りの要領で足を数十メートル伸ばした!!
「裏神風流、『無双独楽』!!」
鋭利な刃となったカグヤの左足が、独楽のように回転。
八本腕の魔獣と手の魔獣は一瞬で両断。まるでだるま落としのように身体が斬られていく。
当然のことだが、魔獣たちは絶命した。
「ふぃぃ~……これ、目が回るのよねぇ」
「な、なんという……」
魔獣だけでなく、周囲の樹も両断……一帯が更地となった。
足を地面から引き抜いたカグヤは、絶命した八本腕の魔獣を見る。
「あーあ。生身で戦りたかったけど……仕方ないか」
「はっ……ぼ、坊ちゃま!! おい、すぐに坊ちゃまを追う……」
レイチェルは、気が付いた。
木々が倒れたことで、ニーアがどちらの方向へ行ったかわからない。
青ざめるレイチェルの肩を、カグヤが叩く。
「ニーアはフレアが追ったから平気でしょ。それよか……アタシらのがまずいじゃん」
「…………え」
「荷物、ぜーんぶあっちだよ? 飲み水もないし、ヤバいよ」
「…………」
レイチェルとカグヤ。二人のサバイバルが始まった。




