ジャングルの魔獣
砂漠のジャングル。
オアシスを基点として大量発生した木々や植物が爆発的に広がり、世にも珍しい砂漠のど真ん中にジャングルを形成したそうだ。
川も流れ、中心には大きな泉があるらしく、熱帯ということもあり魔獣や蟲にとっていい環境らしい。ジャングル内は危険な魔獣や独自の交配をして進化したキモイ虫がいっぱいいるとか。
このジャングルを越えればレッドルビー王国は目の前だ。だが、ここの魔獣平均レートはC~で、二等以下の冒険者では越えるのはキツイらしい……ま、俺たちには関係ない。
「貴様とカグヤがいれば、S~レートの魔獣でも対処できるだろう」
と言うのはレイチェルだ。
ラキューダが足下の小石や尖った枝をバキバキ踏み潰しながら歩き、荷台も難なく進んでいる。ちょいと揺れるようで、ニーアはくらくらしていた。
カグヤは荷台に乗っていたが、揺れるのが気持ち悪いようで荷台の背後を歩いている。俺は前、カグヤは後ろで警備も万全だ。
カグヤは、胸元をパタパタさせる。
「あ~……やっぱ蒸すわね」
「そうか?」
「あんた、暑くないの? この蒸し暑さ、たまんないわ……小さな虫も寄ってくるし最悪よ」
「俺は別に。一定の温度は感じるけど、それ以上は特に感じないな」
「いいなぁ……」
と、水のボトルをレイチェルからもらいグイっと飲み干す。
レイチェルはやはり厚着だ。汗もダラダラ流している。
「レイチェル、暑くないのか?」
「馬鹿者……暑いに決まっているだろう。だが、ジャングルの中には刺されたらマズい虫もいる……肌を露出するのは危険だ……」
「ふーん。カグヤは? 腹丸出しだけど」
「丸出し言うな。アタシは別に平気だしー」
「だってさ」
「あぁもう、暑いから話しかけるな……」
レイチェルはぐったりしてる。
それに対し、俺とシラヌイとカグヤは平然としていた。俺やシラヌイはともかく、カグヤまで平然としているのはすごいと思う。
『わんわんっ』
「わわ、シラヌイ?」
荷台の窓からシラヌイが飛び出し、俺の隣に並ぶ。
どうやら一緒に歩きたいようだ。ずっとニーアのお守りをしていたし、少しは運動したいのだろう。
俺はシラヌイを撫でる。
「ニーア、少しシラヌイを運動させるから」
「は、はい」
というわけで、シラヌイと一緒にジャングル歩きだ。
◇◇◇◇◇◇
歩き始めて数分、さっそく魔獣が出た。
「うっげぇぇぇっ!? ちょ、アタシはパス!! アンタに任せる!!」
「はいよー」
出たのは、デカいハエ。
一メートルくらいの大きさで、木に引っ付いていた。それが俺たちを見るなり襲い掛かってきたのだ。
いやはや、実に気持ち悪い。ブーンブーンと翅の音が聞こえる。
「殴るの嫌だな……ここは『ガァァッ!!』……え」
なんと、前足と後ろ足と顔の一部を炎で包んだシラヌイが飛び掛かり、ハエ魔獣のデカくて真っ赤な目に喰らいついたのだ。
『ブゥゥーン!? ブゥゥーン!?』
『ガルルルルッ!!』
「お、おぉ……すっげぇ」
シラヌイは魔獣ハエに噛み付き、目に炎を送り込む。
するとハエの動きが弱弱しくなり、そのままポトッと地面に落下……動かなくなった。
シラヌイはペッと口の中の残骸を吐きだすと俺に向かってきた。
『わんわん!!』
「シラヌイ、お前すげぇな!!」
『きゃうぅぅん……』
シラヌイを撫でると尻尾が千切れんばかりに揺れる。
未だにシラヌイの全身が燃えていたが、俺は構わず抱きしめ撫でた。
「お、おい……」
「あ、アンタ……」
「あん? なんだよ?」
「ま、前……」
「?……あ」
レイチェル、カグヤ、ニーアが青ざめていた。
前を見ると……いるわいるわ。木にびっしりとくっついている巨大なハエ魔獣。それだけじゃない、バッタやキモいムカデに羽虫……さすがに引いた。
「うっわぁ……」
『グルルルル……』
シラヌイはやる気満々。なら俺もひと暴れしますかね。
俺は指をパキパキ鳴らし、シラヌイと一緒に虫の大群に突っ込んでいく。
ちなみに、カグヤは全く役に立たなかった……。
◇◇◇◇◇◇
「うっげぇ……キモイ」
「ねっちょねちょだわ。しかも臭い……」
ジャングルが燃えることを心配し、最小火力で戦ったのが仇になった。
蟲を殴ると体液が出た。しかもその体液が臭い……俺とシラヌイはドロドロになる。
とりあえず全身を一瞬だけ燃やして体液を蒸発させる。シラヌイも同じように全身を燃やすと、臭いにおいと一緒に綺麗になった。
「服が燃えないのいいわよねー……」
「俺もそれは思う。親切な焼き鳥、マジでありがとう」
カグヤが羨ましがっていた。
俺としても、炎を出すたびに服が燃えてたんじゃ使いにくいったらありゃしない。
蟲の死骸も焼却したいが、ジャングルが燃える可能性があったので放置した。放っておけば大地に還るか、肉食の魔獣が喰らうだろうとのこと。
ラキューダは早くこの場から離れたくて仕方ないようだったので、先に進む。
「はぁぁ~……アタシも運動したいなー」
「次に魔獣出たらお前がやれよ」
「虫以外だったらね」
「フレアさん、ほんとにすごい……!! ぼくもあんな風に強くなりたいなぁ」
「坊ちゃま。野蛮なことはあ奴に任せ、いつまでもきゃわたんなままでいてくださいね?」
「きゃ、きゃわたん……レイチェル、ぼくは男だよぅ」
「きゃわぇぇ!!」
相変わらずレイチェルがやかましい。でも、レイチェルを見ているとアイシェラを思い出す。
プリム、元気かなぁ……アイシェラに変なことされてないかなぁ。
しばらく進んでいると、妙な気配がした。
「フレア……」
「わかってる。気を付けろ」
ぼり、ぼり、ぼり。
ぐっちゃ、ぐっちゃ、ぐっちゃ。
そんな、品のなさそうな音……咀嚼音が聞こえてきた。
ラキューダを止め、レイチェルは汗を流す。暑いからではなく、冷たい冷や汗だ。
ニーアは荷台の窓を閉めて震えていた。
俺とカグヤ、そしてシラヌイだけは臨戦態勢を取る。
そして、目の前の大きな藪をかき分けて『それ』は現れた。
『ぼり、ぼり、ぐっちゃぐっちゃ……』
「うわ、これはまた……」
「く、喰ってるわね……」
現れたのは、腕が八本ある巨人だった。
薄青の肌、八本の腕、ツノの生えた頭。喰っていたのは魔獣ハエで、頭から豪快に齧っていた。
『…………にちゃぁ』
八本腕の魔獣はハエを完食。俺たちを見てニチャアと笑う。
ああこれ、次のエサを見つけて喜んでる感じだ。
「約束、わかってる?」
「ああ、譲るよ」
「ふふん。じゃ、いただき!」
カグヤは屈伸して構えを取る。
八本腕の魔獣は腕を広げ、カグヤを食べようと襲い掛かってきた。
「神風流皆伝七代目『銀狼』カグヤ。いっきまーすっ!!」
カグヤも負けじと、八本腕の魔獣を蹴り殺そうと襲い掛かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名称・ヘカトンケイル
討伐レート・S+~
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