炎の在り方
オアシスの町で二泊してから出発した。
俺は町を救った英雄ともてはやされた。水で乾杯し、砂豚の肉を焼いて宴会を開いた。しかも水が冷えてて美味い! 第二地獄炎で凍った水はすこーしずつ溶け、町の人たちはこれから冷水を飲めることだろう。
樽にたっぷり水を入れ、氷を削って浮かべてあるからキンキンに冷えていた。
レイチェルは水を飲みながら手綱を握る。
「ふぅ、冷えた水は美味いな」
「ふふふ」
「なんだ貴様……恩着せがましい奴め」
「放っておきなさいよ、そんなやつ」
「…………」
レイチェルとカグヤ、いつの間にか仲良くなったのか……?
御者席に座るレイチェルと荷台の屋根に寝転ぶカグヤ。そしてニーアが荷台の窓を開け、シラヌイと一緒に顔を出した。
「フレアさーん、そろそろ休憩しなくて大丈夫ですかー?」
「ああ、まだまだ楽勝だ。お前は水分取って休んでろよー! シラヌイ、ニーアを頼むぞー!」
『わんわんっ!!』
「はーい! フレアさん、無茶しないでくださいねー!」
「おーう!」
そう、俺はラキューダ車を追いかけるように走っている。
荷台と並走し、砂漠のジャングルを目指して進んでいた。
「なぁレイチェル、ジャングルはまだかー?」
「まだ先だ。それに今日はジャングル手前で野営をして、ジャングルに入るのは明日だ」
レイチェルは前を向き、俺を見ずに答えた。
カグヤは欠伸をしながら言う。
「ジャングル……アタシ、入ったことないわ」
「そうなのか?」
「うん。だって虫いっぱいいるし……強い魔獣がいっぱいいるみたいだけど、キモイ虫の魔獣もいっぱいいるから嫌なのよ」
「虫の魔獣かぁ……」
「出たらアンタに譲るから」
「別にいいけど」
カグヤはそう言って荷台から飛び降り、俺の隣で走り出した。
「っと、身体も鈍るし少し走ろうっと! じゃ、競争開始ーっ!」
「あ、待てこら!」
「お、おい!! ラキューダが興奮するだろう!? おい!!」
「わわわっ!? あははっ、速くなったぁ!!」
カグヤが走り出し、俺が負けじと追い、ラキューダが興奮して俺たちを追い、レイチェルが手綱を必死で握り、ニーアが笑いだす。
旅はとても楽しく、順調に進んでいた。
◇◇◇◇◇◇
ジャングル前に到着。近くに川もあり、ジャングルに続いていた。
今日は水辺でキャンプ。砂豚の肉を焼いて冷えた水を飲む。オアシスの町ではあまり補給できなかったので、パンが残り少なかった。でも食べる!!
食事を終え、片付けを終える。
「レイチェル、水浴びしよっ!」
「ああ。では坊ちゃま、キレイキレイにしましょうね~♪」
「い、いいよぉ……ぼくはフレアさんと」
「だ~め♪ ささ、身体と頭と……あ、あそこも、お尻もキレイキレイぶっふぁぁぁぁっ!!」
「何アンタ……川が汚れるから鼻血止めなさいよ」
興奮したレイチェルが鼻血を噴き出した……こいつ、マジでキモイな。
すると、カグヤが俺を睨む。
「アンタ、覗いたら蹴り殺すからね」
「いや、興味ないし」
「……それはそれでムカつく」
「じゃあどうしろってんだよ……いいからさっさと行けって」
「ふん」
ニーア、レイチェル、カグヤの三人は水浴びへ。
俺はシラヌイと一緒に焚火に当たってのんびりしていた。
『くぅん……』
「あ、今日はお前も洗うからな」
『きゅーん』
「そんな声出しても駄目だぞ。ちょっと汚れてるし臭う」
『わんわんっ!!』
「はは、キレイにしてやっから」
俺は水を飲み、大きな欠伸をした────。
『────火火火、聞こえるか、兄ちゃん』
「……ん? この声……親切な焼き鳥?」
『だーれが焼き鳥だコラ』
すると、俺の右腕がボワッと赤い炎に包まれ、第一地獄炎の魔神器『火乃加具土命』が現れた。
声は魔神器から聞こえる。
『よぉ、久しぶりじゃねぇか。元気してるかい?』
「いやいや、なんで? 普通に喋れんの?」
『ああ。波長が合った時とお前が死にかけてるときだけな。今回はたまたま波長が合ったから話しかけただけ』
「ふーん……」
『火火火。驚かねぇの?』
「別に。今更だろ。ところでなんか用?」
『別に。波長が合ったから話しかけただけ』
「そうかよ。あ、そうだ聞いていいか? ラーファルエルと戦った時に言われたんだけど……俺の炎、ヌルいって」
『ヌルいねぇ……そりゃそうだ、第一地獄は不完全だしな。それに第二地獄炎、あのクソババァの炎も中途半端な覚醒だし』
「え」
『いいか、炎を使えばいいってもんじゃねぇ。魔神器を使えばいいってもんじゃねぇ。地獄炎はオレたち魔王そのもの。火火火……もっともっと、オレたちの力を引き出せば……』
「ひ、引きだせば……?」
『ま、面白いことになるだろうぜ。それと、オレや第二地獄炎のババァだけじゃない、他の連中も兄ちゃんに力貸してくれるかもな』
「え? また?」
『火火火、兄ちゃん、けっこう好かれてるぜ? 第三地獄炎のあいつも……っと────き────ら』
「あれ? おーい?」
『ああ────時間────じゃあな────』
次の瞬間、右腕が燃えあがり魔神器が消えた。
再度、自分の意志で魔神器を出してみたが『火乃加具土命』の声は聞こえなかった。
「……ま、いっか」
『くぅん?』
シラヌイを撫でると、顔を赤くしたニーアを連れたレイチェルとカグヤが戻ってきた。
「ふぃー、気持ちよかったぁ」
「坊ちゃま、ねんねしましょうねー?」
「ひ、一人で寝れるよぉ」
「お、戻ったか。じゃあ次は俺。シラヌイ、行くぞ」
『わんわんっ』
カグヤたちと交代で水場へ。
さぁて、シラヌイを綺麗に洗おう。
「…………」
ちょっとだけ気になった。
第三地獄炎……どんな炎だろう?




